第11回日本SF新人賞受賞作。ただし、SFというよりは少し厨二の入ったライトノベルという印象。最初のほうは読むのがしんどかったですが、どんどん面白くなっていきました。「禁書」ファンの方なんかには、かなり楽しめそうな気がします。
主人公は人口精神のアンドロイドAMATERAS、通称「天夢(アム)」。各章冒頭で古事記や日本書紀の引用が入るなど、多分に日本神話のモチーフが取り込まれています。自律学習型の神のごとき人口知能が、人類の危機をいかに救うかというお話し。
宇宙が紫色になるという設定は面白いですが、SFというよりは絵空事といったほうがぴったりくるかもしれません。リアリティの点でも疑問が残ります。冒頭シーンでリヴカが何故死ななかったのかわかりませんし、艦隊を身一つで制圧する天夢がタイマンで人間に負けちゃうのも不可解ですし。
日本語もところどころでおかしいです。P141「あんたみたいな機械なんかを、導き手とすることなんか!」。"なんか"を2つ重ねられて大変な違和感です。どちらかというと校正で直してほしかったところかもしれませんが。
序盤は読むのがしんどくて、これで560ページも耐えられるのかと思ってしまいましたが、これが三章あたりからどんどん面白くなっていくのです。話が進むにつれて書き手さんがレベルアップしている印象。こういうところが新人賞作品の醍醐味ですね。
なんといっても素晴らしいのが天夢のキャラクター。全知全能に近い力を持ち、語り口もクールでありながら、生みの親を慕い、彼と良い感じの女性に嫉妬し、各地を回るなかで人とふれあい、外見15歳ながら実年齢は1歳の彼女が、人間とは何かを学んでいくなかで、自身の使命への確信を徐々に深めていきます。
宇宙が紫色になる謎の解明については正直陳腐な感が否めませんが、そんなことは全く問題ありません。各章ごとにだんだんレベルアップしていく敵との戦闘シーンこそが本書の真骨頂。特にラスボスは相当強いので、かなり熱々のバトルとなっています。
SFとして読むと突っ込みどころが結構ありますが、物語としての面白さはかなりのものです。思うに最初からライトノベルとして書かれていたほうが、変な制約もなくてよかったのではないかという気もします。次は電撃文庫とまでは言いませんが、エッジのほうかあるいは朝日ノベルズくらいで書いてみてほしいですね。
評価:★★★☆☆
2010年11月14日日曜日
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