2010年11月30日火曜日

いっちばん(畠中 恵) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

栄吉の菓子作り修行など個々の話は面白かったですが、今回はいつもにもまして若だんな周辺の動きが少ない感じです。周辺の色事はどんどん動いていく中で、肝心の主人公にはその気配さえなし。よく人気シリーズが成り立っているなと感心してしまいます。



前半が他愛もない話で、後半にかけてちょっと重めのテーマを持ってくるのが本シリーズのパターンですが、今回は若だんな本人の話が直接には絡んでこなかったので、ちょっと控えめな印象があるかもしれません。以下、各話の感想です。

■ いっちばん
妖たちが若だんなへの贈り物で競う一方、またしても日限(ひぎり)の親分に難題がもちかかります。いつもどおりの、なんということもない定番話ですが、こういう話がないと「しゃばけ」シリーズを読んでる気になりません。

■ いっぷく
新興の唐物屋2軒から勝負を挑まれる長崎屋。しかし、そのうち一軒のほうには、若だんなを知る人物がいるようで・・・。過去の登場人物が再登場という形ですが、あまり印象に残ってなかった人なのでちょっと微妙だったかも・・・(^^;

■ 天狗の使い魔
気がつくと夜空を飛んでいる若だんな。脅迫のネタとして天狗にさらわれてしまったのですが、事情をきいて大事にしたくないと思った若だんなが一計を案じます。本書で一番気に入ったお話し。

■ 餡子は甘いか
栄吉の菓子作り修行編。それにしても、彼の才能についてはとことん酷い書かれようです。後継ぎとして、菓子作りは誰かに任せて経営に専念すればよいのにと誰もが思ってしまいそうですが、それでも頑張る姿は健気です。ちょっぴり恋の兆しもあったりなかったり。

■ ひなのちよがみ
分厚い白粉の塗り壁を拭い去り、美人になってしまったお雛さんのお話し。相応な年頃の美人にも関わらず、栄吉の妹以上に若だんなとは何事もおこらなさそうです。オチのあたりは私的にちょっと微妙かもしれません。

こういうシリーズだと分かってはいますが、ほんとうに若だんな周辺は動かないですね。一層そういう目が完全にないとわかれば、潔く見切りも付けられるのですが、筆者の他の作品をみればそうでもなさそうなのがなんとも悩ましいところです。

評価:★★☆☆☆

2010年11月28日日曜日

ブログ開始半年のアクセスランキングトップ10(その2) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

前回の続きです。まずは、10位から4位までのランキングのおさらいです。

10位
天地明察(冲方丁)
9位
からくりがたり(西澤保彦)
8位
天冥の標 3 アウレーリア一統(小川一水)
7位
わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡1、2、3(塩野七生)
6位
利益相反(コンフリクト)(牛島信)
5位
最後の証人(柚月裕子)
4位
ストーリー・セラー(有川浩)

そしていよいよ第3位!


折れた竜骨(米澤穂信) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

中世ヨーロッパが舞台ということでもう少し重い話かと思ったら、そうでもありませんでした。ボーイミーツガールっぽい要素もあって、気持ちよく読める作品です。メインの仕掛けも秀逸。エンディングもお見事。文句ありません。



殺された領主の娘、16歳のしっかりもの「アミーナ」がヒロインにして語り手となります。一人称のミステリということで、なんとなく警戒心を持ちながら読んでいたのですが、結局最後は気持ちよく騙されることになりました。

探偵役は東方からやってきた「聖アンブロジウス病院兄弟団」の騎士「ファルク」とその従士「ニコラ」です。魔法を駆使する「暗殺騎士」を追ってきた彼ら自身も対抗魔法の使い手とのこと。

魔法の設定で制約条件をつけるやり方は西澤保彦さんみたいだなと思っていたら、案の定あとがきでも触れられていました。こういう特殊条件をつけるミステリというのは私の大好物です。

デーン人の襲来に備えて雇われていた傭兵たちも、色々事情を抱えたものばかり。それぞれの事情が解き明かされていくクライマックスシーンもさることながら、胡散臭さを一転させる戦闘シーンでの大活躍はみな素敵でした。特にコンラートが良いポジションのキャラだったと思います。

駄目兄貴「アダム」との後継者争いっぽい話も出るかと思いましたが、それは次回にお預けでしょうか。そもそもあの引き方、このタイトルで次巻がないとも思えないので、座して待つことにいたします。シリーズ物の成長物語になってくれるようだと嬉しいですね。

評価:★★★★★

2010年11月26日金曜日

トレードオフ - 上質をとるか、手軽をとるか(ケビン・メイニー) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

色々なビジネスの成功・失敗事例を「上質」と「手軽」のたった二つの視点から解き明かしています。セグウェイやスタバなどといった有名な事例が多く、切り口がとてもシンプルなためわかりやすかったです。



筆者の主張するところがあまりに明快なため、エッセンスだけ読み取ろうとしても退屈を感じるかもしれません。ポイントは内田和成氏の解説どおり
中途半端はだめ
の一言につきます。上質さか手軽さを適切に実現した成功事例と、二兎を追ったため失敗した事例が延々と紹介されていきます。

本書の面白さは、筆者の主張よりも事例紹介の豊富さにあると思ったほうが楽しく読めると思います。単純に成功した、あるいは失敗したケースだけでなく、ウォルマートやティファニーのように失敗しかけたけど軌道修正したような事例も紹介されています。

上質と手軽のどちらか一方だけを極めるのが成功の法則で、両方を同時に追い求める先に待っているのは「不毛地帯」しかないとのこと。この点、セグウェイやCOACHなどの既に失敗した事例だけでなく、たとえば中国のように将来の予測について語られている箇所もあります。

日本や韓国が「手軽さ」から「上質」に完全にシフトして成功したのに対し、いまの中国は人件費の面での「手軽さ」を維持しつつ、外国の「上質」を取り込もうとしている点に疑問を投げかけています。Kindleについても微妙な評価ですね。この予測がどう出るか、興味深いです。

「上質」or「手軽」というのは二項的でシンプルなものにみえますが、実のところはそうともいえません。手軽といっても安かろう悪かろうでは駄目で、最低限受け入れられる質の水準があります。また、テクノロジーやイノベーションにより、競争の条件自体がシフトしてしまうケースもあります。

そういった意味で、本書の単純な切り口には若干の欺瞞が入っているように感じられるところがなくもありません。ただ、現実的な問題として、難しく「上質」なマーケティング理論を理解する余裕のない私には、本書のメソッドのほうがはるかに「手軽」に指針を得られる糧になりそうだなとは思いました。

評価:★★★☆☆

2010年11月24日水曜日

華竜の宮(上田早夕里) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

魚舟・獣舟」の世界を舞台にしていますが、そちらを読んでいなくても問題ありません。大規模な地殻変動による人類存亡の危機という状況。スケールの大きいテーマの割りに、話の芯が全くぶれないのはとても私好みです。センスオブワンダーも半端ではありません。傑作です。



良いSF作品というのは内容の説明がしにくいものではないかと思います。裏表紙のあらすじから少し引用すると
陸の国家連合と海上社会との確執が次第に深まる中、日本政府の外交官・青澄誠司は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく、海上民の女性長(オサ)・ツキソメと会談する。両者はお互いの立場を理解し合うが、政府官僚同士の諍いや各国家連合の思惑が、障壁となってふたりの前に立ち塞がる。
たしかに間違ってはいないのですが、青澄とツキソメの魅力をこの文章だけから読み取るのは難しいでしょう。彼らはこんな感じの人物です。

青澄・N・誠司(あおずみ・えぬ・せいじ)。三十代後半。独身。海上民の生態や気質に精通し、抜群の交渉力を持つ。有能だが中央に疎まれるタイプで、世界各地を飛びまわされるも、本人はその境遇に不満を持っていない。大財閥の御曹司で、そのコネクションも時にはフル活用するが、最終的な公私の筋はきっちり通すお堅い人柄。

ツキソメ。さばけた気質の美女。大船団を率いるオサだが、強権派というよりは調整型の温和な人柄。ただし芯はとても強い。青澄より若く見えるが不老の噂あり。少なくとも、若澄はおろか船団の誰よりもはるかに年上らしい。彼女の出生の謎は、この話のキーポイントの一つ。夫と死別しており、彼女の魚舟である「ユズリハ」は夫から引き継いだもの。


魚舟とは海の民の兄弟たちが成長したもので、内部に居住空間を持つ大魚です。その魚舟から変質したものが獣舟で、何者の制御も受け付けない人類の敵となります。何を言ってるのか想像がつきにくいと思いますが、簡単に説明するのも難しいので、詳しくは本書もしくは「魚舟・獣舟」を読んでみて下さい。

あらすじにある陸上民と海上民の確執は、たしかに物語の重要な側面ではあるのですが、話はそれだけで終わる単純なものではありません。短期的、中期的、長期的な問題が次々と発覚していくなかで、青澄やツキソメはそれぞれの立場から解決を迫られていくことになります。

本書の素晴らしいところは、立て続けに様々な問題が発生し事態が複層的な様相を見せるなかでも、話の骨格がまったくぶれないところです。場面は時空を超えてあちこちに跳んでいくのですが、それらの問題は必ず青澄たちのもとに収束していきます。私は読書するときにあまり頭を働かせるほうではないので、こういうクリアなストーリはとてもありがたいです。

人によっては、そのぶれなさが無難に過ぎると感じる向きもあるかもしれませんが、私にはこのような端正な話作りがとてもあっているようです。ハードな世界を描きながらもどこか優しい感じのする文体。決して甘い結末とはいえなくても収まるべきところに収まったという納得感。全ての要素において私には最高の物語だと感じられました。

この話は、青澄にしろツキソメにしろ、あるいは行方不明とされているタイフォンにしろ、いろいろな点で含みを残した終わり方となっているように思えます。もしかして続編の可能性もあるのでしょうか。次は短編集でも面白いかもしれませんね。期待して待ちたいと思います。

評価:★★★★★

2010年11月21日日曜日

ブログ開始半年のアクセスランキングトップ10(その1) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

「一日一冊」をブログタイトルに掲げて半年間。なんとか頑張って200冊以上の本を読み遂げましたが、とうとう先週穴を開けてしまいました。多少無理してるところもあったので、これからは本業に差し支えない範囲で読書していきたいと思っています。

良い機会なので、今後は毎週一本くらい雑談記事も書いていこうと思います。今回は半年分の記事のアクセスランキングトップ10を公開します。ただしアクセス数はしょぼいので伏せさせてください・・・(^^;


第10位 天地明察(冲方丁) ★★★☆☆



記念すべきレビュー1冊目。期間が長い分、アクセス数が多いのはある意味当然でしょうか。1冊目はそれなりに格好のつく作品にしたいと思って本書をチョイス。初っ端なので基準にしようと★3とつけましたが、その後の評価は結構ぶれまくりな気がします・・・(- -;


第9位 からくりがたり(西澤保彦) ★★★☆☆



弱小ブログなので、誰でも書いてるような記事にはなかなかアクセスがきてくれません。本書のように、ある程度知名度はあるけれど大ヒットというほどでもない(ごめんなさい><)作品だと、検索1ページ目に出てきてくれることがあり狙い目となります。もっとも、そんなこと気にして本を選んでるわけではありませんが。読みたいものを読むというスタンスでないと、なかなか続きません。


第8位 天冥の標 3 アウレーリア一統(小川一水) ★★★☆☆



シリーズ物については1冊目からレビューを書くべきなのか迷いましたが、切りがないので途中からでもそのまま書いてしまうことにしました。本シリーズも段々と輪郭がみえてきて、やはり読了直後の熱のあるうちだと記事も書きやすいです。


第7位 わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡1、2、3(塩野七生) ★★★☆☆



ブログ開始当初のため、はりきって3冊同時に1レビューとなっています。本書のような分冊の本については、全てに目を通してから評価するのが本当だとは思うのですが、それだととても一日一冊のノルマをこなせないので、最近は分けて記事を書くようにしています。


第6位 利益相反(コンフリクト)(牛島信)

★★☆☆☆

本書も「からくりがたり」と同様、それなりに固定ファンのいる作家さんの本ですね。「利益相反」だけだと一般用語になってしまうので、作家名や「コンフリクト」とあわせたキーワードでの検索が多かったです。経済小説はそれほどたくさん読むわけではありませんが、牛島先生の作品はロジックが強いのが好きです。


第5位 最後の証人(柚月裕子) ★☆☆☆☆



本書は初めて★1のついてしまった作品でした。実際のところ、どうでもいいと思った作品については取り上げることさえしないので、レビューを書いている時点でそれなりに感じたもののある作品だとはいえます。もっともアクセス数がわずかなブログだからこそ好き放題できているところもあるかもしれません。賢しげすぎて何様だという感じで、★1をつけるのはそれなりに勇気が要ります。


第4位 ストーリー・セラー(有川浩) ★☆☆☆☆



またしても★1の作品・・・申し訳ないです。本文では
傑作だと思いますが、人を選ぶという意味で評価は1としておきましょう。
なんてお茶を濁すようなことを書いてますが、正直なところ好みにあわなかったというのが本当です。いつも甘めの有川作品が好きなので、なんともギャップが・・・。でも、好みに合わなかったとはいえ、同時に傑作だと思ったのも正直な気持ちです。

以上、4~10位まででした。なんとも珍妙なランキングになっているのが、弱小サイトの面白いところではないでしょうか。焦らすようですが、分量が多くなってきたので続きは来週日曜日くらいに書かせていただきます。評価値のつけ方について私の思うところなども、あわせてお話できればと思っています。

2010年11月20日土曜日

博物戦艦アンヴェイル2 ケーマの白骨宮殿(小川一水) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

海洋冒険ファンタジーのシリーズ第2弾。前回がわりとしっかり一話完結していたのに比べて、今回は次巻以降へのプロローグ的な意味合いが強そうです。冒険行の部分も全体の三分の一程度と若干薄めですが、陸上でのやり取りが多かったのは俺得な感じでした。



前回は航海部分が迫真の筆致だったのですが、逆に最初からここまでやってしまって、次からどうするんだろうかと多少疑問にも思っていました。その点、今回クールダウン気味なのは、シリーズ全体からすれば納得できるところです。

全三章+序・終章の構成で、メギオス脅威の探索に出向く冒険が直接描かれているのは第三章だけです。王城内でのやり取りが好きな私としては割と満足ですが、一話完結の物語としてみると多少の物足りなさは感じなくもありません。

テスとジャムの主人公達については終始ラブラブっぷりを見せ付けられるのかと思いきや、ちょっぴり波乱の展開も見せつつあります。二人の関係のほか、王妃の背景やレイヒたちアンドゥダーナーの事情など、後への伏線が丹念に張られていっている感じです。

少し残念なのは、探索行にシェンギルンらオノキア王国側が直接絡んでこなかったこと。はっきりいってシェンギルンはこのシリーズで一番(というより唯一の)格好いい男性キャラなので、若輩アルセーノとの小競り合いだけが出番がというのは寂しいところです。

彗晶族(キカニオン)の不穏な様子などはあるものの、物語を通しての骨格はいまだ姿を現しているとはいえません。先行きが見えてくるのは次巻あたりからとなるのでしょうか。期待して待っていることにします。

評価:★★★☆☆

2010年11月19日金曜日

ローマ人の物語〈30〉終わりの始まり〈中〉(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

五賢帝最後の一人「マルクス・アウレリウス」。筆者がその治世に懐疑的なのは、彼が「賢帝の世紀」にカテゴライズされなかったことからも明らかですが、それでもやはり五賢帝と呼ばれるにふさわしい人物だったのだなというのが、本書を読んでの感想です。それにしても息子のコモドゥスは・・・。上巻のレビューはこちらです。



常に辺境に問題を抱えるローマ帝国において、トップが軍務に通じることの重要性は筆者が常々強調していたところ。それゆえに、自身は軍役につかず、後継者も手元において離さなかった前帝アントニウス・ピウスに対しては、治世中の善政にもかかわらず疑問符が投げかけられています。

そんななかでも、マルクスは最善を尽くしたといっていいようです。どちらかといえば文弱の徒でありながら、辺境の有事に対して自らの出陣をためらわず、お世辞にも軍事的才能に恵まれたとはいえませんが、各地の内乱には毅然として対処。彼なりのやり方で、第一人者としての責を果たしていたといえるでしょう。

なによりも、個より公を重視した厳格かつ公正な態度は、とかく非軍人を馬鹿にしがちな最前線の兵士達からも確固たる支持をかちえていたようです。不運な状況においても根気良く最善を模索する姿勢に、人々は心を打たれたのだと思います。信念のある人は強いです。

戦地で病に倒れた皇帝のあとをつぐのはわずか18歳のコモドゥス。彼を後継者として据えたこと自体は責められるものではないでしょうが、ネロしかりカリグラしかり、若くして帝位につくと碌な結果にはならない印象がありますね。

敬愛する姉から命を狙われるという不幸はあったものの、コモドゥスの失政はやはり本人の資質に帰するところが大きいのではないかと思います。自身が剣闘士として腕を振るうとか、立場的にありえません。でも、ライオンの被り物はちょっとお茶目で可愛いですが(笑)

衆目一致の後継者不在。どうも皇位争いにまつわるきな臭さが漂うなか、下巻へと続きます。

評価:★★★☆☆

2010年11月18日木曜日

ゴーストハント1 旧校舎怪談(小野不由美) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

大人気でありながら絶版となっていたシリーズの大幅リライト版。プロローグとしては文句なしですが、新規で読む方には本書だけだと物足りなく感じられるかもしれません・・・ぜひ2巻以降も読んでから判断いただきたいです。



非常に入手の難しかった本シリーズ。私は人にはちょっと言いにくい方法で読んでしまっていたのですが、今回あらためてお布施の機会を得られたのは嬉しい限りです。

旧版が既に手元にないので直接の比較はできませんが、文体は多少硬くなってるようですね。ただ、ストーリーの大枠は基本的に変わりないですし、語りは相変わらず麻衣の一人称。旧版やコミックのファンにも安心して読んでいただけるかと思います。

麻衣の口調が結構ぶっちゃけてるんで、初読のかたにはこれで本当に硬くなってるの?と思われてしまいそうですが、なにせ最初はレーベル的制約がかなりきつかったそうで、当時の少女小説らしさがコテコテに全開の文章だったのです。

ただ、そのようなキャピキャピした文体と、そのわりに意外としっかりした内容とのギャップこそが、本書の魅力の一端でもあったとは思います。その点、少なくとも一巻だけ読む分には単なるパワーダウンと捕らえられてしまうかもしれません。

今回は事件自体も少々肩透かしなものですし、4人の霊能者達もほぼ空気の完全脇キャラです。ちょっと胡散臭いだけの彼らですが、次からは大活躍するので本当に本書だけで見切りをつけないでください。特に当分空気状態の綾子が活躍するまでは待っていてほしいです(^^;

次巻では麻衣がナルの事務所でバイトを始めますが、たしかそこで彼女の裏事情が明らかになったはずです。事件も本格的にホラーらしくなってきますので、しつこいですが評価は必ず次を読んでからにしていただきたいです。

評価:★★☆☆☆

2010年11月16日火曜日

明智左馬助の恋〈下〉(加藤廣) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

「本能寺の変」三部作のラストですが、私の読み方が甘いせいかそれほど集大成という感じはしませんでした。ただ、話のまとまりはこれまでで一番良かったように思います。上巻のレビューはこちら



タイトルに「恋」と入っていますが、「綸(りん)」との仲が特にクローズアップされているということはありません。光秀を含む「明智」一族、あるいは「朝廷」への思いも含めた「恋」なのかなと深読みしてみたり。

本能寺の変についての描写は変に熱くなっていないのがよかったです。公家に踊らされ、綸旨なしの挙兵にいたった光秀の良い人ぶりが淡々と語られています。

明智左馬助といえば「湖水渡り」で有名だそうです。馬で琵琶湖を越えたという伝説がクライマックスで沸騰、となると凄いのですが、ここでもちょっとオチがつくような感じ。こういうクールな書き方は結構好みです。

本シリーズは「織田」、「羽柴」、「明智」それぞれの視点から「本能寺の変」が叙述されているわけですが、実は新の黒幕ともいえる「第四の勢力」が存在します。既刊を読めば正体は大体想像がつくと思いますが、そのネタで4冊目が出たらかなり面白そうな気がします。

結局、シリーズ三部作はまとめて一つの「大長編」というよりは三本の「長編」という印象です。そのあたり若干物足りなく感じないわけではありませんが、3作目が一番気に入った作品だったのは後味が良くて大変結構だったと思います。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
信長の棺〈上〉(加藤 廣)
信長の棺〈下〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈上〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈中〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈下〉(加藤 廣)
明智左馬助の恋〈上〉(加藤廣)
明智左馬助の恋〈下〉(加藤廣)(本書)

2010年11月15日月曜日

東京科学散歩(竹内 薫, 中川達也) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

東京都内の散歩スポットが紹介されていますが、それらにまつわるちょっとした疑問に対して、科学的説明が加えられているのが本書の特徴です。もっとも、「科学」の部分はあまり期待しすぎないほうが良いかもしれません。気の抜けた楽に読める一冊です。



新しい散歩スポットを探すというより、知ってる場所を別の視点から読むという気でいたほうが楽しめると思います。目次は以下の通りです。

1 東京スカイツリーは大地震でも倒れない? 押上・東京スカイツリー
2 富士塚で富士登山と同じ効果がある? 千駄ヶ谷・鳩森八幡神社
3 桜の花の色はだんだん白くなっている? 上野恩賜公園
4 「パワースポット」のパワーはどこから発生している? 原宿・明治神宮
5 江戸前は本当に美味しいのか? 築地市場
6 黒い砂浜と白い砂浜の謎 お台場海浜公園
7 湧水の水はなぜ美味しい? 国分寺・殿ヶ谷戸庭園
8 不動様はなぜ五色? 目黒不動
9 クラゲはなぜ夏の終わりにやってくるのか? 葛西臨海公園
10 雨男・雨女の根拠は? 日野・高幡不動
11 花粉症は都会の病? 江東区・夢の島
12 地平線の月はなぜ大きい? 六本木ヒルズ
13 田園調布は古代から高級住宅地だった? 多摩川台古墳群
14 東京に地下世界がある? 幻の新橋駅
15 三毛猫はなぜメスだけなのか? 谷中・根津・千駄木
16 最新!お台場科学館めぐり 日本科学未来館、ソニーエクスプローラサイエンス、リスーピア

私は最近、国分寺に行くことが多いので、殿ヶ谷戸公園が気になって本書を手に取りました。スカイツリーやお台場などの有名な観光スポットより、千駄ヶ谷や根津などちょっとマイナーな場所のほうがむしろ楽しく読めた気がします。

科学のお話しもそれなりにためになりましたが、タイトルからお分かりのようにトンでも系のトピックも多いです。ただ、解説の竹内氏自身が無茶振りだと顔をしかめるお茶目さなので、肩を抜いて読む分には良いのではと思います。

スカイツリーは自宅から少し歩けば見れるくらいのところに住んでいますが、それも友達に言われるまで気がつかない体たらく。そういえば墨田公園もわりと近所なのに全く行ったことがありません。本書をきっかけに、少々足を運んでみようかという気になりました。

ガイドブックとして読むには若干薄いと思います。あまり多くを求めず、目次をみて気になるところがあれば目を通してみるという読み方が良いのではないかと思います。

評価:★★☆☆☆

2010年11月14日日曜日

乱と灰色の世界 2巻(入江亜季) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

スニーカーをはくと大人に化ける、ふしぎな少女「乱」と魔法使い一家の物語り第2弾。人間の友達(?)も増えて世界観が広がるなか、今後どういう方向に進んでいくのでしょうか。面白いけど先行きが想像しにくい展開です。



どうも乱については相変わらず感情移入しにくい印象です。子供が妖艶な美女に化けるギャップが売りであるのはわかるのですが、聖闘士聖矢の聖矢みたいな立ち位置の主人公なんですよね。ヒロイン分は珊瑚に期待。

あいかわらず珍妙な魔法の演出はお見事です。「静」が用向きを無事終えて帰還することになりそうですが、あの不思議空間が描写されなくなるのは少しさびしい気もしますね。

お父さんの「全」は、風采の上がらない紐的ポジションのカラス野郎かと思っていたら、今回は大活躍でした。乱や静と比べれば、男性陣二人はスペックが落ちるのかと思っていましたが、そういうわけでもないようです。

いまだにどういう方向が話のメインなのかわからなくて、読んでいて若干戸惑う部分もあります。今回虫にやられながしぶとく生き残った女たらしの鳳太郎が、敵キャラへと変質していったりするんでしょうか。

乱の先生としてやってきた「たま緒」もまだまだ本領発揮とは言いがたく、本番はこれからといったところでしょうか。乱や魔法使いの日常を描く、ドラえもんっぽい各話完結のような形式だと私はうれしいんですが。ストーリーについての評価は今後の展開次第になるかと思います。

評価:★★☆☆☆

シンギュラリティ・コンクェスト 女神の誓約(山口優) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

第11回日本SF新人賞受賞作。ただし、SFというよりは少し厨二の入ったライトノベルという印象。最初のほうは読むのがしんどかったですが、どんどん面白くなっていきました。「禁書」ファンの方なんかには、かなり楽しめそうな気がします。



主人公は人口精神のアンドロイドAMATERAS、通称「天夢(アム)」。各章冒頭で古事記や日本書紀の引用が入るなど、多分に日本神話のモチーフが取り込まれています。自律学習型の神のごとき人口知能が、人類の危機をいかに救うかというお話し。

宇宙が紫色になるという設定は面白いですが、SFというよりは絵空事といったほうがぴったりくるかもしれません。リアリティの点でも疑問が残ります。冒頭シーンでリヴカが何故死ななかったのかわかりませんし、艦隊を身一つで制圧する天夢がタイマンで人間に負けちゃうのも不可解ですし。

日本語もところどころでおかしいです。P141「あんたみたいな機械なんかを、導き手とすることなんか!」。"なんか"を2つ重ねられて大変な違和感です。どちらかというと校正で直してほしかったところかもしれませんが。

序盤は読むのがしんどくて、これで560ページも耐えられるのかと思ってしまいましたが、これが三章あたりからどんどん面白くなっていくのです。話が進むにつれて書き手さんがレベルアップしている印象。こういうところが新人賞作品の醍醐味ですね。

なんといっても素晴らしいのが天夢のキャラクター。全知全能に近い力を持ち、語り口もクールでありながら、生みの親を慕い、彼と良い感じの女性に嫉妬し、各地を回るなかで人とふれあい、外見15歳ながら実年齢は1歳の彼女が、人間とは何かを学んでいくなかで、自身の使命への確信を徐々に深めていきます。

宇宙が紫色になる謎の解明については正直陳腐な感が否めませんが、そんなことは全く問題ありません。各章ごとにだんだんレベルアップしていく敵との戦闘シーンこそが本書の真骨頂。特にラスボスは相当強いので、かなり熱々のバトルとなっています。

SFとして読むと突っ込みどころが結構ありますが、物語としての面白さはかなりのものです。思うに最初からライトノベルとして書かれていたほうが、変な制約もなくてよかったのではないかという気もします。次は電撃文庫とまでは言いませんが、エッジのほうかあるいは朝日ノベルズくらいで書いてみてほしいですね。

評価:★★★☆☆

2010年11月12日金曜日

明智左馬助の恋〈上〉(加藤廣) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

「本能寺の変」三部作のラストを飾る作品。前二作の描写からは左馬助がとてもミステリアスな存在にみえていましたが、今のところそれほどでもありません。歴史オンチの私には多少きついところもありますが、せめて「信長の忍び」を読んでいたのはよかったです(笑)



左馬助は明智光秀の娘婿にして腹心、後継者としても指名されていたという設定になっています。Wikipediaによると実在性は微妙なようですが、それだけに主役に据えやすいということはあったかと思います。

あたかも史実に基づくかのようにさり気無く大法螺が語られているので(褒めてます)、嘘を嘘と見抜けない人はご注意いただいたほうが良いかと思います。その点、歴史に詳しい方のほうが安心して楽しめるでしょう。

コミック「信長の忍び」の登場人物が結構出てくるので、前もって目を通しておけば、いい予習になるかと思います。とりわけ細川藤孝のイメージギャップは読んでいて楽しいです。

タイトルの「恋」については確かにそういう話も出てきますが、上巻時点ではまだぴんと来るほどのものでもありません。前作「秀吉の枷」では暗躍するミステリアスな男の印象でしたが、これからそのような体験をすることになるのでしょうか。

ほんとに全ての謎がこれから明らかになるのか、ちょっと微妙な気もしていますが、単純に光秀サイドを語る読み物として面白いので、きっと問題ないでしょう。

下巻に続きます。

関連レビュー:
信長の棺〈上〉(加藤 廣)
信長の棺〈下〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈上〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈中〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈下〉(加藤 廣)
明智左馬助の恋〈上〉(加藤廣)(本書)
明智左馬助の恋〈下〉(加藤廣)

動機未ダ不明 完全犯罪研究部(汀こるもの) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

多分ネタの半分以上わからなかったですが、それはそれで面白かったです。前回ほどハッチャケていないのもまとまりが良くてよいなと思っていたら、まさかラストであの展開とは。ページが中途半端にあまってるんでおかしいとは思ったんです(^^;



本書はR15くらい指定されてもおかしくない内容かもしれません。特にSecondmission4はやばい気がします。高校生にリアルに死体の解体処理をさせるのは、人によっては一線を越えていると判断される方もおられるでしょう。私はそのあたり割り切って読んでますが。

簡潔な文体による軽快な文章、それでいてピリピリッと辛さと毒に満ちた仕上がりは相変わらずお見事です。連作短編形式といって良いかと思いますが、作品全体のオチもさることながら、ひとつひとつの犯罪ネタが前回以上に私の好みにあいました。

杉野二号の活躍が個人的には一番良かったです。「魔女、帰還す」における無敵かと思われるような活躍はもちろん、最後の場面での落としっぷりもGood。得手不得手があることで、より人間味が増すというものです。もっとも私は、どちらかといえばゆりっぺ派なんですが・・・

いまいち台詞の主体が誰だかわかりにくいのは、私の読解力のせいでしょうか。話の後半に入ってからはそうでもなかったので、前提知識の不足によるものかもしれません。THANATOSシリーズに手を出すべきか迷うところですが、本シリーズだけでも十分楽しめてしまうだけに難しいところです。

評価:★★★☆☆

関連作品:

2010年11月10日水曜日

樹環惑星-ダイビング・オパリア-(伊野隆之) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

社会派SFとでも言えば良いでしょうか。樹木同士の会話というユニークな設定があるにも関わらず、センスオブワンダーには乏しい印象ですが、本書の性質からするとそれが逆に長所となっているようにも思えます。第11回日本SF新人賞受賞作です。



舞台は植民惑星オパリア。植物以外に土着の生物を持たず、人間に有害な化学物質が排出されているため、とても住み良いとはいえない世界。

その排出ガスの商業的価値に目をつけ利権を独占する「アストラジェニック社」と、煮え湯を飲まされた形の「オパリア自治政府」、そして周辺星域一体の秩序を監視する「星間評議会」のパワーバランスが、政治小説といってもよい雰囲気を演出しています。

ヒロインはオパリアの森林生態を専門とする准教授「シギーラ」です。星間評議会より、第三者的な立場からオパリアにおける新種の疫病調査を依頼されます。年齢ははっきり書かれていませんが、おそらく40前後のはず。ちょっぴりとうの立ったヒロインです。

蔓延する疫病や星系に広がる新種のドラッグ、そしてオパリアにおける森林生態の変化。それら個別の事案が徐々にひとつの問題に収束されていきます。悪役はもちろんアストラジェニック社です。

全般的に突き放したようにクールな筆致は私好みです。450ページに及ぶ長編ですが、SF設定を過剰に語ることのない文章は読みやすく、要所でおこる事件のおかげで飽きることもなく惹きこまれていきます。デビュー作とは思えない完成度の高さに感心しました。

特異な設定をさらっと流しているのが本書の特徴であり長所でもあると思いますが、肝心の樹木の会話については、もう少しファンタスティックな盛り上がりを期待したかった気もします。話の8割くらいまでは文句なしだったのですが、着地が少々地味に過ぎるかもしれません。

アストラジェニック社の裏に潜む組織やラキ教授の顛末など、後に続くであろう設定がまだまだ残されているようです。正直、デビュー作での出し惜しみはどうなのかなという気もしますが、逆に真の評価は続巻を待つべきなのかもしれません。

評価:★★☆☆☆

@HOME 我が家の姉は暴君です。(藤原祐) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

血のつながらない7人きょうだいによるハートフルコメディ。家族達はみな温かく、ホノボノとしたエピソードが続くのですが・・・終始漂う得体の知れない緊張感は何なのでしょうか。ちょっと「ひとつ屋根の下」に似た雰囲気の作品です。



両親達を事故でなくし、母方の親戚達に翻弄される高校2年生「園村響(そのむらひびき)」。葬儀後の喧々諤々のなか、響のもとを訪れたのは父方の親戚だという二人。彼らの誘いにより響は「倉須(くらす)」家に引き取られることになります。

迎えに来たのは長男の「高遠(たかとお)」と次女の「リリィ」。二人の姉のうちリリィがヒロイン格となるようです。生徒会長として畏怖と崇拝を一身に浴びる一学年上の彼女。タイトルには暴君とありますが、彼女の本性は徐々に明らかになっていきます。

設定的にわけありにならざるを得ないきょうだいたちですが、一見するとみな良い人、良い子ばかりです。それが曲者。笑顔の奥に隠された重い背景がいつ爆発するのか、終始ひやひやした緊張感が漂います。

本書後編では三女「芽々子(めめこ)」の背景にスポットが当てられます。リリィ、響とは同じ高校の一年生。スキンシップ過剰でちょっと天然の入った「異様な」美少女。天真爛漫な彼女がぬいぐるみに示す拒否反応の理由とは?

個々の家族だけでなく、倉須家自体にもなにやら事情があるみたいで、伏線てんこ盛りといった印象です。ストーリー自体も話のオチも「@HOME」というタイトルに相応しいものですが・・・このストーリーでこの緊張感を出せるのは、筆者への「信頼感」のなせる業かもしれません(^^;

評価:★★★☆☆

2010年11月8日月曜日

日本は世界4位の海洋大国(山田吉彦) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

タイトルは少々大げさですが、海洋資源や国境問題に関する最新のトピックが、実に冷静に説明されています。一部ネトウヨ的感情論になっていないのが良かったです。



タイトルの4位というのは若干微妙で、面積だけなら6位となるそうです。4位というのは海水量という三次元的視点からのもの。それでも海洋大国という言葉に恥じない広さではあるといえます。

本書では、いわゆる海洋資源を「海底資源」、「海洋資源」、「水産資源」の3つに分類しています。海底資源は油田、水産資源はお魚。この両者は結構馴染み深い概念ですが、「海洋資源」というのが新しいですね。

海水のなかにはエネルギーやレアメタルなどが溶け込んでいるわけですが、科学技術の発展によりそれらの抽出技術が実用化の段階まで迫りつつあるそうです。この分野では日本が最先端を走っているとか。

やはり懸念は領土問題となるでしょう。地理的にみれば、日本というただ一国の存在により中国も韓国もあたかも監獄に捉えられているような状況です。P17の地図を見れば、両国が領土問題に熱心なのもある意味当然のような気がします。

領土問題について気になったのは、実効支配についての考え方です。
利用していない土地は、島とは認めないという風潮が世界にはある。排他的経済水域の主張においては、人間の居住という点が重視されているのだ。
この考え方に照らし合わせると、日本の離島政策は実にお粗末だというのが筆者の主張です。

竹島は、韓国による不当占拠からすでに60年もの実効支配が続いています。ここまでくると、いくらサンフランシスコ条約を盾にとっても、完全に日本の領土と主張するのは徐々に難しくなって来るかも知れません。

もっとも国はただ手をこまねいているだけではありません。2007年に成立した「海洋基本法」など、日本の「海」の取り組みが着実に前進しているようであるのは頼もしいことですが、こういうポジティブなことはあまり話題になりにくいのかなという気はしますね。不思議なことです。

領土問題について中韓の動きやマスコミ報道に反射神経で対応する前に、本書のような周辺知識を押さえておくことは、民度の高さを誇りたい向きの方々には大事なことではないかと思います。

評価:★★★★☆

2010年11月7日日曜日

クロノ×セクス×コンプレックス 3(壁井ユカコ) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

過去の地球をまるごと召喚とか、魔法の設定がどんどん大掛かりになってきています。まさかエマ先輩の元ネタが「思い出エマノン」とは。言われてみれば成るほどのキャラ造形ですが。ストーリーの骨格もかなり見えてきたはずなのに、何故かますます混迷を深める時間SF第3弾です。



今回はオリンピアが二人登場します。未来からやってきた人間となると、どうしても予定調和的な展開になりがちですが、そこのところが実にうまく処理されているように思います。流石です。

予定調和といえば<永久時間剥奪者>。彼の正体は大方の予想通りかと思いますが、ラストのオリンピアとの会話のなかで明らかになる彼の立ち位置については、なるほど納得させられるものです。

ミムラも今回ようやく初登場ですが、彼女(彼?)についてはキャラは濃いものの三村との絡みはあまり期待できそうにないですね。もうちょっと善悪を超越したキャラかと思っていましたが、ちょっと敵役の味が強め。

小町は・・・満を持しての登場があれではあまりにも可哀想です。涙なくして読めませぬ。折りよく挿入されているイラストがまた切ない。平凡な彼女が世界の敵認定。鉄板といえば鉄板な設定がどう料理されていくのか、大変楽しみです。

メインヒロインはオリンピアと小町ということで決まりでしょうか。ミムラはこれっぽっちも関わらなさそうで残念ですが、物語的には分かりやすくてよいかと思います。ラストで柄にもなく前向きなところを見せたオリンピアの動向に注目です。

次は事件の起こる3年後までストレートに跳ぶのか、間に別のエピソードを挟むことになるのか。今回初登場のエマ先輩も相当凄腕のようですが、リアルな時間修復士の登場にも期待したいところです。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
クロノ×セクス×コンプレックス 2(壁井ユカコ)

2010年11月6日土曜日

プラスマイナスゼロ(若竹七海) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

葉崎市を舞台に女子高生3人が活躍するミステリ短編集。純粋なミステリだけでなくオカルトもあります。コミカルホラー(矛盾のある表現ですが)といったほうがよいかもしれません。ホノボノした雰囲気のなかにも、若竹さんならではの毒がピリッと効いています。



タイトルは要するに「良い子、悪い子、普通の子」。二次募集においてあらゆる生徒の受け皿となる葉崎山高校。お嬢様な天然系優等生「天知百合子(テンコ)」、赤毛の暴力女だけど情に厚い「黒岩有理(ユーリ)」、そして容姿、成績、家庭環境から靴のサイズまで全てが平均値の「崎谷美咲(ミサキ)」。

ありがちといえばありがちなキャラ設定なのですが、そこは人間の悪意を描くのが得意な筆者のこと。一筋縄ではいきません。といいますか、お嬢様キャラに野ぐ○させないでほしいです(^^;

一話目は幽霊の出てくるはっきりしたホラー。そっち方面の作品なのかと思ったら、残りの作品は超常現象が皆無です。ちょっとちぐはぐな気もしたのですが、これもミスディレクションでしょうか。

全てに普通という触れ込みのミサキが、基本的には語り手にして一応探偵役っぽくなっています。もっとも、あからさまな謎解きというのは少ないですが。自分で普通といってますが、ミサキも朱に交わるまでもなく相当変わり者という気がします。

葉崎市のシリーズはこれで5作目になるようですが、本書は「クール・キャンデー」の次に好きかもしれません。設定としてはものすごくストレートな青春小説のはずなのに、どことなく黒いもののブレンド具合が素敵です。

評価:★★★★☆

アクロイド殺し(アガサ・クリスティー) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

ネタバレ食らっていたのでずっと読んでませんでした。複雑な要素が絡み合っていて、分かってて読んでもかなり面白いですね。それでも、何も知らずに読みたかった一冊だとは思います。



母の蔵書でクリスティは一通り揃っていたのですが、ポアロやミス・マープルがあまり好きではなくて殆ど読んでません。ノンシリーズやトミーとタペンス、クィン氏、パーカーパインといったところは一通りさらったのですが。子供ながらに渋い読み方をしていました。

この歳になってポアロの良さが分かってきたような気がします。いけ好かないオッサンが嫌いだったのですが、いけ好かないオッサンだからこそ味になるという大人読み。

ネタはわかってても一応古典は抑えておこうかと思い手にとって見ましたが、流石はクリスティですね。事件の構造がリニアではないので、ミステリとしても十分楽しむ余地が残されていました。

何より、犯人を知った上で読んでみると、ポアロの底意地の悪さが一層引き立ちます。この犯人も相当切れ者なはずですが、結局は全てを見通された上で泳がされていた格好です。

この本の出版当時、アンフェア論争があったというのは時代を感じさせます。今ならこの分野は定番の一つ。タブーに挑み道を切り開くクリスティの凄みを改めて思い知らされます。

ポアロ物、面白いですね。オリエント急行やABCなどの定番だけ抑えておこうかと思っていたのですが、なんだか一から順番に読んでみたくなりました。でも、30冊以上になりますし・・・悩ましいところです。

評価:★★★★★

2010年11月5日金曜日

熱帯夜(曽根圭介) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

ミステリーテイストな中短編3作からなるホラー短編集。ホラー文庫と知らずに買いました。怖いの苦手なんですが、気付いたのは3作目。ホラーというよりバイオレンス小説という印象です。



前に読んだ「沈底魚」は警察ミステリでしたが、なかなか多芸ですね。ただ、作品の根底に流れるものは変わらない気もしました。以下、各話の感想です。

■ 熱帯夜
表題作にして日本推理作家協会賞短編賞受賞作だそうです。分類が難しそうな作品ですが、ホラーというよりはミステリの色合いが強いかと思います。暴力描写は人によっては少しきついかもしれませんが、トリッキーな仕掛けと収まるべきところに収まる収束が素晴らしいです。

■ あげくの果て
高齢化社会が行き着く可能性の一つを描いた架空世界物。ネタバレになりそうなので内容には触れにくいですが、ちょっと救われない感じの話は私的にはあまり好みではなかったかも。逆に苦めの作風が好きな方にはお勧めです。

■ 最後の言い訳
本書で最もホラーな作品。怖さはそれほどでもありませんが、なかなかエグイゾンビ物です。面白い設定ですが、人間側の初期対応や人類存続の可能性という点で、少々無理があるような気もしました。まあ、そのあたりつつくのは無粋ですね。ラストはこうじゃなきゃいいなと思っていたとおりのオチでちょっと鬱になりました。

表題作をはじめ、全般的にミステリ的な仕掛けが施されているのは、さすが乱歩賞作家というところでしょうか。ただ、トリックそのものは、それほどあっと言わせるものでもなかったかもしれません。苦さ、痛さといった雰囲気が本書一番の特徴かと思います。ちょっと私としては苦手な作風でしたが、好きな人なら凄くはまりそうな作品です。

評価:★★☆☆☆

2010年11月3日水曜日

舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵(歌野晶午) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

本作は女子中学生3人組+舞田ひとみの4人組が活躍します。全編を通したひっかけがない点は若干物足りなかったですが、その分、一話ごとの重みが増しているようにも感じます。

前作のレビューはこちら



前作が叔父の刑事「舞田歳三」視点だったのに対し、今回は「高梨愛美璃(たかなしえみり)」、「織本凪沙(おりもとなぎさ)」、「萩原夏鈴(はぎわらかりん)」の女子中学生3人組が主人公となります。

真のヒロインであるはずの「舞田ひとみ」は、3人組とは違う学校でエミリと小学生時代の同級生という設定。ひとみの生活をはっきりと明かさないブラックボックス手法は前作と共通するところです。

ひとみは一見したところ相変わらず暢気そうですが、学校、成績、家族関係などにまつわる、思春期らしいちょっぴり苦い思いもチラつかせます。それをエミリ視点から語っているため、色々と想像力が喚起されてくるのです。

前作と一番の違いはひとみの役回り。前回は三毛猫ホームズのように刑事の叔父にヒントを与えるだけの存在でしたが、本作では正真正銘の名探偵となっています。馬鹿だけど名探偵。いい味出してます。

今回は連作短編というより普通の短編集ですね。最終話、どんな技が仕掛けが仕掛けられているかと身構えましたが、全編を通したひっかけは特にありません。若干肩透かし気味ですが、ひとみの成長物語としてはなかなかぐっと来る作品集だったと思います。

評価:★★★☆☆

魚舟・獣舟(上田早夕里) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

ハードSFの中短編集。評価の高い表題作をはじめ、全編素晴らしいクオリティ。苦い後味の作品は基本的に苦手なのですが、筆者の文章とは相性が良いようです。



上田早夕里さんの作品で最初に読んだのは、SF要素なしの「ラ・パティスリー」。ここまで直球なSFを書く方だとは思わず、度肝を抜かれました。以下、各話の感想です。

■ 魚舟・獣舟
魚が兄弟で舟になって獣になる話。何を言ってるのか分からないと思いますが、本当にそういう話です。最近出た筆者の新作の下準備として読んでみました。設定自体がユニークなだけでなく、その世界観から紡がれるストーリが素晴らしいです。

■ くさびらの道
細菌におかされて幽霊になるパンデミックもの。身近な人が自分を置いて幽霊になったとき、あなたはどのような行動を取るでしょうか。それにしてもうまい。

■ 饗応
10ページのショートショートなのですが、これは何を書いてもネタバレになりそうで紹介文書きにくいですね。リアルかと思っていたらSFだった的なお話です。

■ 真朱の街
妖怪 + SFもの。逃げ込んだ先の街で連れの5歳の少女を妖怪にさらわれた「邦雄」が、探し屋の「百目」とともに行方を追うお話し。百目さん格好良すぎ。シリーズ化してほしいです。

■ ブルーグラス
ブルーグラスは音を聞いて成長する無機物。この作品のようなオチは苦手なはずなのですが、何故か筆者の手にかかれば問題ないみたいです。それにしても設定がユニークですね。

■ 小鳥の墓
唯一書き下ろしの180ページ近い中編です。どうも本編主人公の殺人鬼は、筆者のデビュー作における登場人物のようです。量だけでなく内容的にもこれだけで一冊いけそうですけどね。圧倒されました。

内容的にはハードSF以外のなにもでもないのですが、クールで突き放したようでありながらどことなくソフトな文章が私の好みにぴったり合致するみたいです。短編集としては若干テーマがばらけている気がして、のめりこみにくいところはありましたが、個々の作品はどれも素晴らしかったです。

評価:★★★★☆

2010年11月1日月曜日

ローマ人の物語〈29〉終わりの始まり(上)(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

現代においても当時においても、ローマ史上最も人気のある皇帝だという五賢帝最後の一人「マルクス・アウレリウス」。彼の治世への懐疑はこれまでに既刊で度々ほのめかされていましたが、本書では前帝「アントニウス・ピウス」についても辛らつにディスっています。



無難に23年間も治世を全うしたアントニウス・ピウスに対し、前巻では割と肯定的に書かれていたのに、本書では手のひら返しです。ハドリアヌスの築いた防御網を食いつぶしたようなイメージですね。

とりわけ筆者が致命的と捕らえているのは、マルクスに軍務を経験させなかったこと。自身が文人肌のアントニウス・ピウスはマルクス・アウレリウスを手元から離さず帝王教育を施したそうですが、最も大事な部分の教育がかけていたというのが筆者の意見です。

今の日本に首相として迎えるならば、ハドリアヌスよりはマルクス・アウレリウスやアントニウス・ピウスの方がはるかに望ましいでしょう。しかし、一見平和が続いているように見えても、当時のローマ辺境では常に蛮族の危機が蠢動しているのです。

実は、マルクス・アウレリウスは単独で皇帝になったわけではありませんでした。義兄弟のルキウスと二人体制にしたのは共和制主義者への対応を慮ってのことかもしれませんが、彼のいい人振りを伝えるエピソードでもあります。せっかくの配慮も、ルキウスがすぐに死んで無駄になってしまうのですが・・・

飢饉、疫病、蛮族の侵入など、アントニウス・ピウスの治世とは一転、様々な苦難にさらされることになりながらも、五賢帝として名を残した政治家としての手腕はやはり褒められるべきものなのだと思います。

数十年に及ぶ平和から一転、蛮族に帝国領奥深くまで蛮族の侵入を許しす緊迫した局面で次巻へ。長らく平和ボケしていただけに、肝が冷えたことでしょうね。

評価:★★★☆☆

ばらかもん 1, 2, 3(ヨシノサツキ) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

書道+島暮らし。はやりものをぶち込んだ感じですが、設定と関係なく面白いです。ストーリー物の「よつばと」といった感じ。








悩めるイケメン書道家「半田清舟」が、島の子供達による侵略戦争に敗れ、洗脳されていくお話です。一応、清秋が島暮らしを通して自身の書の殻を破っていく成長物語でもあります。

ヒロインは7歳児の「なる」になるのでしょうか。女の子が結構出てくる割に、コイバナっぽいものはいまのところ皆無です。本土に彼女とかいるのかもしれませんが。

郷土物の楽しみの一つが食べ物ネタですが、特に清舟がはまった「このもん」という漬物は美味しそうですね。レシピが載ってるので自分でも試してみたいのですが、干すのがちょっと手間でしょうか。

島暮らしのスローライフは読んでる分には楽しいですが、自分がやるとなるとちょっと躊躇われてしまうところもあります。虫とか多いと嫌ですし。子供の頃、良くバッタやコオロギやらセミやら取りに行ってたのが嘘みたいです。

なるや美和ねぇの家族のことなど、まだ明かされていない設定がかなり残っているようで、ストーリー漫画としても純粋に続きが楽しみです。

評価:★★★☆☆