「花竜の宮」作者による非SF作品。和菓子屋のお嬢さんと天才ショコラティエを主人公とした、クールなスイーツミステリ短編集です。「ラ・パティスリー」の姉妹編ですが、本書だけでも十分楽しめます。
甘いものは好きなのですが、本格スイーツとなると男性の私にはちょっと遠い世界になります。本書のようなテーマの作品はなかなか新鮮でとても楽しいです。
京都に本店を持つ老舗和菓子や<福桜堂(ふくおうどう)>の売り子をしている「絢部(あやべ)あかり」と、その近隣に店を構える人気ショコラトリー<ショコラ・ド・ルイ>のシェフ「長峰和輝(ながみねかずき)」。
設定だけ聞くとロミジュリっぽい感じですが、お互い洋菓子も和菓子も好きということでとても友好的です。様々に起こる事件を通して徐々に親睦を深めていきます。
互いに敬意を持ちながらも、冷静なようで何かと好奇心を発揮しがちなあかりに対して、長嶺が毅然とした対応をすることもしばしば。緊張感のある関係といえるでしょう。
べたべたの恋話にならないのがいかにも筆者らしいところですね。最終話に登場する「天野花梨(あまのかりん)」はてっきり恋敵役かと思っていましたがそんなこともなく。結局二人の関係は本書では曖昧なままです。
前作「ラ・パティスリー」と比べて全編を通した趣向のようなものはないのですが、私は本書の淡々とした構成のほうが好きですね。各話とも地味ながら良質な仕上がり。流石としか言いようがありません。
それにしても、あかりに彼氏がいないことや長嶺が独身であることはお互い確認しあっているのに、結局最後まで本当に何事もなく終わってしまいました。続きあるんですよね(^^;
評価:★★★☆☆
関連レビュー:
ラ・パティスリー(上田早夕里)
2011年3月26日土曜日
2010年12月18日土曜日
火星ダーク・バラード(上田早夕里)
なんともやさしい暗黒(ノワール)小説。濡れ衣を着せられ追われる身となる39歳の刑事「水島」と、事件の鍵を握る15歳の少女「アデリーン」。第4回小松左京賞受賞作品の大幅改稿版。火星を舞台にしたハードボイルドSFの傑作です。
受賞作バージョンのほうは賞を取るためのカスタマイズがかなり入っていたそうです。文庫化にあたり筆者が本来やりたかった方向へ戻すための大幅改稿とのこと。そのあたりの事情や相違点については、こちらで筆者自身の手により詳しく説明されています。
私は本来、明るくきっぱりオチのついた話のほうが好きなのですけれど、本作についてはノワール色が強くなっているという文庫版以外の雰囲気は考えにくいですね。単行本版の30歳の水島とか想像しにくいですし、ラストの締めも甘くはないけどずっしり心に残ります。
本作品で一番格好いいのは水島ですが、小説的に一番美味しい味をだしているのは殺人鬼の「ジョエル・タニ」だと思います。ただ、彼はその濃いキャラクターにもかかわらず最初のほうと最後のほうにしか登場しないので、本書だけ読むと若干の物足りなさを感じるかもしれません。
そういう意味では、「小鳥の墓」(「魚舟・獣舟」所収)のほうも是非押さえていただきたいところです。ジョエルが主人公の中編小説となっています。しかし、ジョエルと璃奈って・・・あれ?記憶が曖昧なので読み返してみないと。
話の作り的にはもったいないと思われる箇所がいくつかあるようにも思えます。実に良いキャラのバディ「神月璃奈」がキルヒアイスなみに即効死んでしまいますし、アデリーンの能力が後半は普通の超能力になっているように見えますし、シャーミアンは割を食いすぎてる気がしますし。全般的に女性キャラにつめたい気が・・・(^^;
色々突っ込む余地はあるのかもしれませんが、それらを全て些事としてしまうのが本書全体を流れる雰囲気。とりわけ主人公の捜査官「水島」の苛烈さと複雑さは、男でも惚れるほど格好良いです。本作品の底を流れる冬の川のように冷たい清清しさが、なんともいえない絶妙の後味を残してくれます。
私にとっては「良い」というより「好き」な作品。それは同じく筆者の手による「華竜の宮」についても同様だったのですけれど、ロマンス要素がわかりやすい分、こちらの方がちょっとだけ好きかもしれません。
評価:★★★★★
関連作品:
受賞作バージョンのほうは賞を取るためのカスタマイズがかなり入っていたそうです。文庫化にあたり筆者が本来やりたかった方向へ戻すための大幅改稿とのこと。そのあたりの事情や相違点については、こちらで筆者自身の手により詳しく説明されています。
私は本来、明るくきっぱりオチのついた話のほうが好きなのですけれど、本作についてはノワール色が強くなっているという文庫版以外の雰囲気は考えにくいですね。単行本版の30歳の水島とか想像しにくいですし、ラストの締めも甘くはないけどずっしり心に残ります。
本作品で一番格好いいのは水島ですが、小説的に一番美味しい味をだしているのは殺人鬼の「ジョエル・タニ」だと思います。ただ、彼はその濃いキャラクターにもかかわらず最初のほうと最後のほうにしか登場しないので、本書だけ読むと若干の物足りなさを感じるかもしれません。
そういう意味では、「小鳥の墓」(「魚舟・獣舟」所収)のほうも是非押さえていただきたいところです。ジョエルが主人公の中編小説となっています。しかし、ジョエルと璃奈って・・・あれ?記憶が曖昧なので読み返してみないと。
話の作り的にはもったいないと思われる箇所がいくつかあるようにも思えます。実に良いキャラのバディ「神月璃奈」がキルヒアイスなみに即効死んでしまいますし、アデリーンの能力が後半は普通の超能力になっているように見えますし、シャーミアンは割を食いすぎてる気がしますし。全般的に女性キャラにつめたい気が・・・(^^;
色々突っ込む余地はあるのかもしれませんが、それらを全て些事としてしまうのが本書全体を流れる雰囲気。とりわけ主人公の捜査官「水島」の苛烈さと複雑さは、男でも惚れるほど格好良いです。本作品の底を流れる冬の川のように冷たい清清しさが、なんともいえない絶妙の後味を残してくれます。
私にとっては「良い」というより「好き」な作品。それは同じく筆者の手による「華竜の宮」についても同様だったのですけれど、ロマンス要素がわかりやすい分、こちらの方がちょっとだけ好きかもしれません。
評価:★★★★★
関連作品:
2010年11月24日水曜日
華竜の宮(上田早夕里)
「魚舟・獣舟」の世界を舞台にしていますが、そちらを読んでいなくても問題ありません。大規模な地殻変動による人類存亡の危機という状況。スケールの大きいテーマの割りに、話の芯が全くぶれないのはとても私好みです。センスオブワンダーも半端ではありません。傑作です。
良いSF作品というのは内容の説明がしにくいものではないかと思います。裏表紙のあらすじから少し引用すると
青澄・N・誠司(あおずみ・えぬ・せいじ)。三十代後半。独身。海上民の生態や気質に精通し、抜群の交渉力を持つ。有能だが中央に疎まれるタイプで、世界各地を飛びまわされるも、本人はその境遇に不満を持っていない。大財閥の御曹司で、そのコネクションも時にはフル活用するが、最終的な公私の筋はきっちり通すお堅い人柄。
ツキソメ。さばけた気質の美女。大船団を率いるオサだが、強権派というよりは調整型の温和な人柄。ただし芯はとても強い。青澄より若く見えるが不老の噂あり。少なくとも、若澄はおろか船団の誰よりもはるかに年上らしい。彼女の出生の謎は、この話のキーポイントの一つ。夫と死別しており、彼女の魚舟である「ユズリハ」は夫から引き継いだもの。
魚舟とは海の民の兄弟たちが成長したもので、内部に居住空間を持つ大魚です。その魚舟から変質したものが獣舟で、何者の制御も受け付けない人類の敵となります。何を言ってるのか想像がつきにくいと思いますが、簡単に説明するのも難しいので、詳しくは本書もしくは「魚舟・獣舟」を読んでみて下さい。
あらすじにある陸上民と海上民の確執は、たしかに物語の重要な側面ではあるのですが、話はそれだけで終わる単純なものではありません。短期的、中期的、長期的な問題が次々と発覚していくなかで、青澄やツキソメはそれぞれの立場から解決を迫られていくことになります。
本書の素晴らしいところは、立て続けに様々な問題が発生し事態が複層的な様相を見せるなかでも、話の骨格がまったくぶれないところです。場面は時空を超えてあちこちに跳んでいくのですが、それらの問題は必ず青澄たちのもとに収束していきます。私は読書するときにあまり頭を働かせるほうではないので、こういうクリアなストーリはとてもありがたいです。
人によっては、そのぶれなさが無難に過ぎると感じる向きもあるかもしれませんが、私にはこのような端正な話作りがとてもあっているようです。ハードな世界を描きながらもどこか優しい感じのする文体。決して甘い結末とはいえなくても収まるべきところに収まったという納得感。全ての要素において私には最高の物語だと感じられました。
この話は、青澄にしろツキソメにしろ、あるいは行方不明とされているタイフォンにしろ、いろいろな点で含みを残した終わり方となっているように思えます。もしかして続編の可能性もあるのでしょうか。次は短編集でも面白いかもしれませんね。期待して待ちたいと思います。
評価:★★★★★
良いSF作品というのは内容の説明がしにくいものではないかと思います。裏表紙のあらすじから少し引用すると
陸の国家連合と海上社会との確執が次第に深まる中、日本政府の外交官・青澄誠司は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく、海上民の女性長(オサ)・ツキソメと会談する。両者はお互いの立場を理解し合うが、政府官僚同士の諍いや各国家連合の思惑が、障壁となってふたりの前に立ち塞がる。たしかに間違ってはいないのですが、青澄とツキソメの魅力をこの文章だけから読み取るのは難しいでしょう。彼らはこんな感じの人物です。
青澄・N・誠司(あおずみ・えぬ・せいじ)。三十代後半。独身。海上民の生態や気質に精通し、抜群の交渉力を持つ。有能だが中央に疎まれるタイプで、世界各地を飛びまわされるも、本人はその境遇に不満を持っていない。大財閥の御曹司で、そのコネクションも時にはフル活用するが、最終的な公私の筋はきっちり通すお堅い人柄。
ツキソメ。さばけた気質の美女。大船団を率いるオサだが、強権派というよりは調整型の温和な人柄。ただし芯はとても強い。青澄より若く見えるが不老の噂あり。少なくとも、若澄はおろか船団の誰よりもはるかに年上らしい。彼女の出生の謎は、この話のキーポイントの一つ。夫と死別しており、彼女の魚舟である「ユズリハ」は夫から引き継いだもの。
魚舟とは海の民の兄弟たちが成長したもので、内部に居住空間を持つ大魚です。その魚舟から変質したものが獣舟で、何者の制御も受け付けない人類の敵となります。何を言ってるのか想像がつきにくいと思いますが、簡単に説明するのも難しいので、詳しくは本書もしくは「魚舟・獣舟」を読んでみて下さい。
あらすじにある陸上民と海上民の確執は、たしかに物語の重要な側面ではあるのですが、話はそれだけで終わる単純なものではありません。短期的、中期的、長期的な問題が次々と発覚していくなかで、青澄やツキソメはそれぞれの立場から解決を迫られていくことになります。
本書の素晴らしいところは、立て続けに様々な問題が発生し事態が複層的な様相を見せるなかでも、話の骨格がまったくぶれないところです。場面は時空を超えてあちこちに跳んでいくのですが、それらの問題は必ず青澄たちのもとに収束していきます。私は読書するときにあまり頭を働かせるほうではないので、こういうクリアなストーリはとてもありがたいです。
人によっては、そのぶれなさが無難に過ぎると感じる向きもあるかもしれませんが、私にはこのような端正な話作りがとてもあっているようです。ハードな世界を描きながらもどこか優しい感じのする文体。決して甘い結末とはいえなくても収まるべきところに収まったという納得感。全ての要素において私には最高の物語だと感じられました。
この話は、青澄にしろツキソメにしろ、あるいは行方不明とされているタイフォンにしろ、いろいろな点で含みを残した終わり方となっているように思えます。もしかして続編の可能性もあるのでしょうか。次は短編集でも面白いかもしれませんね。期待して待ちたいと思います。
評価:★★★★★
2010年11月3日水曜日
魚舟・獣舟(上田早夕里)
ハードSFの中短編集。評価の高い表題作をはじめ、全編素晴らしいクオリティ。苦い後味の作品は基本的に苦手なのですが、筆者の文章とは相性が良いようです。
上田早夕里さんの作品で最初に読んだのは、SF要素なしの「ラ・パティスリー」。ここまで直球なSFを書く方だとは思わず、度肝を抜かれました。以下、各話の感想です。
■ 魚舟・獣舟
魚が兄弟で舟になって獣になる話。何を言ってるのか分からないと思いますが、本当にそういう話です。最近出た筆者の新作の下準備として読んでみました。設定自体がユニークなだけでなく、その世界観から紡がれるストーリが素晴らしいです。
■ くさびらの道
細菌におかされて幽霊になるパンデミックもの。身近な人が自分を置いて幽霊になったとき、あなたはどのような行動を取るでしょうか。それにしてもうまい。
■ 饗応
10ページのショートショートなのですが、これは何を書いてもネタバレになりそうで紹介文書きにくいですね。リアルかと思っていたらSFだった的なお話です。
■ 真朱の街
妖怪 + SFもの。逃げ込んだ先の街で連れの5歳の少女を妖怪にさらわれた「邦雄」が、探し屋の「百目」とともに行方を追うお話し。百目さん格好良すぎ。シリーズ化してほしいです。
■ ブルーグラス
ブルーグラスは音を聞いて成長する無機物。この作品のようなオチは苦手なはずなのですが、何故か筆者の手にかかれば問題ないみたいです。それにしても設定がユニークですね。
■ 小鳥の墓
唯一書き下ろしの180ページ近い中編です。どうも本編主人公の殺人鬼は、筆者のデビュー作における登場人物のようです。量だけでなく内容的にもこれだけで一冊いけそうですけどね。圧倒されました。
内容的にはハードSF以外のなにもでもないのですが、クールで突き放したようでありながらどことなくソフトな文章が私の好みにぴったり合致するみたいです。短編集としては若干テーマがばらけている気がして、のめりこみにくいところはありましたが、個々の作品はどれも素晴らしかったです。
評価:★★★★☆
上田早夕里さんの作品で最初に読んだのは、SF要素なしの「ラ・パティスリー」。ここまで直球なSFを書く方だとは思わず、度肝を抜かれました。以下、各話の感想です。
■ 魚舟・獣舟
魚が兄弟で舟になって獣になる話。何を言ってるのか分からないと思いますが、本当にそういう話です。最近出た筆者の新作の下準備として読んでみました。設定自体がユニークなだけでなく、その世界観から紡がれるストーリが素晴らしいです。
■ くさびらの道
細菌におかされて幽霊になるパンデミックもの。身近な人が自分を置いて幽霊になったとき、あなたはどのような行動を取るでしょうか。それにしてもうまい。
■ 饗応
10ページのショートショートなのですが、これは何を書いてもネタバレになりそうで紹介文書きにくいですね。リアルかと思っていたらSFだった的なお話です。
■ 真朱の街
妖怪 + SFもの。逃げ込んだ先の街で連れの5歳の少女を妖怪にさらわれた「邦雄」が、探し屋の「百目」とともに行方を追うお話し。百目さん格好良すぎ。シリーズ化してほしいです。
■ ブルーグラス
ブルーグラスは音を聞いて成長する無機物。この作品のようなオチは苦手なはずなのですが、何故か筆者の手にかかれば問題ないみたいです。それにしても設定がユニークですね。
■ 小鳥の墓
唯一書き下ろしの180ページ近い中編です。どうも本編主人公の殺人鬼は、筆者のデビュー作における登場人物のようです。量だけでなく内容的にもこれだけで一冊いけそうですけどね。圧倒されました。
内容的にはハードSF以外のなにもでもないのですが、クールで突き放したようでありながらどことなくソフトな文章が私の好みにぴったり合致するみたいです。短編集としては若干テーマがばらけている気がして、のめりこみにくいところはありましたが、個々の作品はどれも素晴らしかったです。
評価:★★★★☆
2010年9月8日水曜日
ラ・パティスリー(上田早夕里)
表紙のイラストに釣られて購入。また中村佑介氏です。パティシエの世界を端正に描いた清新な作風に好感をもちました。ちなみに筆者は第4回小松左京賞受賞されているとのことですが、それっぽい要素は少しもありません。
製菓学校を卒業したばかりのパティシエール見習い「森沢香織」と記憶喪失の凄腕パティシエ「市川恭也」の二人が主人公です。恭也の過去探索、菓子業界の舞台裏、香織の成長といったところがテーマとなっています。若い男女のことなので、ちょっぴり甘く切ないロマンスもないことはありませんが、期待しすぎると肩透かしかもしれません。
恭也登場の導入がちょっと不思議な感じで、てっきりSFなのかと思っていたら全く違いました。別にSFじゃなくても構わないのですが、恭也の正体ついてはちょっとがっかりというか腑に落ちない感じがしました。そりゃ現実なんてそんなもんでしょうけれど、もっとワクワク感あふれる真相を期待してしまいました。
一応連作短編のような形式になっています。仕込みの模様や百貨店との関係など、菓子店をめぐるさまざまなディテールが細かく描かれている点は大変良かったです。筆致も全体的に淡々としていて、作風や登場人物のキャラクターはとても私好みです。
それだけに、恭也の正体に意外性がなかったり、二人の恋の行方がなんとなく中途半端だったりしたのは残念ですね。満を持して登場したオーナーの息子についても、ふーんという感じ。続編がでるんならこれでもいいのかもしれませんけれど、これ以上話の膨らみ用もなさそうな感じはします。
私は基本的に連作短編という形式が大好きなのですけれど、本書については単にパティスリーの日常を描く純粋な短編集の方が収まりが良かったのではないかなという気がします。大きな物語よりは小技の冴えがみどころの作家さんという印象です。作風自体はホント良いと思います。
評価:★★☆☆☆
製菓学校を卒業したばかりのパティシエール見習い「森沢香織」と記憶喪失の凄腕パティシエ「市川恭也」の二人が主人公です。恭也の過去探索、菓子業界の舞台裏、香織の成長といったところがテーマとなっています。若い男女のことなので、ちょっぴり甘く切ないロマンスもないことはありませんが、期待しすぎると肩透かしかもしれません。
恭也登場の導入がちょっと不思議な感じで、てっきりSFなのかと思っていたら全く違いました。別にSFじゃなくても構わないのですが、恭也の正体ついてはちょっとがっかりというか腑に落ちない感じがしました。そりゃ現実なんてそんなもんでしょうけれど、もっとワクワク感あふれる真相を期待してしまいました。
一応連作短編のような形式になっています。仕込みの模様や百貨店との関係など、菓子店をめぐるさまざまなディテールが細かく描かれている点は大変良かったです。筆致も全体的に淡々としていて、作風や登場人物のキャラクターはとても私好みです。
それだけに、恭也の正体に意外性がなかったり、二人の恋の行方がなんとなく中途半端だったりしたのは残念ですね。満を持して登場したオーナーの息子についても、ふーんという感じ。続編がでるんならこれでもいいのかもしれませんけれど、これ以上話の膨らみ用もなさそうな感じはします。
私は基本的に連作短編という形式が大好きなのですけれど、本書については単にパティスリーの日常を描く純粋な短編集の方が収まりが良かったのではないかなという気がします。大きな物語よりは小技の冴えがみどころの作家さんという印象です。作風自体はホント良いと思います。
評価:★★☆☆☆
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