ポアロとヘイスティングズのコンビが活躍する初期短編集。ヘイスティングズが出てくる作品集なのでミステリ分は期待していなかったのですが、本書は短いなかでも唸らされる作品が多かったように思います。
全14作品、なかには20ページを切るものもあり、非常にコンパクトな作品ばかりのラインナップとなっています。長編のポアロやヘイスティングズが好きな方にはちょっと食い足りないところもあるかもしれません。
私はけっしてヘイスティングズが嫌いなわけではないのですが、彼の動きがいつも派手すぎるため、どうしてもドタバタになってしまう印象を持っています。その点、本書は二人の掛け合いがさらっと軽快に流れていくのが好印象でした。
これだけ短いとミステリとしてのネタもすぐに割れてしまいそうなものですが、そこが一筋縄では行きません。これだけ小粒な作品ばかりなのに、ことごとく予想を外してくる豪腕はお見事としか言いようがありません。
とはいえ流石にこの分量では、ロジック的に若干の飛躍を感じさせるところもなくはありません。生粋のミステリファンにはその点評価が辛くなるところしれませんが、私はそういった細部があまり気にならないたちなので問題ありませんでした。
私のお気に入りは、本書最長(それでも44ページですが)の「<西洋の星>盗難事件」、ミステリ的に一番クールだった「百万ドル債権盗難事件」、首相誘拐の大事件に関与する「首相誘拐事件」などといったところです。
「チョコレートの箱」は過去のポアロの失敗談という意味で貴重な位置づけの作品ですが、個人的には印象的なエピソードの割りにミステリとしてはいまいちな感じがしました。
ポアロというキャラクタは感情移入の仕方が難しいと個人的には感じていたのですが、香山二三郎氏の巻末解説によると、クリスティ自身が彼に反発を感じることもあったのだとか。
その意味では、話の短さのおかげで彼のキャラの濃さが薄まってくれたというところはあるかもしれません。ポアロへの思い入れ次第で、本書に対する評価は大きく変わってくるのではないかと思います。
評価:★★★★☆
2011年5月6日金曜日
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