まさに表紙絵の通り、車椅子の元気爺さん「香月玄太郎(こうづきげんたろう)」と、彼に翻弄されながらも要所では強いところを見せるベテラン介護士「綴喜みち子(つづきみちこ)」がメインキャラクターとなります。
「さよならドビュッシー」、「おやすみラフマニノフ」と続く「岬洋介」シリーズのスピンオフ作品ではありますが、前作のネタバレなどは慎重に回避されていますし、むしろ本書だけを読んだほうが純粋に楽しめる部分もあるかもしれません。
介護をテーマの一つとしつつも、玄太郎のキャラクターのせいか全然湿っぽさは感じさせません。5編のミステリもそれぞれに趣向が凝らされていて、痛快な読後感を与えてくれる作品集となっています。
当然「さよならドビュッシー」のキャラクターたちも登場するのですが、基本的には重要な役割を見せることは無いので、その点既読者には物足りなく感じられるところもあるかもしれません。ただ、岬洋介にはちょこっと活躍の場もあるので、彼のファンならぜひ抑えておくべきでしょう。
介護士のみち子さんは傍観者役といいいますか、それほど重要な役割を果たしているわけではありませんが、前作で何だか怖い印象のあった彼女の裏側が見られらのは良かったです。
以下、さよならドビュッシーと本作両方のネタバレがちょっぴり入るので、既読者のみ反転でお願いします。
本書だけ読むか、2作品を合わせて読むかでこれほど印象の変わる作品も珍しいでしょうね。特に本作ラスト、玄太郎爺さんのエンディングは結構胸にずっしり来てしまいました。
ルシアも登場していますが、さすがに顔見世程度の役割になっています。彼女は結構好きなキャラなので、今後もうまいこと登場させてほしいのですが、あの前作のの後とあってはやはり色々難しいのでしょうか。本書程度の顔見世逆に物足りなさが増幅された感も・・・
ネタバレ終わり。
とにかく、この作者さんの文章は私的にとてもフィーリングのあう部分が多いです。登場人物の価値観にしろ文体にしろ、なんとなく抑制が効いているというか、色々な意味でバランス感覚が優れているように感じられます。
前作との関係を抜きにしても純粋に一話ごとの質が高いので、ドビュッシー既読者もそうでない方も安心して手に取っていただきたい作品です。
評価:★★★★☆
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