2011年10月5日水曜日

ブラウン神父の童心(G・K・チェスタトン) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

神父といっても堅苦しい雰囲気は全然ありません。冴えない小男のどこか伝法な語り口が作品全体をシニカルな雰囲気にしています。人間の機微を細かに描く一方で世界に名を轟かす名探偵や大怪盗も登場するという、なかなかサービス精神旺盛な一冊です。




ブラウン神父といえば、紹介文によればシャーロック・ホームズとも並び称されるとのことで、ミステリファンの間では比較的よく知られたメジャーな名探偵かと思います。私も高校時代に学校の図書館で読んだ記憶がありますが、全く内容が残っていなかったので今回の再読です。

朴訥な神父が穏やかに事件を切り捨てる話だったかな、などと思っていたら全然違いました。これは訳者のお手柄だと思うのですが、神父の言い回しがなんとも蓮っ葉というかやさぐれ僧侶という感じで、それが作品全体を通した皮相的なムードにぴったりはまっています。

チェスタトンといえばトリック創案に定評のある作家だそうですが、個人的にはその部分はそれほどでもないかなと感じました。割とありふれたというか、無理のある仕掛けを強引な論理でこじつけている印象が強いです。

もっとも、それはあらゆる名探偵ものにいえることなので、その点に特に不満はありません。むしろそうした無理気味なロジックを演出する意外性のある展開が素晴らしかったです。特に一話目と二話目。そう持ってくるの?と唖然とさせられる、涼宮ハルヒも真っ青な驚愕の転がしっぷりです。

ただ、最初のインパクトが強すぎたせいか、中盤以降はちょっとだれ気味な感じが無きにしも非ずです。各話とも導入部分が少し堅めというか、物語に入り込みにくい感じなので、読み進めるのにはちょっぴり苦労しました。翻訳ミステリになれていない方だと特にしんどく感じるかもしれません。

とはいえ、それぞれの作品の質自体はかなり高いです。12話を一気に読破するよりは毎日少しずつ読み進めるほうが、中だるみも無くじっくり作品世界を堪能できるのではないかと思います。たった30ページに詰め込まれた絶妙の手管をじっくり鑑賞してください。

評価:★★★☆☆


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