穏やかな雰囲気に心温まる、地方病院を舞台とした医療小説です。楽しく読めましたけれど、「奇跡」とか「涙」とかいった紹介文は、ちょっとハードルあげ過ぎではないかという気がします。
過酷な地方の医療現場を題材としながらも、特にスリリングな事件も起きず、淡々と話が進んでいきます。3話構成のそれぞれで一応の区切りはありますが、連作中編といった感じでしょうか。
主な舞台は病院とボロアパート。隣人たちも個性的で良い味を出していますが、そんな安っぽい住まいに可憐な奥さんと住み続けるのは、一般的には理解しがたいところです。まあ、写真家の奥さんも相当な変人ではありますが。
貧乏な絵描きや学士たちと同類的な感じで仲良くしている主人公。しかし医局からはみ出たとはいえ、立派な医師であるところの主人公は比較的勝ち組の部類に入るはずです。しかも美人妻。
そんな彼に対して嫉妬のかけらも見せない隣人たちの寛大さには心うたれます。アパートの住人たちだけでなく、病院の患者やナースも皆よい人ばかり。良い人に囲まれた良い主人公が良い仕事をするお話です。
帯には「奇跡が起きる」などと書かれていますが、特になにも起こっていないような気がします。裏書きには「日本中を温かい涙に包み込んだ」などとありますが、本書で涙まで流せるのは、相当感受性の強い素敵な人だと思います。
内容紹介のあおり文には首を傾げざるを得ないもののの、過度な先入観を持たずに読めば十分楽しめる作品です。漱石の草枕を模したという主人公の妙な口調も、慣れてくればそれほど気になりません。
あまりに登場人物が良い人ばかりで、ストーリー上「毒」という要素が皆無なので、いわゆる読書通な人には評価されにくい作品かと思いますが、変に力の入らない軽文好きの方々には文句無しにお勧めの一冊です。
評価:★★★☆☆
2011年7月4日月曜日
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