2011年10月31日月曜日
正捕手の篠原さん(千羽カモメ)
スポーツものということもあって結構人を選ぶかもしれませんが、私にはとても面白かったです。ショートショート形式の連作コメディが、そのネタも含めて受け入れられるかどうかというところで、評価が分かれるのではないかと思います。
男装した女の子がエースピッチャーの高校野球小説です。そこそこ強い学校という設定ですが、スポコン要素は薄いというより皆無なので、その辺りを期待するとがっかりするかもしれません。ラブ30%、コメ60%、野球薀蓄10%という感じでしょうか。
なんといっても本書最大の特徴は、ショートショート形式で話が進んでいくことです。見開き2ページ完結の話をテンポ良くつむぎ上げていく手腕はなかなかお見事。ただし、最後の数十ページはショートショートの形を取らず、連作短編のラストとしてよい感じに落ちをつけてくれています。
ただ、ショートショートというのは分量的にどうしてもネタが薄くなりがちなので、そこのところはかなり好みが分かれるかもしれません。何だか落ちてないような微妙な話もあったりするのですが、そういうところも含めた筆者のセンスが、私にはかなりフィットしました。
登場人物はテンプレといえばテンプレなのですが、どことなく突き抜けないブレーキのかかった性格付けが好印象です。特に私のお気に入りは、主人公の幼馴染「深見月夜(ふかみつくよ)」。悪戯好きのお嬢様キャラなのですが、たまに凄く弱キャラになるのがなんとも良い味を出しています。
あえて弱点を挙げるとすれば、男子野球部を舞台としているため、女性キャラを増やしにくそうなところでしょうか。スタメン9人のうち4人は名前しか出てこない可哀想な扱いです。でも、逆に無理して話を大きくしないところが、コンパクトにまとまった小気味良い後味を生んでるようにも思えます。
やはり前提として野球の知識がそこそこあったほうが楽しめると思います。その点はハードルが高いともいえますが、4コマ漫画的なゆるふわコメディが好きな方には、きっと楽しんでいただけるのではないかと思います。
評価:★★★★☆
2011年10月9日日曜日
シューメーカーの足音(本城雅人)
イギリス流のビスポーク(注文靴)を題材にしながらも、粋というよりはちょっぴりドロドロした雰囲気のミステリ長編です。それでも革靴好きの方ならにやりとする場面が多いかと思います。はっきりしない話の輪郭が徐々に鮮明になっていく構成に加え、収束もなかなかお見事でした。
日本人ながらイギリスの本場に看板を構えるスター職人「斎藤良一」と、日本で安価に良い靴を作り続ける若手職人「榎本智也」。この二人の視点がどのように交差していくのか。はっきりした事件が起こるというよりは何がミステリなのかがミステリという感じの、なかなか私好みな展開でした。
最近は円高ということもあって、私もイギリスの既成靴を注文することが結構あります。それだけに本書のテーマに興味を惹かれて手に取ったのですが、文章がわかりやすい上に専門的な説明も非常に丁寧なので、革靴に関心の無い方でも問題なく楽しめるかと思います。
ただ、舞台の半分がイギリスで靴の薀蓄も盛りだくさんなのにも関わらず、話の雰囲気自体はなぜかコテコテの日本風という感じです。メインのストーリー自体が良くできていたので、私はさほど気にはなりませんでしたが、本書に何を求めるかで多少評価も変わってくるかもしれません。
本書の最大の魅力は、なんといっても斎藤のナルシストっぷりでしょう。まさに酸いも甘いも噛み分けるダークヒーローといった趣き。それと対比される形での、草食系な智也君の造詣も良かったと思いますが、人間としての魅力では完敗ですね。
サブキャラでは、なんといっても男装の見習い職人「永井美樹」ちゃんが、テンプレ気味と承知の上でやはり素晴らしいです。ただ、(ネタバレなので既読の方のみ反転でお願いします)彼女の彼氏の正体についてはあと一工夫ほしかった気がしないでもありません。ミスディレクションという意図はわかるものの、あれだけ思わせぶりなキャラですから、せめてもう少し意外性のある演出がほしかった気がします(ネタバレ終わり)。
多少ご都合主義な点も見られはしましたが、徐々に詳細が明らかになっていく構成から思わぬ形での収束、そして味のあるエピローグと、全体的になかなか質の高いエンターテインメント小説に仕上がっていると思います。
靴好きな方よりは、全く関心の無い方のほうがむしろ楽しめる一冊かもしれません。
評価:★★★☆☆
2011年10月5日水曜日
ブラウン神父の童心(G・K・チェスタトン)
神父といっても堅苦しい雰囲気は全然ありません。冴えない小男のどこか伝法な語り口が作品全体をシニカルな雰囲気にしています。人間の機微を細かに描く一方で世界に名を轟かす名探偵や大怪盗も登場するという、なかなかサービス精神旺盛な一冊です。
ブラウン神父といえば、紹介文によればシャーロック・ホームズとも並び称されるとのことで、ミステリファンの間では比較的よく知られたメジャーな名探偵かと思います。私も高校時代に学校の図書館で読んだ記憶がありますが、全く内容が残っていなかったので今回の再読です。
朴訥な神父が穏やかに事件を切り捨てる話だったかな、などと思っていたら全然違いました。これは訳者のお手柄だと思うのですが、神父の言い回しがなんとも蓮っ葉というかやさぐれ僧侶という感じで、それが作品全体を通した皮相的なムードにぴったりはまっています。
チェスタトンといえばトリック創案に定評のある作家だそうですが、個人的にはその部分はそれほどでもないかなと感じました。割とありふれたというか、無理のある仕掛けを強引な論理でこじつけている印象が強いです。
もっとも、それはあらゆる名探偵ものにいえることなので、その点に特に不満はありません。むしろそうした無理気味なロジックを演出する意外性のある展開が素晴らしかったです。特に一話目と二話目。そう持ってくるの?と唖然とさせられる、涼宮ハルヒも真っ青な驚愕の転がしっぷりです。
ただ、最初のインパクトが強すぎたせいか、中盤以降はちょっとだれ気味な感じが無きにしも非ずです。各話とも導入部分が少し堅めというか、物語に入り込みにくい感じなので、読み進めるのにはちょっぴり苦労しました。翻訳ミステリになれていない方だと特にしんどく感じるかもしれません。
とはいえ、それぞれの作品の質自体はかなり高いです。12話を一気に読破するよりは毎日少しずつ読み進めるほうが、中だるみも無くじっくり作品世界を堪能できるのではないかと思います。たった30ページに詰め込まれた絶妙の手管をじっくり鑑賞してください。
評価:★★★☆☆
2011年9月14日水曜日
夜の光(坂木 司)
高校生の少年少女4名を主役とした青春ミステリです。読み始めはちょっときついなと思いましたが、彼らの素性が明らかになるにつれ、徐々に感情移入させられていきます。世間や周囲と慎重に距離を取る彼らの青臭くさが、なんとも好ましい一冊です。
裏書にある「スパイ」とか「ミッション」とかいう言葉はあまり気にしないほうが良いと思います。自分の本音を隠すための擬態をそのように称しているのですね。
筆者らしい設定とは思いつつも、最初は何とも気取っているように感じられて、ちょっぴり抵抗を感じました。しかし、これが読み進めていくうちに徐々に心地良いものに変わっていくのだから不思議です。
なんといっても、4人の少年少女たちのキャラクターが素敵です。人当たりが良かったりチャラかったりする彼らの裏に隠れた事情が、一人につき一話ずつ順に明かされていきます。
その事情というか真相というかは、小説的に見れば必ずしもインパクトのあるものではありませんが、むしろその普通さが彼らの仲間内で見せる素っ気なさと相まって、作品全体を非常に良い雰囲気に仕立てあげています。
一応ミステリ要素もしっかり入っていますが、ストーリーを引き立てるための材料程度の扱いなので、そちら方面はあまり期待しすぎないほうが良いかもしれません。
終わり方もちょっとしんみりしつつ未来を見据えた感じで、とても良かったと思います。あまり派手でない、素っ気ない空気の作品が好きな方にはお勧めです。ミステリというよりは青春小説の佳作だと思います。
評価:★★★☆☆
裏書にある「スパイ」とか「ミッション」とかいう言葉はあまり気にしないほうが良いと思います。自分の本音を隠すための擬態をそのように称しているのですね。
筆者らしい設定とは思いつつも、最初は何とも気取っているように感じられて、ちょっぴり抵抗を感じました。しかし、これが読み進めていくうちに徐々に心地良いものに変わっていくのだから不思議です。
なんといっても、4人の少年少女たちのキャラクターが素敵です。人当たりが良かったりチャラかったりする彼らの裏に隠れた事情が、一人につき一話ずつ順に明かされていきます。
その事情というか真相というかは、小説的に見れば必ずしもインパクトのあるものではありませんが、むしろその普通さが彼らの仲間内で見せる素っ気なさと相まって、作品全体を非常に良い雰囲気に仕立てあげています。
一応ミステリ要素もしっかり入っていますが、ストーリーを引き立てるための材料程度の扱いなので、そちら方面はあまり期待しすぎないほうが良いかもしれません。
終わり方もちょっとしんみりしつつ未来を見据えた感じで、とても良かったと思います。あまり派手でない、素っ気ない空気の作品が好きな方にはお勧めです。ミステリというよりは青春小説の佳作だと思います。
評価:★★★☆☆
2011年8月9日火曜日
人面屋敷の惨劇(石持浅海)
筆者お得意の特殊な状況設定には感心したものの、惨劇というタイトルは大げさだなぁと思いながら読んでいたら、後半ちょっとやられました。ミステリとしての驚きはさほどでもありませんが、小気味良くまとまった手堅い一冊だと思います。
石持作品は、作者名を伏せられても余裕で特定できそうな独特の間合いというかスタイルがありますね。本書もクールでさりげない描写の中にこれでもかと伏線がねじ込まれていて、いかにも石持節といった感じです。
10年前に起きた幼児誘拐事件の被害者会メンバー6人が、ある情報をもとに「人面屋敷」の主人「土佐」を糾弾しようと乗り込みます。そして緊迫の状態が続く中、ある人物の登場によって作品の景色はガラッと反転します。
もともとユニークな設定だと思いながら読み進めていましたが、序盤からいきなりこれ?な驚愕展開にはびっくりするやら鳥肌が立つやら。読者を翻弄する筆者の演出にただ追従あるのみです。
見返しの筆者コメントから、本書はいわゆる「館もの」を趣向したものかと思っていましたが、それにしてはこざっぱりした舞台設定です。せいぜい「一軒家もの」といったところでしょうか。
ただ、そのコメントをよく読み返してみれば、「石持館」といいつつも「館もの」とは明言されていないようにも読み取れますね。もしかしてこれもミスディレクションだったのかもしれません。
後半はちょっぴりホラーっぽい展開も見せます。なにしろいつものごとく理詰めにきっちり話が展開していただけに、すっかり油断してしまいました。あのシーンは真夜中に読んだらちょっとやばかったかもしれません。
舞台設定や作品の雰囲気には大いに満足したものの、ミステリとしてみれば若干物足りない面もあったかもしれません。以下、ネタバレも含むので反転でお願いします。
最初の土佐殺しが全然謎でもなんでもないことを考えると、真の事件発生は随分遅かったといえますね。「亜衣」の登場は確かに鮮烈でしたが、藤田殺しが起きるまでですでに2/3を費やしていたため、謎解きという意味ではちょっと物足りなく感じました。
「秀一」については一人だけ最後のほうまで詳細が明かされていなかったので、何かあるのかなとは思っていましたが、散々引っ張った割にはそれほど驚くべき正体でもなかったように思います。
それに、せっかくいわくありげなお屋敷を舞台にしているのに、隠し扉やらなんやらの建物そのものに関わる謎が何もなかったのも少し残念でした。6つあった部屋のうち4つが結局閉ざされたままだったというのも、ちょっと空間的なスケールを小さくしているような気が。
以上のようにちょっと物足りないかなという点もなくはありませんでしたが、物語の最初から最後まできっちり計算されたつくりになっているためか、読後の不満感はそれほどありません。何よりあの絵のシーンはかなりショッキングですし、エンディングのまとめ方も良い感じだったのではと思います。
ミステリ的なインパクトはやや弱く感じられたものの、アクセントの効いた状況転換を繰り返しながら手堅くまとめあげるストーリー構成はさすがの一言です。石持ファンであれば文句なしにお勧めできる作品といえるでしょう。
評価:★★★☆☆
石持作品は、作者名を伏せられても余裕で特定できそうな独特の間合いというかスタイルがありますね。本書もクールでさりげない描写の中にこれでもかと伏線がねじ込まれていて、いかにも石持節といった感じです。
10年前に起きた幼児誘拐事件の被害者会メンバー6人が、ある情報をもとに「人面屋敷」の主人「土佐」を糾弾しようと乗り込みます。そして緊迫の状態が続く中、ある人物の登場によって作品の景色はガラッと反転します。
もともとユニークな設定だと思いながら読み進めていましたが、序盤からいきなりこれ?な驚愕展開にはびっくりするやら鳥肌が立つやら。読者を翻弄する筆者の演出にただ追従あるのみです。
見返しの筆者コメントから、本書はいわゆる「館もの」を趣向したものかと思っていましたが、それにしてはこざっぱりした舞台設定です。せいぜい「一軒家もの」といったところでしょうか。
ただ、そのコメントをよく読み返してみれば、「石持館」といいつつも「館もの」とは明言されていないようにも読み取れますね。もしかしてこれもミスディレクションだったのかもしれません。
後半はちょっぴりホラーっぽい展開も見せます。なにしろいつものごとく理詰めにきっちり話が展開していただけに、すっかり油断してしまいました。あのシーンは真夜中に読んだらちょっとやばかったかもしれません。
舞台設定や作品の雰囲気には大いに満足したものの、ミステリとしてみれば若干物足りない面もあったかもしれません。以下、ネタバレも含むので反転でお願いします。
最初の土佐殺しが全然謎でもなんでもないことを考えると、真の事件発生は随分遅かったといえますね。「亜衣」の登場は確かに鮮烈でしたが、藤田殺しが起きるまでですでに2/3を費やしていたため、謎解きという意味ではちょっと物足りなく感じました。
「秀一」については一人だけ最後のほうまで詳細が明かされていなかったので、何かあるのかなとは思っていましたが、散々引っ張った割にはそれほど驚くべき正体でもなかったように思います。
それに、せっかくいわくありげなお屋敷を舞台にしているのに、隠し扉やらなんやらの建物そのものに関わる謎が何もなかったのも少し残念でした。6つあった部屋のうち4つが結局閉ざされたままだったというのも、ちょっと空間的なスケールを小さくしているような気が。
以上のようにちょっと物足りないかなという点もなくはありませんでしたが、物語の最初から最後まできっちり計算されたつくりになっているためか、読後の不満感はそれほどありません。何よりあの絵のシーンはかなりショッキングですし、エンディングのまとめ方も良い感じだったのではと思います。
ミステリ的なインパクトはやや弱く感じられたものの、アクセントの効いた状況転換を繰り返しながら手堅くまとめあげるストーリー構成はさすがの一言です。石持ファンであれば文句なしにお勧めできる作品といえるでしょう。
評価:★★★☆☆
2011年8月7日日曜日
東京湾岸奪還プロジェクト ブレイクスルー・トライアル2(伊園 旬)
あらすじが面白そうだったので読んでみましたが、前作同様あまり私には合わない感じでした。しかし、本作単体なら突込みどころは多いものの、シリーズとしてはなかなか楽しみな展開も見せつつあります。
タイトルからして「あぶない刑事」や「踊る大捜査線」のような派手めの展開をちょっぴり期待していたのですが、その点については案の定肩透かしでした。とはいえ、誘拐された少女達のために攻略困難なミッションに挑むというシチュエーション自体は悪くなかったと思います。
構成も工夫されていて、侵入ミッションと救出ミッションの間に「子供たち」という捕らえられた側視点の章をはさんでいるのは、なかなかアクセントが効いてよかったです。誘拐された二人の少女のキャラクターもグッド。準レギュラー化しそうなので楽しみなところです。
このように長所といえる点もなくはないのですが、全般的に見るとやはり残念な印象のほうが強く残ってしまいました。以下、個人的に不満に思えた点を3つ挙げてみます。
1.主人公たちのSUGEEEE感が薄い
侵入シーンにおけるディテールの描写は本シリーズにおける長所の一つだと思うのですが、説明が丁寧な分だけ不可能っぽさも減じてしまっているような気がします。そのため、高度な技術を持つ主人公たちがあまり格好良く見えません。本作ではストーリー上も主人交たちは翻弄されっぱなしなので、カタルシスを感じられる部分が皆無でした。
2.文体がいまいちクールじゃない
これはあくまで個人的な受け取り方の問題かと思うのですが、説明的な文章が多い割りにそのシーンの情景が思い浮かびにくいように感じられました。本作でデビュー3作目ということだそうなので、こなれていないというよりは、これが筆者の個性ということになるのでしょうか。あくまで好みの問題ですが、もう少し行間で読ませるような文章のほうが個人的には嬉しいです。
3.「お約束」破りとご都合主義な展開
以下ネタバレも含むので、既読の方のみ反転でお願いします。
今回新たに仲間となる「瀬戸」や、「茅乃」の友人「沙璃亜」の登場があまりにも唐突に感じられました。沙璃亜は茅乃のとばっちりで一緒に誘拐されましたが、いくらなんでも巻き込まれた裏には別の理由があるのだろうとずっと疑いながら読んでいました。で、結果はそのままスルー。
これでは、あまりに主人公たちの負債が大きすぎるように思います。一方的に巻き込まれただけの沙璃亜の家族たちが、丹羽を全く責めようとしないのも不可解です。最後まで読んでみて、瀬戸を新キャラとして出したかったためにこういう形を取ったのだなとはわかりましたが、それであればなおのこと「雨降って地固まる」的なドラマを組み込んで欲しかったです。
茅乃が海中コンドミニアムについてたまたま知っていたこと、ゲーム機が全く気付かれなかったこと、コンドミニアムの納品先が「縁(ゆかり)」の会社だったことなど、ご都合主義な展開もかなり多いです。特に最後の点については、単に縁に出番を与えたかっただけなのではないかと勘ぐってしまいます。
ラストについてももやもやの残る収束となってしまいました。正直、最後の門脇たちのアクションシーンは、茅野が注意深いことを考えれば蛇足というか独り相撲な感が強いですし、あの女の意図についても全く見えないため、非常にすっきりしない読後感となってしまいました。
このように、本作だけでみれば厳しい評価とせざるを得ない内容だったと思いますが・・・続刊がでたら再チャレンジしちゃいそうな気もしています。というのも、新キャラの瀬戸や<<彼>>が実にいい味を出していたためです。
門脇との対比で行くと、パートナーは丹羽より瀬戸のほうがより映えるような気がします。また、<<彼>>に目をつけられたおかげで、今後の舞台がよりスケールアップしそうな点にも期待です。続刊の展開次第では、本書の評価もまた違ったものになってくるかもしれません。
評価:★☆☆☆☆
関連レビュー:
『ブレイクスルー・トライアル』(伊園 旬)
タイトルからして「あぶない刑事」や「踊る大捜査線」のような派手めの展開をちょっぴり期待していたのですが、その点については案の定肩透かしでした。とはいえ、誘拐された少女達のために攻略困難なミッションに挑むというシチュエーション自体は悪くなかったと思います。
構成も工夫されていて、侵入ミッションと救出ミッションの間に「子供たち」という捕らえられた側視点の章をはさんでいるのは、なかなかアクセントが効いてよかったです。誘拐された二人の少女のキャラクターもグッド。準レギュラー化しそうなので楽しみなところです。
このように長所といえる点もなくはないのですが、全般的に見るとやはり残念な印象のほうが強く残ってしまいました。以下、個人的に不満に思えた点を3つ挙げてみます。
1.主人公たちのSUGEEEE感が薄い
侵入シーンにおけるディテールの描写は本シリーズにおける長所の一つだと思うのですが、説明が丁寧な分だけ不可能っぽさも減じてしまっているような気がします。そのため、高度な技術を持つ主人公たちがあまり格好良く見えません。本作ではストーリー上も主人交たちは翻弄されっぱなしなので、カタルシスを感じられる部分が皆無でした。
2.文体がいまいちクールじゃない
これはあくまで個人的な受け取り方の問題かと思うのですが、説明的な文章が多い割りにそのシーンの情景が思い浮かびにくいように感じられました。本作でデビュー3作目ということだそうなので、こなれていないというよりは、これが筆者の個性ということになるのでしょうか。あくまで好みの問題ですが、もう少し行間で読ませるような文章のほうが個人的には嬉しいです。
3.「お約束」破りとご都合主義な展開
以下ネタバレも含むので、既読の方のみ反転でお願いします。
今回新たに仲間となる「瀬戸」や、「茅乃」の友人「沙璃亜」の登場があまりにも唐突に感じられました。沙璃亜は茅乃のとばっちりで一緒に誘拐されましたが、いくらなんでも巻き込まれた裏には別の理由があるのだろうとずっと疑いながら読んでいました。で、結果はそのままスルー。
これでは、あまりに主人公たちの負債が大きすぎるように思います。一方的に巻き込まれただけの沙璃亜の家族たちが、丹羽を全く責めようとしないのも不可解です。最後まで読んでみて、瀬戸を新キャラとして出したかったためにこういう形を取ったのだなとはわかりましたが、それであればなおのこと「雨降って地固まる」的なドラマを組み込んで欲しかったです。
茅乃が海中コンドミニアムについてたまたま知っていたこと、ゲーム機が全く気付かれなかったこと、コンドミニアムの納品先が「縁(ゆかり)」の会社だったことなど、ご都合主義な展開もかなり多いです。特に最後の点については、単に縁に出番を与えたかっただけなのではないかと勘ぐってしまいます。
ラストについてももやもやの残る収束となってしまいました。正直、最後の門脇たちのアクションシーンは、茅野が注意深いことを考えれば蛇足というか独り相撲な感が強いですし、あの女の意図についても全く見えないため、非常にすっきりしない読後感となってしまいました。
このように、本作だけでみれば厳しい評価とせざるを得ない内容だったと思いますが・・・続刊がでたら再チャレンジしちゃいそうな気もしています。というのも、新キャラの瀬戸や<<彼>>が実にいい味を出していたためです。
門脇との対比で行くと、パートナーは丹羽より瀬戸のほうがより映えるような気がします。また、<<彼>>に目をつけられたおかげで、今後の舞台がよりスケールアップしそうな点にも期待です。続刊の展開次第では、本書の評価もまた違ったものになってくるかもしれません。
評価:★☆☆☆☆
関連レビュー:
『ブレイクスルー・トライアル』(伊園 旬)
2011年8月4日木曜日
ジェノサイド(高野和明)
多少引っかかる点はあったものの、総じてハイレベルなエンターテインメント小説だったと思います。600ページ近い大作ですが、コンゴの戦場・ホワイトハウス・日本の大学院生周辺と3つの場面が次々入れ替わるスピーディーな展開で、意外に読みやすかったです。
ジャンルとしてはSFという分類でよいでしょうか。人類の進化、未知の新薬、情報セキュリティといったところが主なテーマですが、ほかにも様々な政治的、社会的トピックが目一杯盛り込まれています。これだけの内容を破綻させずにまとめ上げる筆力はお見事というほかありません。
私の職業柄ということもあって、RSA暗号方式の潜在的な危険性に関するテーマは特に興味深かったです。良く調べられているなぁと思ったら、謝辞において高木浩光氏の名前が。IT系では有名な氏の名前がいきなり出てきて、思わずにやっとしてしまいました。
中盤までの展開があまりにスリリングだったため、期待値のハードルをあげすぎたところはあるかもしれません。クライマックスから収束にかけてはまあこんなもんかなという印象ですが、話も破綻せずそれなりに納得感のある収束となっていて、読後の満足度はかなり高かったです。
韓国賛美、日本叩きとも取れる描写が結構目立つので、人によってはちょっと不快に感じられることもあるかもしれません。私も韓国人の知人がいるので極端な嫌韓ムードには眉をひそめてしまうほうなのですが、それにしても若干筆者の主観が入りすぎではないかという印象はあります。
話の筋に直接関係ないところだと思うので、もう少し控えめにしてもらったほうがバランスが良かったのではないかなという気が個人的にはします。もしかして何かの伏線なのかなと変に深読みしてしまい、肩透かし状態となってしまいました。
本書で一番疑問に感じたのは、主人公グループがクライマックスにおいて取った戦略です。もう少しうまいことやれなかったのかと。ネタバレも入るので以下は反転でお願いします。
ちょっとミステリ的なお約束に囚われすぎかもしれませんが、日本側の援軍はてっきり既出の人物なのかと思い込んでいました。一応伏線らしいものがいくつか仕込まれていたとはいえ、エマの存在についてはもう少しはっきりちらつかせて欲しかったかなという気も。
それ以上に引っかかったのは、エマの指示によるという脱アフリカの戦略。あまりにもリスクを取り過ぎじゃないでしょうか。アキリをどれだけ危険にされしているのかと。傭兵のうち二人が死んでしまったのは明らかに計算ではなさそうなので、もしマイヤーズまで死んでいたら脱出計画はどうなっていたのでしょう。
なによりマイアミでの飛空戦は秒単位の正確なオペレーションが求められていて、明らかに安全率低すぎでしょう。まあ、アキリが死んだと思わせるための何らかの手段は必要だったのでしょうが、複雑系をも計算対象とする超人類の立てる戦略ならば、もう少し良い方法がとれたのではないかなという気がします。
若干の引っかかりのため存分にのめり込めたとはいえませんが、それでも全体としては非常に楽しめる内容だったと思います。あれだけの薀蓄が詰め込まれたにもかかわらず、小説としてのエンターテインメント性が全く損なわれていないのが本書の素晴らしいところです。
特に戦場シーンの描写などは、日本人作家によるものとは思えない迫力と凄惨さがありました。ハードSFが好きな方には文句なく楽しめる内容だと思いますが、そもそも話の筋が面白い上、文体や構成も非常に読みやすいため、比較的万人にお勧めしやすい作品かと思います。
評価:★★★☆☆
ジャンルとしてはSFという分類でよいでしょうか。人類の進化、未知の新薬、情報セキュリティといったところが主なテーマですが、ほかにも様々な政治的、社会的トピックが目一杯盛り込まれています。これだけの内容を破綻させずにまとめ上げる筆力はお見事というほかありません。
私の職業柄ということもあって、RSA暗号方式の潜在的な危険性に関するテーマは特に興味深かったです。良く調べられているなぁと思ったら、謝辞において高木浩光氏の名前が。IT系では有名な氏の名前がいきなり出てきて、思わずにやっとしてしまいました。
中盤までの展開があまりにスリリングだったため、期待値のハードルをあげすぎたところはあるかもしれません。クライマックスから収束にかけてはまあこんなもんかなという印象ですが、話も破綻せずそれなりに納得感のある収束となっていて、読後の満足度はかなり高かったです。
韓国賛美、日本叩きとも取れる描写が結構目立つので、人によってはちょっと不快に感じられることもあるかもしれません。私も韓国人の知人がいるので極端な嫌韓ムードには眉をひそめてしまうほうなのですが、それにしても若干筆者の主観が入りすぎではないかという印象はあります。
話の筋に直接関係ないところだと思うので、もう少し控えめにしてもらったほうがバランスが良かったのではないかなという気が個人的にはします。もしかして何かの伏線なのかなと変に深読みしてしまい、肩透かし状態となってしまいました。
本書で一番疑問に感じたのは、主人公グループがクライマックスにおいて取った戦略です。もう少しうまいことやれなかったのかと。ネタバレも入るので以下は反転でお願いします。
ちょっとミステリ的なお約束に囚われすぎかもしれませんが、日本側の援軍はてっきり既出の人物なのかと思い込んでいました。一応伏線らしいものがいくつか仕込まれていたとはいえ、エマの存在についてはもう少しはっきりちらつかせて欲しかったかなという気も。
それ以上に引っかかったのは、エマの指示によるという脱アフリカの戦略。あまりにもリスクを取り過ぎじゃないでしょうか。アキリをどれだけ危険にされしているのかと。傭兵のうち二人が死んでしまったのは明らかに計算ではなさそうなので、もしマイヤーズまで死んでいたら脱出計画はどうなっていたのでしょう。
なによりマイアミでの飛空戦は秒単位の正確なオペレーションが求められていて、明らかに安全率低すぎでしょう。まあ、アキリが死んだと思わせるための何らかの手段は必要だったのでしょうが、複雑系をも計算対象とする超人類の立てる戦略ならば、もう少し良い方法がとれたのではないかなという気がします。
若干の引っかかりのため存分にのめり込めたとはいえませんが、それでも全体としては非常に楽しめる内容だったと思います。あれだけの薀蓄が詰め込まれたにもかかわらず、小説としてのエンターテインメント性が全く損なわれていないのが本書の素晴らしいところです。
特に戦場シーンの描写などは、日本人作家によるものとは思えない迫力と凄惨さがありました。ハードSFが好きな方には文句なく楽しめる内容だと思いますが、そもそも話の筋が面白い上、文体や構成も非常に読みやすいため、比較的万人にお勧めしやすい作品かと思います。
評価:★★★☆☆
2011年7月20日水曜日
エッジウェア卿の死(アガサ・クリスティー)
取り立てて大胆な仕掛けはありませんが、序盤から丹念に仕込まれた伏線が徐々につまびらかになっていく、何とも正攻法な構成の佳作です。エッジウェア卿夫人のいかにも大女優らしい壊れっぷり(超偏見)も素敵でした。
ヘイスティングズの登場するポアロものは、ドタバタ感が強くて高く評価しにくい作品が多い印象だったのですが、本書についてはすんなり楽しめたように思います。ヘイスティングズ自身のキャラクターについては嫌いではないので、彼が道化にならない作品が私的に好ましく感じられるようです。
福島正実さんの翻訳とも相性が良かったのかもしれません。ポアロの自信過剰なところが可愛く思えましたし、ヘイスティングズについてもただの間抜けでなくいかにも誠実な人柄だと感じられました。間抜け役はヘイスティングズの代わりにジャップ警部がしっかり果たしてくれてますし(笑)
冒頭から述べられている通り、本作品においてポアロはちょっとした失敗をします。その構図自体は前に読んだ「邪悪の家」と同様なのですけれど、前作では本当にポアロがへぼ探偵にしか見えなかったのに対し、本作ではそれなりにきっちり格好を付けてくれます。
本作には魅力的な女性がたくさん登場しますが、やはりヒロイン格となるのはエッジウェア卿未亡人にして女優の「ジェーン・ウィルキンスン」といって良いでしょうね。教養があるのかないのか、見たまま天然なのか実は計算高いのか、いかにも懐をのぞかせない胡散臭さが、実は事件の謎に大きく関わってきます。
以下ネタバレが入るので反転でお願いします。
ポアロシリーズについてはかなり勧善懲悪というか、良い人が報われ悪い人が裁かれるという印象があったので「カーロッタ・アダムズ」が殺されたのにはびっくりしました。それまでは彼女が真のヒロインなのかなと思いながら読んでいたので。
先ほどヘイスティングズがあまり間抜けでなかったと書きましたが、実際には「ロナルド・マシュー」殺害の引き金を引く痛恨の失敗をしていますね。ただ、今回は彼自身の過失とは思えない状況だったので、ヘイスティングズファンの私としてもこの扱いに不満はありません(笑)。
怪しい人物がころころ入れ替わる終盤のめまぐるしい展開は、いかにもクリスティらしくてよかったと思います。本作でとりわけ感心したのは伏線の仕込み方です。特にジェーンがカーロッタの人物模写を喜んでいた背景には思わず膝を打ちました。彼女の性格からして喜ぶのは妙だなと思っていたので。
多少の不満点もないでもありません。意味ありげだった執事が結局空気のままフェードアウトしたり、肝心のクライマックスでなぜか最重要人物のジェーンが立ち会っていなかったり。まぁ、ミスディレクションということはわかるのですが、ちょっと道具の無駄遣いかなという感じはしました。
以上、ネタバレ終わり。
というように多少の不満点はあったものの、総じて良くできたミステリだったように思います。それにやはり翻訳の雰囲気が大きかったでしょうか。私がヘイスティングズものに不満を持つのは、彼が無下に扱われることに我慢ならないからだと改めて気づかされてしまいました(笑)
評価:★★★☆☆
ヘイスティングズの登場するポアロものは、ドタバタ感が強くて高く評価しにくい作品が多い印象だったのですが、本書についてはすんなり楽しめたように思います。ヘイスティングズ自身のキャラクターについては嫌いではないので、彼が道化にならない作品が私的に好ましく感じられるようです。
福島正実さんの翻訳とも相性が良かったのかもしれません。ポアロの自信過剰なところが可愛く思えましたし、ヘイスティングズについてもただの間抜けでなくいかにも誠実な人柄だと感じられました。間抜け役はヘイスティングズの代わりにジャップ警部がしっかり果たしてくれてますし(笑)
冒頭から述べられている通り、本作品においてポアロはちょっとした失敗をします。その構図自体は前に読んだ「邪悪の家」と同様なのですけれど、前作では本当にポアロがへぼ探偵にしか見えなかったのに対し、本作ではそれなりにきっちり格好を付けてくれます。
本作には魅力的な女性がたくさん登場しますが、やはりヒロイン格となるのはエッジウェア卿未亡人にして女優の「ジェーン・ウィルキンスン」といって良いでしょうね。教養があるのかないのか、見たまま天然なのか実は計算高いのか、いかにも懐をのぞかせない胡散臭さが、実は事件の謎に大きく関わってきます。
以下ネタバレが入るので反転でお願いします。
ポアロシリーズについてはかなり勧善懲悪というか、良い人が報われ悪い人が裁かれるという印象があったので「カーロッタ・アダムズ」が殺されたのにはびっくりしました。それまでは彼女が真のヒロインなのかなと思いながら読んでいたので。
先ほどヘイスティングズがあまり間抜けでなかったと書きましたが、実際には「ロナルド・マシュー」殺害の引き金を引く痛恨の失敗をしていますね。ただ、今回は彼自身の過失とは思えない状況だったので、ヘイスティングズファンの私としてもこの扱いに不満はありません(笑)。
怪しい人物がころころ入れ替わる終盤のめまぐるしい展開は、いかにもクリスティらしくてよかったと思います。本作でとりわけ感心したのは伏線の仕込み方です。特にジェーンがカーロッタの人物模写を喜んでいた背景には思わず膝を打ちました。彼女の性格からして喜ぶのは妙だなと思っていたので。
多少の不満点もないでもありません。意味ありげだった執事が結局空気のままフェードアウトしたり、肝心のクライマックスでなぜか最重要人物のジェーンが立ち会っていなかったり。まぁ、ミスディレクションということはわかるのですが、ちょっと道具の無駄遣いかなという感じはしました。
以上、ネタバレ終わり。
というように多少の不満点はあったものの、総じて良くできたミステリだったように思います。それにやはり翻訳の雰囲気が大きかったでしょうか。私がヘイスティングズものに不満を持つのは、彼が無下に扱われることに我慢ならないからだと改めて気づかされてしまいました(笑)
評価:★★★☆☆
2011年7月17日日曜日
ファウンデーションの彼方へ(アイザック・アシモフ)
前3部作から約30年を隔てて発表された、ファンデーションシリーズ第4作です。前作までのちょっとトリッキーな構成とは趣きを異にする、正面突破の大作。私も本書は久しぶりに読みましたが、記憶に残っていたよりセンスオブワンダーしてましたね。
セルダンプランも折り返しの500年。すべてが順調にいっていることに逆に疑いを抱いたターミナスの若き議員「ゴラン・トレヴィズ」ですが、先鋭的な主張を市長から疎まれ、地球探しを口実にターミナスを追放される事態に陥ります。市長の内に秘めた狙い、第2ファウンデーションの思惑、そして第3勢力「ガイア」の正体とは?
ファンや編集者のプレッシャーに押された形での執筆だそうで、半ば伝説となっていた3部作の続編ということもあって、本人も相当書きづらかったようですが、それを本作のような形で昇華させたのは見事というほかありません。アシモフの数ある著作のなかでも指折りの傑作に仕上がっているかと思います。
本作品の特徴としてよく言われるのがアシモフの既存作品群における世界観の統合です。筆者の著作においては「銀河帝国」と並んであまりにも有名な「ロボット」シリーズの流れを組み込んだ他、「永遠の終わり」などの作品設定にも言及されています。
ただ、それらの作品を読んでいなくても、十分に本書だけで楽しめる内容となっています。従来の作品を読み込んでいるファンへのサービスを盛り込みつつ、新規の読者にも十分配慮するバランス感覚は流石の一言。ただ、単体でも読める内容とはいえ、3部作についてはやはり先に読んでおいた方が無難でしょう。
私が本書を読むのは20年ぶりくらいになるでしょうか。たまたまアシモフにハマっていた時期に、書店で3部作の続編がハードカバーで発売されているのを発見した驚きは今でもよく覚えています。高校生時代でお小遣いもあまり自由にならないなか、迷わず手に取りレジに持っていきました。
あとがきでも触れられていますが、当時の翻訳と比べて主人公の名前が「トレヴァイズ」から「トレヴィズ」に、「ゲイア」が「ガイア」にかわっています。人名はともかくとして、後者についてははラブロックの思想が下敷きになっているはずなので、日本語的にも「ガイア」のほうが通りが良いように思えますね。
ヒューゴー賞を受賞しているだけあって、本書は単独でも高いエンターテインメイント性を備えていますが、実は続編に向けてちょっぴり含みが残されています。第5作「ファウンデーションと地球」とあわせて「ゴラン・トレヴィズ」編と言っても良い内容で、続巻ではロボットものとの融合度合いがますます強くなっていきます。
文庫版では上下巻となる、計700ページに及ぶ大著。それなりに読むのに骨が折れる作品ではありますが、構成自体はむしろシンプルといってよいくらいのものです。3部作が技なら本書は力の1冊。まさに後々まで語り継がれるにふさわしい、SF史上に残る傑作と言ってよいでしょう。
評価:★★★★★
セルダンプランも折り返しの500年。すべてが順調にいっていることに逆に疑いを抱いたターミナスの若き議員「ゴラン・トレヴィズ」ですが、先鋭的な主張を市長から疎まれ、地球探しを口実にターミナスを追放される事態に陥ります。市長の内に秘めた狙い、第2ファウンデーションの思惑、そして第3勢力「ガイア」の正体とは?
ファンや編集者のプレッシャーに押された形での執筆だそうで、半ば伝説となっていた3部作の続編ということもあって、本人も相当書きづらかったようですが、それを本作のような形で昇華させたのは見事というほかありません。アシモフの数ある著作のなかでも指折りの傑作に仕上がっているかと思います。
本作品の特徴としてよく言われるのがアシモフの既存作品群における世界観の統合です。筆者の著作においては「銀河帝国」と並んであまりにも有名な「ロボット」シリーズの流れを組み込んだ他、「永遠の終わり」などの作品設定にも言及されています。
ただ、それらの作品を読んでいなくても、十分に本書だけで楽しめる内容となっています。従来の作品を読み込んでいるファンへのサービスを盛り込みつつ、新規の読者にも十分配慮するバランス感覚は流石の一言。ただ、単体でも読める内容とはいえ、3部作についてはやはり先に読んでおいた方が無難でしょう。
私が本書を読むのは20年ぶりくらいになるでしょうか。たまたまアシモフにハマっていた時期に、書店で3部作の続編がハードカバーで発売されているのを発見した驚きは今でもよく覚えています。高校生時代でお小遣いもあまり自由にならないなか、迷わず手に取りレジに持っていきました。
あとがきでも触れられていますが、当時の翻訳と比べて主人公の名前が「トレヴァイズ」から「トレヴィズ」に、「ゲイア」が「ガイア」にかわっています。人名はともかくとして、後者についてははラブロックの思想が下敷きになっているはずなので、日本語的にも「ガイア」のほうが通りが良いように思えますね。
ヒューゴー賞を受賞しているだけあって、本書は単独でも高いエンターテインメイント性を備えていますが、実は続編に向けてちょっぴり含みが残されています。第5作「ファウンデーションと地球」とあわせて「ゴラン・トレヴィズ」編と言っても良い内容で、続巻ではロボットものとの融合度合いがますます強くなっていきます。
文庫版では上下巻となる、計700ページに及ぶ大著。それなりに読むのに骨が折れる作品ではありますが、構成自体はむしろシンプルといってよいくらいのものです。3部作が技なら本書は力の1冊。まさに後々まで語り継がれるにふさわしい、SF史上に残る傑作と言ってよいでしょう。
評価:★★★★★
2011年7月4日月曜日
神様のカルテ(夏川草介)
穏やかな雰囲気に心温まる、地方病院を舞台とした医療小説です。楽しく読めましたけれど、「奇跡」とか「涙」とかいった紹介文は、ちょっとハードルあげ過ぎではないかという気がします。
過酷な地方の医療現場を題材としながらも、特にスリリングな事件も起きず、淡々と話が進んでいきます。3話構成のそれぞれで一応の区切りはありますが、連作中編といった感じでしょうか。
主な舞台は病院とボロアパート。隣人たちも個性的で良い味を出していますが、そんな安っぽい住まいに可憐な奥さんと住み続けるのは、一般的には理解しがたいところです。まあ、写真家の奥さんも相当な変人ではありますが。
貧乏な絵描きや学士たちと同類的な感じで仲良くしている主人公。しかし医局からはみ出たとはいえ、立派な医師であるところの主人公は比較的勝ち組の部類に入るはずです。しかも美人妻。
そんな彼に対して嫉妬のかけらも見せない隣人たちの寛大さには心うたれます。アパートの住人たちだけでなく、病院の患者やナースも皆よい人ばかり。良い人に囲まれた良い主人公が良い仕事をするお話です。
帯には「奇跡が起きる」などと書かれていますが、特になにも起こっていないような気がします。裏書きには「日本中を温かい涙に包み込んだ」などとありますが、本書で涙まで流せるのは、相当感受性の強い素敵な人だと思います。
内容紹介のあおり文には首を傾げざるを得ないもののの、過度な先入観を持たずに読めば十分楽しめる作品です。漱石の草枕を模したという主人公の妙な口調も、慣れてくればそれほど気になりません。
あまりに登場人物が良い人ばかりで、ストーリー上「毒」という要素が皆無なので、いわゆる読書通な人には評価されにくい作品かと思いますが、変に力の入らない軽文好きの方々には文句無しにお勧めの一冊です。
評価:★★★☆☆
過酷な地方の医療現場を題材としながらも、特にスリリングな事件も起きず、淡々と話が進んでいきます。3話構成のそれぞれで一応の区切りはありますが、連作中編といった感じでしょうか。
主な舞台は病院とボロアパート。隣人たちも個性的で良い味を出していますが、そんな安っぽい住まいに可憐な奥さんと住み続けるのは、一般的には理解しがたいところです。まあ、写真家の奥さんも相当な変人ではありますが。
貧乏な絵描きや学士たちと同類的な感じで仲良くしている主人公。しかし医局からはみ出たとはいえ、立派な医師であるところの主人公は比較的勝ち組の部類に入るはずです。しかも美人妻。
そんな彼に対して嫉妬のかけらも見せない隣人たちの寛大さには心うたれます。アパートの住人たちだけでなく、病院の患者やナースも皆よい人ばかり。良い人に囲まれた良い主人公が良い仕事をするお話です。
帯には「奇跡が起きる」などと書かれていますが、特になにも起こっていないような気がします。裏書きには「日本中を温かい涙に包み込んだ」などとありますが、本書で涙まで流せるのは、相当感受性の強い素敵な人だと思います。
内容紹介のあおり文には首を傾げざるを得ないもののの、過度な先入観を持たずに読めば十分楽しめる作品です。漱石の草枕を模したという主人公の妙な口調も、慣れてくればそれほど気になりません。
あまりに登場人物が良い人ばかりで、ストーリー上「毒」という要素が皆無なので、いわゆる読書通な人には評価されにくい作品かと思いますが、変に力の入らない軽文好きの方々には文句無しにお勧めの一冊です。
評価:★★★☆☆
2011年7月1日金曜日
ジョーカー・ゲーム(柳 広司)
「魔王」結城中佐率いる天才スパイ集団の活躍を描いたミステリ短編集です。戦前のハードでシビアな世界を舞台とする割りに、クールで無駄のない筆致のためか、存外に読みやすい作品でした。極上の雰囲気小説ですね。
軍国主義的な重たい雰囲気を覚悟していたのですが、その予想を覆してくれたのがスパイたちに叩き込まれている徹底的な客観性です。天皇という存在の正統性を議論し、何があろうと死なない、死なせないことを重要視する合理的思考。
私も平均的な日本人としてそれなりに天皇陛下に敬意を持ち、ほどほどに日本への愛国心も持っていますが、何事につけても盲目になってしまってはインチキ宗教と変わりません。極力シビアであることが要求されるスパイの世界においては尚更です。
とはいえ、あまりに客観的、合理的精神が行き過ぎると、裏切りの心配も当然に出てきます。愛国心など犬の餌にもならないと考えられる彼らを引き止めるものとは何なのか。
天才集団におけるこの強烈な自負心こそが、彼らをつなぎとめる根となっているのです。あらゆる人間的なものをそぎ落とすことが要求されるスパイという人種ならではの境地といえるでしょう。
元凄腕のスパイ結城中佐が指導する諜報員養成学校「D機関」。佐藤優さんの解説によれば、実際に戦前に存在した「陸軍中野学校」がモデルとなっているのだとか。
陸軍中野学校については、Wikipediaの説明を読む限りでもその凄まじさは想像に難くありませんが、本書に関してはそれほど凄惨な感じではありません。D機関という架空の団体として扱うことで、ミステリとしての読みやすさを実現しているということでしょうか。
とにかく本書については、スパイ小説である前に良質なミステリだというのが私の感想です。単純に諜報活動に焦点をあてれば、もっと色々えげつない演習が可能そうなところ、あえて筆致を抑えることで謎への焦点がより鮮明になっているように思えます。
本書を読んで懐かしい気持ちになったのは、なんとなく母の蔵書で読んだ胡桃沢耕司さんのスパイ小説を思い出したためです。あちらはエロ成分も結構入ってましたけど(笑)。もう手に入りにくいかもしれませんが、ご興味のある向きには探してみてはいかがでしょう。
評価:★★★☆☆
おすすめ作品:
軍国主義的な重たい雰囲気を覚悟していたのですが、その予想を覆してくれたのがスパイたちに叩き込まれている徹底的な客観性です。天皇という存在の正統性を議論し、何があろうと死なない、死なせないことを重要視する合理的思考。
私も平均的な日本人としてそれなりに天皇陛下に敬意を持ち、ほどほどに日本への愛国心も持っていますが、何事につけても盲目になってしまってはインチキ宗教と変わりません。極力シビアであることが要求されるスパイの世界においては尚更です。
とはいえ、あまりに客観的、合理的精神が行き過ぎると、裏切りの心配も当然に出てきます。愛国心など犬の餌にもならないと考えられる彼らを引き止めるものとは何なのか。
自分ならこの程度のことは出来なければならない。(P31)
天才集団におけるこの強烈な自負心こそが、彼らをつなぎとめる根となっているのです。あらゆる人間的なものをそぎ落とすことが要求されるスパイという人種ならではの境地といえるでしょう。
元凄腕のスパイ結城中佐が指導する諜報員養成学校「D機関」。佐藤優さんの解説によれば、実際に戦前に存在した「陸軍中野学校」がモデルとなっているのだとか。
陸軍中野学校については、Wikipediaの説明を読む限りでもその凄まじさは想像に難くありませんが、本書に関してはそれほど凄惨な感じではありません。D機関という架空の団体として扱うことで、ミステリとしての読みやすさを実現しているということでしょうか。
とにかく本書については、スパイ小説である前に良質なミステリだというのが私の感想です。単純に諜報活動に焦点をあてれば、もっと色々えげつない演習が可能そうなところ、あえて筆致を抑えることで謎への焦点がより鮮明になっているように思えます。
本書を読んで懐かしい気持ちになったのは、なんとなく母の蔵書で読んだ胡桃沢耕司さんのスパイ小説を思い出したためです。あちらはエロ成分も結構入ってましたけど(笑)。もう手に入りにくいかもしれませんが、ご興味のある向きには探してみてはいかがでしょう。
評価:★★★☆☆
おすすめ作品:
2011年6月28日火曜日
ファウンデーション3部作(アイザック・アシモフ)
「銀河帝国興亡史」というサブタイトルのイメージで読み進めると面食らうかもしれません。いかにもアシモフらしいミステリスピリッツに溢れた連作中・短編集です。とりわけ2巻収録の「ザ・ミュール」および3巻収録の「ファウンデーションによる探索」については唸らされること請け合いです。
天才「ハリ・セルダン」が「心理歴史学」を駆使した結果として導かれた銀河帝国滅亡の予言。滅亡自体は避けえぬものとしながらも、その後の混乱期を3万年から1,000年に短縮しようと「セルダン・プラン」が計画されます。そして、その種子となるべく銀河辺境に設立されるのが「ファウンデーション」です。
巨匠アシモフの手による「銀河帝国」ものなわけですが、いわゆる王道っぽいイメージからは随分外れた作品ではないかと思います。宇宙艦隊による戦闘シーンなどはあくまで二の次。主人公達が機知機略を駆使して難局を乗り越えていくのがシリーズを通した主眼となっています。
邦題サブタイトルからも予測できるかもしれませんが、本書はギボンの有名な歴史書「ローマ帝国衰亡史」から着想を得ているのだそうです。とりわけ1巻については、プランの歴史的転換点を拾い上げる形の連作5話構成になっていて、次々と年代が移り変わっていく軽快感が読者を飽きさせません。
間違いなくシリーズの中核をなしているのが「セルダン・プラン」という名の神の手的予定調和。私なりに各巻に副題をつけるとすれば、
セルダンの駆使した「心理歴史学」というのは、1巻のP28から引用すると、
そして、集団という没個性を扱っているだけでは予測不可能な「ミュール」という異能力者の登場により、プランは壊滅的な危機の縁に立たされてしまいます。
マクロな視点の危機を克服する平凡な一女性の機知。さらにはセルダン・プラン自体に備えられていた危機対処手段としての「第2ファウンデーション」の実体。
予定調和的な作品にありがちな退屈さを絶妙なタイミングで崩してくるところに本書のストーリー展開としての妙がありますが、かといって「セルダン・プラン」という権威に対するカタルシスが失われるわけでもありません。
この辺りのバランス感覚こそが、本シリーズが支持されている一番の理由ではないかと思います。アシモフは読者が何を喜ぶのかについての配慮がつくづく行き届いているようです。
今回ご紹介した3部作は1950年ごろに発表されたもので、私自身が最初に読んだのも今から20年ほど前の高校生時代です。今回改めて読み返してみて、科学技術的なところはともかくストーリーの面白さは全く色あせていないなと感じました。
正直なところ、若干技巧に走りすぎて物語の凄みという点で損をしているかなというところもなくはないのですが、約30年を隔てて発表された第4巻「ファウンデーションの彼方へ」ではその辺りも克服した全く異種の作品に仕上がっていますので、興味をもたれた方には是非ご一読いただきたいです。
評価:★★★★☆
巨匠アシモフの手による「銀河帝国」ものなわけですが、いわゆる王道っぽいイメージからは随分外れた作品ではないかと思います。宇宙艦隊による戦闘シーンなどはあくまで二の次。主人公達が機知機略を駆使して難局を乗り越えていくのがシリーズを通した主眼となっています。
邦題サブタイトルからも予測できるかもしれませんが、本書はギボンの有名な歴史書「ローマ帝国衰亡史」から着想を得ているのだそうです。とりわけ1巻については、プランの歴史的転換点を拾い上げる形の連作5話構成になっていて、次々と年代が移り変わっていく軽快感が読者を飽きさせません。
間違いなくシリーズの中核をなしているのが「セルダン・プラン」という名の神の手的予定調和。私なりに各巻に副題をつけるとすれば、
- 偉大なるセルダン・プラン
- セルダン・プランの危機
- セルダン・プランの克服
セルダンの駆使した「心理歴史学」というのは、1巻のP28から引用すると、
一定の社会的・経済的刺激に対する人間集団の反応を扱う数学の一分野であり、
扱われる人間集団が有効な統計処理を受けられるだけの十分な大きさを持っているという仮定が、その前提条件になっているとのことです。未来予測というといかにも胡散臭げですが、結局それをある一定の大きさを持つ集団にしか適用できないとすることで、もっともらしさを出しているわけです。
そして、集団という没個性を扱っているだけでは予測不可能な「ミュール」という異能力者の登場により、プランは壊滅的な危機の縁に立たされてしまいます。
マクロな視点の危機を克服する平凡な一女性の機知。さらにはセルダン・プラン自体に備えられていた危機対処手段としての「第2ファウンデーション」の実体。
予定調和的な作品にありがちな退屈さを絶妙なタイミングで崩してくるところに本書のストーリー展開としての妙がありますが、かといって「セルダン・プラン」という権威に対するカタルシスが失われるわけでもありません。
この辺りのバランス感覚こそが、本シリーズが支持されている一番の理由ではないかと思います。アシモフは読者が何を喜ぶのかについての配慮がつくづく行き届いているようです。
今回ご紹介した3部作は1950年ごろに発表されたもので、私自身が最初に読んだのも今から20年ほど前の高校生時代です。今回改めて読み返してみて、科学技術的なところはともかくストーリーの面白さは全く色あせていないなと感じました。
正直なところ、若干技巧に走りすぎて物語の凄みという点で損をしているかなというところもなくはないのですが、約30年を隔てて発表された第4巻「ファウンデーションの彼方へ」ではその辺りも克服した全く異種の作品に仕上がっていますので、興味をもたれた方には是非ご一読いただきたいです。
評価:★★★★☆
2011年6月26日日曜日
0能者ミナト 2(葉山透)
霊感皆無でも科学と論理で怪異に立ち向かう、ダークヒーロー「九条湊」のシリーズ第2弾です。超常と科学がまざった不思議現象の解明ロジックは相変わらずお見事でしたが、今回は構成もちょっと捻っていてハッとさせられます。
ミナトが沙耶とユウキを引き連れて事件に立ち向かうという構図は前回と変わらず。こういうお約束的なパターン化は、安心感があってよいですね。シリーズとして長続きしそうです。
ただ、今回はピンチっぽくなるのが強キャラのミナトなため、緊張感という点では若干落ちるかもしれません。正直に言うと、沙耶がミナトにネチネチいたぶられるシーンをもっとみたかった気が・・・沙耶分が足りない!
沙耶もユウキも普通に役立っている点が物足りなくはあったのですが、シリーズとしてみた場合、少年少女がミナトのパートナーとしてしっかり立ち居地を固める必要性はあったのかもしれません。
以下、少しネタバレが入るので既読の方のみ反転でお願いします。
前巻が2話構成で、今回も目次によると2話 + αだったので、当然中短編集かと思って読んでいたらまさかの長編構成。しかも1話のあの引き。すっかり油断していました。2巻目だからこその仕掛けという感じです。
1話のあの続き方は、いかにもホラーっぽい雰囲気が出ていて良かったですね。ただ、あのまま終わりでも味があったかもしれないなという気はしますが。ホラー小説ではああいうオチも結構ありますよね。
今回の蜃気楼の怪異は、前回の2話と比べると個人的にインパクトはそれほどでもなかったですが、不思議感の演出はなかなかだったと思います。あの悪意のない怪異は、超常現象と科学現象をミックスさせた、いかにも本シリーズらしい見せ方です。優しいエンディングも素敵でした。
次回は「夢」というタイトルの沙耶が活躍する話が入るらしいですが、雑誌掲載分でしょうか。やはり沙耶がいじられまくるのが個人的には一番楽しみなので、大いに期待しています(笑)
評価:★★★☆☆
関連レビュー:
0能者ミナト(葉山透)
ミナトが沙耶とユウキを引き連れて事件に立ち向かうという構図は前回と変わらず。こういうお約束的なパターン化は、安心感があってよいですね。シリーズとして長続きしそうです。
ただ、今回はピンチっぽくなるのが強キャラのミナトなため、緊張感という点では若干落ちるかもしれません。正直に言うと、沙耶がミナトにネチネチいたぶられるシーンをもっとみたかった気が・・・沙耶分が足りない!
沙耶もユウキも普通に役立っている点が物足りなくはあったのですが、シリーズとしてみた場合、少年少女がミナトのパートナーとしてしっかり立ち居地を固める必要性はあったのかもしれません。
以下、少しネタバレが入るので既読の方のみ反転でお願いします。
前巻が2話構成で、今回も目次によると2話 + αだったので、当然中短編集かと思って読んでいたらまさかの長編構成。しかも1話のあの引き。すっかり油断していました。2巻目だからこその仕掛けという感じです。
1話のあの続き方は、いかにもホラーっぽい雰囲気が出ていて良かったですね。ただ、あのまま終わりでも味があったかもしれないなという気はしますが。ホラー小説ではああいうオチも結構ありますよね。
今回の蜃気楼の怪異は、前回の2話と比べると個人的にインパクトはそれほどでもなかったですが、不思議感の演出はなかなかだったと思います。あの悪意のない怪異は、超常現象と科学現象をミックスさせた、いかにも本シリーズらしい見せ方です。優しいエンディングも素敵でした。
次回は「夢」というタイトルの沙耶が活躍する話が入るらしいですが、雑誌掲載分でしょうか。やはり沙耶がいじられまくるのが個人的には一番楽しみなので、大いに期待しています(笑)
評価:★★★☆☆
関連レビュー:
0能者ミナト(葉山透)
2011年6月16日木曜日
邪悪の家(アガサ・クリスティー)
なんとも評価の難しい作品ですが、ポアロ嫌いな人にはお勧めです。9割くらいまで読んだ時点でビッグ4並みの駄作だと思っていたら、最後の最後で実にクリスティらしい怒涛の展開が待っていました。
とにかくポアロが後手に回り続け翻弄されまくるので、アンチポアロの方には溜飲が下がるのではないでしょうか。名探偵の面影一片もなし。いつもながらのちょっと鼻につく自画自賛が、愛嬌でなくうっとうしく感じられてしまいます。
ヘイスティングズが登場すると、ポアロのそういう側面が際立つような気がしますね。ポアロ自身にとっては肝胆相照らす無二の親友だとしても、読者にとっては彼の負の側面を写す出来の悪い鏡のような存在という気が・・・
真犯人については私もなんとなく感づいていましたが、動機やその他の周辺事情が一気に押し寄せてくる最終盤の展開はお見事でした。途中のグダグダだった捜査過程を一気に吹き飛ばしてくれたと思います。
ただ、正直この話は「ポアロ最大の失敗」とサブタイトルをつけても良いくらい、ポアロにとって最初から最後まで冴えない事件でした。殺人事件にしたところで、結局ポアロに責任の帰するところがかなり大きかったように思いますし。
以下、ネタバレになるので既読の方のみ反転でお願いします。
ポアロが裏をかかれまくっている時点で、犯人はあの人意外ありえないなとは思っていました。ただ、動機については全然想像がつかなかったので、真相についてはかなりびっくりさせられました。
しかし、マギーの本名についてはフェアといって良いのでしょうかね。一応伏線らしきもののも仕込まれているとはいえ、人によっては頭にきてもおかしくないレベルと思います。私は「フェア」にあまりこだわらないので素直に楽しめましたが。
本書で感心したのは、クライマックスでの畳み掛け方。遺言状の件、窓ガラスの不審人物の件、そして事件の真相が次々と個別に明らかになっていく展開はお見事としか言いようがありません。
それぞれの状況が事件を複雑にしてしまう手口はクリスティ十八番のパターンといって良いと思いますが、本作でもそれが見事にはまったように思います。最後の腕時計の演出もお見事でした。
話の展開はいまいち、謎解きは秀逸という、実に評価の難しい作品です。ただ、個人的にはトリックのためだけにミステリを読んでいるわけではないので、あまり高い点数はつけられないかなという気がします。できれば格好良いポアロが読みたいのです。
新訳版も最近出ているみたいですね。
本書の訳ではヘイスティングズの口調などちょっと気になるところもあったので、新しいほうについても機会があれば目を通してみたいです。できればタイトルも創元推理文庫版の「エンド・ハウスの怪事件」に戻して欲しかったかなぁ・・・
評価:★★☆☆☆
とにかくポアロが後手に回り続け翻弄されまくるので、アンチポアロの方には溜飲が下がるのではないでしょうか。名探偵の面影一片もなし。いつもながらのちょっと鼻につく自画自賛が、愛嬌でなくうっとうしく感じられてしまいます。
ヘイスティングズが登場すると、ポアロのそういう側面が際立つような気がしますね。ポアロ自身にとっては肝胆相照らす無二の親友だとしても、読者にとっては彼の負の側面を写す出来の悪い鏡のような存在という気が・・・
真犯人については私もなんとなく感づいていましたが、動機やその他の周辺事情が一気に押し寄せてくる最終盤の展開はお見事でした。途中のグダグダだった捜査過程を一気に吹き飛ばしてくれたと思います。
ただ、正直この話は「ポアロ最大の失敗」とサブタイトルをつけても良いくらい、ポアロにとって最初から最後まで冴えない事件でした。殺人事件にしたところで、結局ポアロに責任の帰するところがかなり大きかったように思いますし。
以下、ネタバレになるので既読の方のみ反転でお願いします。
ポアロが裏をかかれまくっている時点で、犯人はあの人意外ありえないなとは思っていました。ただ、動機については全然想像がつかなかったので、真相についてはかなりびっくりさせられました。
しかし、マギーの本名についてはフェアといって良いのでしょうかね。一応伏線らしきもののも仕込まれているとはいえ、人によっては頭にきてもおかしくないレベルと思います。私は「フェア」にあまりこだわらないので素直に楽しめましたが。
本書で感心したのは、クライマックスでの畳み掛け方。遺言状の件、窓ガラスの不審人物の件、そして事件の真相が次々と個別に明らかになっていく展開はお見事としか言いようがありません。
それぞれの状況が事件を複雑にしてしまう手口はクリスティ十八番のパターンといって良いと思いますが、本作でもそれが見事にはまったように思います。最後の腕時計の演出もお見事でした。
話の展開はいまいち、謎解きは秀逸という、実に評価の難しい作品です。ただ、個人的にはトリックのためだけにミステリを読んでいるわけではないので、あまり高い点数はつけられないかなという気がします。できれば格好良いポアロが読みたいのです。
新訳版も最近出ているみたいですね。
本書の訳ではヘイスティングズの口調などちょっと気になるところもあったので、新しいほうについても機会があれば目を通してみたいです。できればタイトルも創元推理文庫版の「エンド・ハウスの怪事件」に戻して欲しかったかなぁ・・・
評価:★★☆☆☆
2011年6月11日土曜日
真夏の方程式(東野圭吾)
「ガリレオ」シリーズ最新作です。偏屈な科学者キャラの湯川が、夏の田舎町で知り合った少年と実験に勤しむ様子は「らしい」のか「らしくない」のか。おや?と感じるところも多少ありましたが、話の枠組みとしてはとても良かったと思います。
路線変更というわけでもないのでしょうけれど、今までのシリーズ作品と比べると少し趣が異なります。従来のファンからすると賛否あるところかもしれませんが、個人的には人情系の話が嫌いではないのでとても楽しめました。
草薙や内海もしっかり活躍していますが、湯川と直接絡む機会が少なめだったのはちょっと残念です。とはいえ、今回の話の作りからいえばやむをえないところではありますが。旅先の妙齢の女性とも全く何も起こりそうにない素っ気無さは相変わらずです。
ところどころに織り込まれた印象的なエピソードが、事件の重大な伏線になっているのは流石の手際。ただ、少し疑問に思う点もなくはありませんでした。以下ネタバレなので、既読の方だけ反転でお願いします。
まず、成実が起こしたという事件の話。結構重そうな雰囲気を仄めかせていたので、その点の説得力では問題なかったのですが、普通の中学生があの状況ですぐに人を刺し殺そうとまで思いきれるのかについては疑問に思います。
しかも、散々迷って追い詰められた後ならともかく、相手が出て行った後をわざわざ追いかけてすぐにブスリですからね。お前どんだけ沸点低いんだという感じで、割と良識的にみえる普段の言動と、かなりギャップを感じました。
それと事件の幕引きについて。湯川はわかったことを草薙たちに全部話すといっていたはずですが、煙突の蓋の件が明らかになれば流石に警察は見逃せないと思うのですが。仮に話していなかったとしても、実験で現象を再現できなかった時点で全てわかっていそうな湯川に話がいくのは確実なはず。
それ以前に、未必の故意とはいえ、明確な意図をもって恭平に指示を与えたであろう重治の罪が見逃されるのは、やはり釈然としません。一人の少年の将来を慮ったとはいえ、結局今回の選択の結果にしても恭平が心に傷を負ったことでは変わりないと思うのですが。
といように、ちょっと納得いかない点がいくつかあったのは確かですが、話の方向性自体についてはとても楽しめました。海辺の町における少年との一夏の邂逅。湯川シリーズらしい作品とはいえないかもしれませんが、筆者の狙った意図は十分成功しているのではないかと思います。
というわけで、おおむね満足できる作品ではありましたが、次はもう少し本シリーズらしいところも読みたい気がします。内海刑事とももっと絡んで欲しいですね。というか、きゃっきゃうふふするために無理して出した女性刑事だと思ってたんですが、そういうところのらしさだけは貫かれ続けるのでしょうか・・・
評価:★★★☆☆
関連作品(探偵ガリレオシリーズ)
路線変更というわけでもないのでしょうけれど、今までのシリーズ作品と比べると少し趣が異なります。従来のファンからすると賛否あるところかもしれませんが、個人的には人情系の話が嫌いではないのでとても楽しめました。
草薙や内海もしっかり活躍していますが、湯川と直接絡む機会が少なめだったのはちょっと残念です。とはいえ、今回の話の作りからいえばやむをえないところではありますが。旅先の妙齢の女性とも全く何も起こりそうにない素っ気無さは相変わらずです。
ところどころに織り込まれた印象的なエピソードが、事件の重大な伏線になっているのは流石の手際。ただ、少し疑問に思う点もなくはありませんでした。以下ネタバレなので、既読の方だけ反転でお願いします。
まず、成実が起こしたという事件の話。結構重そうな雰囲気を仄めかせていたので、その点の説得力では問題なかったのですが、普通の中学生があの状況ですぐに人を刺し殺そうとまで思いきれるのかについては疑問に思います。
しかも、散々迷って追い詰められた後ならともかく、相手が出て行った後をわざわざ追いかけてすぐにブスリですからね。お前どんだけ沸点低いんだという感じで、割と良識的にみえる普段の言動と、かなりギャップを感じました。
それと事件の幕引きについて。湯川はわかったことを草薙たちに全部話すといっていたはずですが、煙突の蓋の件が明らかになれば流石に警察は見逃せないと思うのですが。仮に話していなかったとしても、実験で現象を再現できなかった時点で全てわかっていそうな湯川に話がいくのは確実なはず。
それ以前に、未必の故意とはいえ、明確な意図をもって恭平に指示を与えたであろう重治の罪が見逃されるのは、やはり釈然としません。一人の少年の将来を慮ったとはいえ、結局今回の選択の結果にしても恭平が心に傷を負ったことでは変わりないと思うのですが。
といように、ちょっと納得いかない点がいくつかあったのは確かですが、話の方向性自体についてはとても楽しめました。海辺の町における少年との一夏の邂逅。湯川シリーズらしい作品とはいえないかもしれませんが、筆者の狙った意図は十分成功しているのではないかと思います。
というわけで、おおむね満足できる作品ではありましたが、次はもう少し本シリーズらしいところも読みたい気がします。内海刑事とももっと絡んで欲しいですね。というか、きゃっきゃうふふするために無理して出した女性刑事だと思ってたんですが、そういうところのらしさだけは貫かれ続けるのでしょうか・・・
評価:★★★☆☆
関連作品(探偵ガリレオシリーズ)
2011年6月7日火曜日
ねじまき少女(パオロ・バチガルピ)
疫病と資源枯渇の近未来バンコクを舞台にしたSF小説。重めな雰囲気はちょっと苦手な感じでしたが、このなんともいえない読後感はどう表現したものでしょう。主要SF賞を総なめというのも納得のインパクト。ノワール小説が好きな方にはたまらないのではないでしょうか。
裏書には
とありますが、少し不親切な内容紹介といえるかもしれません。最後のほうまでどこに話が落ちるのか全然わからなかったのですが、なるほどこう来るのかと思わず唸ってしまいました。
もちろん本作自体で完結した話ではあるのですが、同一世界観による中編作品がすでにいくつかあるとのこと。正直、「カロリーマン」などのわけのわからない単語がかなり出てくるので、できれば先にそちらを読みたかった気もします。
「アンダースン」や「エミコ」だけでなく、様々な人物の視点が入れ替わり立ち代り物語を紡ぎあげていきます。なかでも一番わかりやすく格好良かった「ジェイディー」がもっともお気に入りなキャラだったのですが、彼の下巻での扱いはいったいどうなっているのでしょう。わけわかりません(^^;
とにかく勧善懲悪とは程遠い暗黒(ノワール)展開が続きます。甘い話を期待して本書を読むのはやめたほうが良いでしょう。アンダースンとエミコの恋話的なものをちょっぴり期待していた私も、読了後の今となっては苦笑しかでてきません。
ただ、本書の話のオチはSFファンなら絶対好きでしょうね。さほど熱心でないSF読者の私でも、この世界観が今後どのように展開していくのか気になって仕方ありません。とにかく用語もよくわからなくて読み進めるのがしんどい作品ではありましたが、その見返りは十分いただけたものと思います。
評価:★★★★☆
裏書には
彼とねじまき少女エミコとの出会いは、世界の運命を大きく変えていった。
とありますが、少し不親切な内容紹介といえるかもしれません。最後のほうまでどこに話が落ちるのか全然わからなかったのですが、なるほどこう来るのかと思わず唸ってしまいました。
もちろん本作自体で完結した話ではあるのですが、同一世界観による中編作品がすでにいくつかあるとのこと。正直、「カロリーマン」などのわけのわからない単語がかなり出てくるので、できれば先にそちらを読みたかった気もします。
「アンダースン」や「エミコ」だけでなく、様々な人物の視点が入れ替わり立ち代り物語を紡ぎあげていきます。なかでも一番わかりやすく格好良かった「ジェイディー」がもっともお気に入りなキャラだったのですが、彼の下巻での扱いはいったいどうなっているのでしょう。わけわかりません(^^;
とにかく勧善懲悪とは程遠い暗黒(ノワール)展開が続きます。甘い話を期待して本書を読むのはやめたほうが良いでしょう。アンダースンとエミコの恋話的なものをちょっぴり期待していた私も、読了後の今となっては苦笑しかでてきません。
ただ、本書の話のオチはSFファンなら絶対好きでしょうね。さほど熱心でないSF読者の私でも、この世界観が今後どのように展開していくのか気になって仕方ありません。とにかく用語もよくわからなくて読み進めるのがしんどい作品ではありましたが、その見返りは十分いただけたものと思います。
評価:★★★★☆
2011年5月29日日曜日
まもなく電車が出現します(似鳥鶏)
シリーズ前2作と違い、今回は各話独立した純粋な短編集となっています。大技が炸裂した前作の後だけにどうなるものかと思っていましたが、全くの杞憂だったようです。各話とも質の高い作品揃いでしたが、とりわけ最終話については色々な意味でお腹一杯になりました。
全5話となっていますが、分量は30ページ弱から100ページ超までと各話まちまちです。雑誌掲載分の表題作は既読だったのですが、他の4話はすべて書き下ろしと贅沢な構成になっています。
個人的に一番気に入ったのは2話目「シチュー皿の底は平行宇宙に繋がるか?」、一番唸ったのは4話目「嫁と竜のどちらをとるか?」です。ともに30ページ前後のきわめて短い作品ですが、それだけに虚飾の無いアイデア勝負が鮮烈です。
特に後者はお見事。今までも散々名探偵振りをみせつてきてきた伊神ですが、たったあれだけの会話から導き出した真相には、目から鱗が落ちる思いでした。こういう作品に出会えると、ミステリファンで本当に良かったとしみじみ思います。
ただ、一番多くを語るべきはやはり最終話「今日から彼氏」でしょう。ミステリとしての枠組みをこえて、このシリーズに求めているテイストのすべてがつまっている作品だと思います。以下、ネタバレになるので反転でお願いします。
彼氏なんていわれると、順当に柳瀬先輩と付き合うことになるのか、それとも翠が絡んでくるのかと、目次のタイトルだけでワクテカ展開に期待が膨らんでいたのに、まさか第3者がひょっこり持っていってしまうとは・・・。
それにしても、葉山君の周りには頭の回転が異常に早い女性ばかり集まってくる印象です。今回の「入谷菜々香(いりやななか)」さんも、よく考えると即興のシチュエーションに恐るべき対応力を見せています。
とはいえ、携帯アドレスの件とか家を偽っていた件とか、冷静に考えると後からぼろの出そうな細工ばかりではあったかもしれません。それだけ切羽詰っていたということなのでしょう。
シリーズキャラとして思い入れのある柳瀬さんを裏切るような展開には読んでいて胸がきりきりする思いでしたが、最後は収まるべきところに収まったといったところでしょうか。
ただ、入谷さんが憎みきれないキャラだったのはなんとも複雑な後味です。完全な悪役なら万事めでたしで済んだと思うのですが、これじゃあ入谷さんめちゃくちゃ可哀想じゃありません?ホノボノの皮を被った筆者のサドっぷりには戦慄を禁じえません。(褒めてます)
携帯アドレスの件など、トリックとしてはすぐに気付いてしまうものもありましたけれど、ハウダニットにホワイダニットをうまくかぶせた構成に手堅い印象を感じました。恋愛要素だけでなく、ミステリとしても十分楽しめた作品だったと思います。
ところで今回「ゆーくん」呼ばわりされてましたが、葉山君の名前のヒントが出てくるのはこれが初めてになるでしょうか。名前にも何かの伏線があるんでしょうかね。
ネタバレ終わり。
今回は純粋な短編集ということで、全般的に前作ほどのインパクトは感じなかったものの、総じてクオリティの高い作品ばかりで、十分な満足感を得ることができたと思います。
次巻はいよいよ妹「亜里沙」編になるのでしょうか。亜里沙がヒロイン役の作品が2話ほど発表済みのはずですが、そちらは今回は未収録なので、いやがおうにも期待が増します。今回のような小粋な作品集も素敵でしたが、次回はまた大技を期待したいですね。
評価:★★★★☆
関連書籍:
全5話となっていますが、分量は30ページ弱から100ページ超までと各話まちまちです。雑誌掲載分の表題作は既読だったのですが、他の4話はすべて書き下ろしと贅沢な構成になっています。
個人的に一番気に入ったのは2話目「シチュー皿の底は平行宇宙に繋がるか?」、一番唸ったのは4話目「嫁と竜のどちらをとるか?」です。ともに30ページ前後のきわめて短い作品ですが、それだけに虚飾の無いアイデア勝負が鮮烈です。
特に後者はお見事。今までも散々名探偵振りをみせつてきてきた伊神ですが、たったあれだけの会話から導き出した真相には、目から鱗が落ちる思いでした。こういう作品に出会えると、ミステリファンで本当に良かったとしみじみ思います。
ただ、一番多くを語るべきはやはり最終話「今日から彼氏」でしょう。ミステリとしての枠組みをこえて、このシリーズに求めているテイストのすべてがつまっている作品だと思います。以下、ネタバレになるので反転でお願いします。
彼氏なんていわれると、順当に柳瀬先輩と付き合うことになるのか、それとも翠が絡んでくるのかと、目次のタイトルだけでワクテカ展開に期待が膨らんでいたのに、まさか第3者がひょっこり持っていってしまうとは・・・。
それにしても、葉山君の周りには頭の回転が異常に早い女性ばかり集まってくる印象です。今回の「入谷菜々香(いりやななか)」さんも、よく考えると即興のシチュエーションに恐るべき対応力を見せています。
とはいえ、携帯アドレスの件とか家を偽っていた件とか、冷静に考えると後からぼろの出そうな細工ばかりではあったかもしれません。それだけ切羽詰っていたということなのでしょう。
シリーズキャラとして思い入れのある柳瀬さんを裏切るような展開には読んでいて胸がきりきりする思いでしたが、最後は収まるべきところに収まったといったところでしょうか。
ただ、入谷さんが憎みきれないキャラだったのはなんとも複雑な後味です。完全な悪役なら万事めでたしで済んだと思うのですが、これじゃあ入谷さんめちゃくちゃ可哀想じゃありません?ホノボノの皮を被った筆者のサドっぷりには戦慄を禁じえません。(褒めてます)
携帯アドレスの件など、トリックとしてはすぐに気付いてしまうものもありましたけれど、ハウダニットにホワイダニットをうまくかぶせた構成に手堅い印象を感じました。恋愛要素だけでなく、ミステリとしても十分楽しめた作品だったと思います。
ところで今回「ゆーくん」呼ばわりされてましたが、葉山君の名前のヒントが出てくるのはこれが初めてになるでしょうか。名前にも何かの伏線があるんでしょうかね。
ネタバレ終わり。
今回は純粋な短編集ということで、全般的に前作ほどのインパクトは感じなかったものの、総じてクオリティの高い作品ばかりで、十分な満足感を得ることができたと思います。
次巻はいよいよ妹「亜里沙」編になるのでしょうか。亜里沙がヒロイン役の作品が2話ほど発表済みのはずですが、そちらは今回は未収録なので、いやがおうにも期待が増します。今回のような小粋な作品集も素敵でしたが、次回はまた大技を期待したいですね。
評価:★★★★☆
関連書籍:
2011年5月17日火曜日
モップの精は深夜に現れる(近藤史恵)
ギャルっぽいファッションのスーパー掃除人「キリコ」シリーズ第2弾。各話でキリコと知り合う登場人物たちとの交流に、大変心温まります。前作のネタバレが若干入っているので、未読の方は順番に読んだほうが良いかと思います。前巻のレビューはこちらから。
全4話ですが、最終話は旦那の大介が主役となる少し毛色が違った話なので、3+1話といったほうが良いかもしれません。以下、各話の感想です。
■ 悪い芽
実際にキリコみたいなファッションの清掃作業員がいたら、私も文句は言わないまでも眉はひそめるかなという気がします。最初は八つ当たり気味に難癖をつけながらも、徐々にキリコと打ち解けていく中間管理職のおじさん「栗山」。彼にキリコが持ち込んだ事件の予兆とは・・・
■ 鍵のない扉
かわいらしい名前と実際とのギャップに密かなコンプレックスを持つ、零細編集プロダクション勤務の「本田くるみ」。その名前に対するキリコの解釈が、くるみの気持ちをぐっと楽にします。頭の回転だけではない、キリコが人を見るスタンスが現われているようで心地よいです。
■ オーバー・ザ・レインボー
彼氏の二股が発覚してへこみまくるモデル事務所勤務の「葵」。例によってキリコとの交流の中で立ち直っていくのですが、それより面白いなと思ったのは、彼女がモデルになろうと思った経緯です。女性はガラッと変わりますからねー・・・いつも異化効果にやられっぱなしです。
■ きみに会いたいと思うこと
旦那の大介視点のお話となります。祖母の看護をまかせっきりなことに後ろめたさを持つ大介。そんななかキリコが1ヶ月の旅行に出たいと言い出します。快諾する大介ですが、キリコ不在の状況に徐々に不安を募らせていくことに。ちょっと重めの話題も入ってますが、後味はすっきりさわやかなのが良かったです。
ミステリとしてはやはり最終話が秀逸だったでしょうか。ただ、どちらかというと色々な職業の裏側を垣間見せることこそ本書の主眼になっているかと思います。各話の登場人物がそれぞれなかなか魅力的だっただけに、一度きりの登場というのが物足りないといえばいえるかもしれせん。
評価:★★★☆☆
関連レビュー:
天使はモップを持って(近藤史恵)
全4話ですが、最終話は旦那の大介が主役となる少し毛色が違った話なので、3+1話といったほうが良いかもしれません。以下、各話の感想です。
■ 悪い芽
実際にキリコみたいなファッションの清掃作業員がいたら、私も文句は言わないまでも眉はひそめるかなという気がします。最初は八つ当たり気味に難癖をつけながらも、徐々にキリコと打ち解けていく中間管理職のおじさん「栗山」。彼にキリコが持ち込んだ事件の予兆とは・・・
■ 鍵のない扉
かわいらしい名前と実際とのギャップに密かなコンプレックスを持つ、零細編集プロダクション勤務の「本田くるみ」。その名前に対するキリコの解釈が、くるみの気持ちをぐっと楽にします。頭の回転だけではない、キリコが人を見るスタンスが現われているようで心地よいです。
■ オーバー・ザ・レインボー
彼氏の二股が発覚してへこみまくるモデル事務所勤務の「葵」。例によってキリコとの交流の中で立ち直っていくのですが、それより面白いなと思ったのは、彼女がモデルになろうと思った経緯です。女性はガラッと変わりますからねー・・・いつも異化効果にやられっぱなしです。
■ きみに会いたいと思うこと
旦那の大介視点のお話となります。祖母の看護をまかせっきりなことに後ろめたさを持つ大介。そんななかキリコが1ヶ月の旅行に出たいと言い出します。快諾する大介ですが、キリコ不在の状況に徐々に不安を募らせていくことに。ちょっと重めの話題も入ってますが、後味はすっきりさわやかなのが良かったです。
ミステリとしてはやはり最終話が秀逸だったでしょうか。ただ、どちらかというと色々な職業の裏側を垣間見せることこそ本書の主眼になっているかと思います。各話の登場人物がそれぞれなかなか魅力的だっただけに、一度きりの登場というのが物足りないといえばいえるかもしれせん。
評価:★★★☆☆
関連レビュー:
天使はモップを持って(近藤史恵)
2011年5月6日金曜日
ポアロ登場(アガサ・クリスティー)
ポアロとヘイスティングズのコンビが活躍する初期短編集。ヘイスティングズが出てくる作品集なのでミステリ分は期待していなかったのですが、本書は短いなかでも唸らされる作品が多かったように思います。
全14作品、なかには20ページを切るものもあり、非常にコンパクトな作品ばかりのラインナップとなっています。長編のポアロやヘイスティングズが好きな方にはちょっと食い足りないところもあるかもしれません。
私はけっしてヘイスティングズが嫌いなわけではないのですが、彼の動きがいつも派手すぎるため、どうしてもドタバタになってしまう印象を持っています。その点、本書は二人の掛け合いがさらっと軽快に流れていくのが好印象でした。
これだけ短いとミステリとしてのネタもすぐに割れてしまいそうなものですが、そこが一筋縄では行きません。これだけ小粒な作品ばかりなのに、ことごとく予想を外してくる豪腕はお見事としか言いようがありません。
とはいえ流石にこの分量では、ロジック的に若干の飛躍を感じさせるところもなくはありません。生粋のミステリファンにはその点評価が辛くなるところしれませんが、私はそういった細部があまり気にならないたちなので問題ありませんでした。
私のお気に入りは、本書最長(それでも44ページですが)の「<西洋の星>盗難事件」、ミステリ的に一番クールだった「百万ドル債権盗難事件」、首相誘拐の大事件に関与する「首相誘拐事件」などといったところです。
「チョコレートの箱」は過去のポアロの失敗談という意味で貴重な位置づけの作品ですが、個人的には印象的なエピソードの割りにミステリとしてはいまいちな感じがしました。
ポアロというキャラクタは感情移入の仕方が難しいと個人的には感じていたのですが、香山二三郎氏の巻末解説によると、クリスティ自身が彼に反発を感じることもあったのだとか。
その意味では、話の短さのおかげで彼のキャラの濃さが薄まってくれたというところはあるかもしれません。ポアロへの思い入れ次第で、本書に対する評価は大きく変わってくるのではないかと思います。
評価:★★★★☆
全14作品、なかには20ページを切るものもあり、非常にコンパクトな作品ばかりのラインナップとなっています。長編のポアロやヘイスティングズが好きな方にはちょっと食い足りないところもあるかもしれません。
私はけっしてヘイスティングズが嫌いなわけではないのですが、彼の動きがいつも派手すぎるため、どうしてもドタバタになってしまう印象を持っています。その点、本書は二人の掛け合いがさらっと軽快に流れていくのが好印象でした。
これだけ短いとミステリとしてのネタもすぐに割れてしまいそうなものですが、そこが一筋縄では行きません。これだけ小粒な作品ばかりなのに、ことごとく予想を外してくる豪腕はお見事としか言いようがありません。
とはいえ流石にこの分量では、ロジック的に若干の飛躍を感じさせるところもなくはありません。生粋のミステリファンにはその点評価が辛くなるところしれませんが、私はそういった細部があまり気にならないたちなので問題ありませんでした。
私のお気に入りは、本書最長(それでも44ページですが)の「<西洋の星>盗難事件」、ミステリ的に一番クールだった「百万ドル債権盗難事件」、首相誘拐の大事件に関与する「首相誘拐事件」などといったところです。
「チョコレートの箱」は過去のポアロの失敗談という意味で貴重な位置づけの作品ですが、個人的には印象的なエピソードの割りにミステリとしてはいまいちな感じがしました。
ポアロというキャラクタは感情移入の仕方が難しいと個人的には感じていたのですが、香山二三郎氏の巻末解説によると、クリスティ自身が彼に反発を感じることもあったのだとか。
その意味では、話の短さのおかげで彼のキャラの濃さが薄まってくれたというところはあるかもしれません。ポアロへの思い入れ次第で、本書に対する評価は大きく変わってくるのではないかと思います。
評価:★★★★☆
2011年5月1日日曜日
東京バンドワゴン(小路幸也)
明治の創業以来3代続く古本屋「東京バンドワゴン」を舞台にした大家族物語。複雑な家庭事情は山積みながら、根底を流れるアットホームな雰囲気が素敵です。語り手が天国のおばあちゃんというのも面白いですね。
全4話の各話ごとに完結したミステリになっていますが、同時に家族にまつわる物語も進展を見せていきます。時にはこの人とこの人がくっついちゃっていいの?と人物関係図を見返すしてしまうことも。
下手をするとドロドロしかねない雰囲気の設定を、終始暖かなほんわかムードとしてくれているのが、語り手であるところの天国のおばあちゃん「サチ」。
霊感の強い「紺(こん)」とは会話を交わしたりすることもありますが、基本的には現世に影響を及ぼさない神の視点。客観的でありながら暖かい、なんとも不思議な情緒を生み出しています。
この手の話は下手するとごちゃごちゃした話になってしまいがちかと思いますが、各話それぞれにしっかり焦点を絞りながらも、家族達が満遍なく活躍できるような話となっているのはさすがの一言です。
ミステリとしてみた場合あまり派手な仕掛けはありませんが、それも本書ではプラスに働いているようです。基本的には家族の暖かかさを描く作品ですので、あまり尖がったネタ仕込では興ざめになってしまうのでしょう。
これだけ大人数の家族だと色々な方向へ話が広がりそうで、今後の展開が楽しみです。個人的には「花陽(かよ)」と「研人(けんと)」の小学生コンビの成長に期待です。
評価:★★★☆☆
全4話の各話ごとに完結したミステリになっていますが、同時に家族にまつわる物語も進展を見せていきます。時にはこの人とこの人がくっついちゃっていいの?と人物関係図を見返すしてしまうことも。
下手をするとドロドロしかねない雰囲気の設定を、終始暖かなほんわかムードとしてくれているのが、語り手であるところの天国のおばあちゃん「サチ」。
霊感の強い「紺(こん)」とは会話を交わしたりすることもありますが、基本的には現世に影響を及ぼさない神の視点。客観的でありながら暖かい、なんとも不思議な情緒を生み出しています。
この手の話は下手するとごちゃごちゃした話になってしまいがちかと思いますが、各話それぞれにしっかり焦点を絞りながらも、家族達が満遍なく活躍できるような話となっているのはさすがの一言です。
ミステリとしてみた場合あまり派手な仕掛けはありませんが、それも本書ではプラスに働いているようです。基本的には家族の暖かかさを描く作品ですので、あまり尖がったネタ仕込では興ざめになってしまうのでしょう。
これだけ大人数の家族だと色々な方向へ話が広がりそうで、今後の展開が楽しみです。個人的には「花陽(かよ)」と「研人(けんと)」の小学生コンビの成長に期待です。
評価:★★★☆☆
登録:
投稿 (Atom)

