筆者お得意の特殊な状況設定には感心したものの、惨劇というタイトルは大げさだなぁと思いながら読んでいたら、後半ちょっとやられました。ミステリとしての驚きはさほどでもありませんが、小気味良くまとまった手堅い一冊だと思います。
石持作品は、作者名を伏せられても余裕で特定できそうな独特の間合いというかスタイルがありますね。本書もクールでさりげない描写の中にこれでもかと伏線がねじ込まれていて、いかにも石持節といった感じです。
10年前に起きた幼児誘拐事件の被害者会メンバー6人が、ある情報をもとに「人面屋敷」の主人「土佐」を糾弾しようと乗り込みます。そして緊迫の状態が続く中、ある人物の登場によって作品の景色はガラッと反転します。
もともとユニークな設定だと思いながら読み進めていましたが、序盤からいきなりこれ?な驚愕展開にはびっくりするやら鳥肌が立つやら。読者を翻弄する筆者の演出にただ追従あるのみです。
見返しの筆者コメントから、本書はいわゆる「館もの」を趣向したものかと思っていましたが、それにしてはこざっぱりした舞台設定です。せいぜい「一軒家もの」といったところでしょうか。
ただ、そのコメントをよく読み返してみれば、「石持館」といいつつも「館もの」とは明言されていないようにも読み取れますね。もしかしてこれもミスディレクションだったのかもしれません。
後半はちょっぴりホラーっぽい展開も見せます。なにしろいつものごとく理詰めにきっちり話が展開していただけに、すっかり油断してしまいました。あのシーンは真夜中に読んだらちょっとやばかったかもしれません。
舞台設定や作品の雰囲気には大いに満足したものの、ミステリとしてみれば若干物足りない面もあったかもしれません。以下、ネタバレも含むので反転でお願いします。
最初の土佐殺しが全然謎でもなんでもないことを考えると、真の事件発生は随分遅かったといえますね。「亜衣」の登場は確かに鮮烈でしたが、藤田殺しが起きるまでですでに2/3を費やしていたため、謎解きという意味ではちょっと物足りなく感じました。
「秀一」については一人だけ最後のほうまで詳細が明かされていなかったので、何かあるのかなとは思っていましたが、散々引っ張った割にはそれほど驚くべき正体でもなかったように思います。
それに、せっかくいわくありげなお屋敷を舞台にしているのに、隠し扉やらなんやらの建物そのものに関わる謎が何もなかったのも少し残念でした。6つあった部屋のうち4つが結局閉ざされたままだったというのも、ちょっと空間的なスケールを小さくしているような気が。
以上のようにちょっと物足りないかなという点もなくはありませんでしたが、物語の最初から最後まできっちり計算されたつくりになっているためか、読後の不満感はそれほどありません。何よりあの絵のシーンはかなりショッキングですし、エンディングのまとめ方も良い感じだったのではと思います。
ミステリ的なインパクトはやや弱く感じられたものの、アクセントの効いた状況転換を繰り返しながら手堅くまとめあげるストーリー構成はさすがの一言です。石持ファンであれば文句なしにお勧めできる作品といえるでしょう。
評価:★★★☆☆
2011年8月9日火曜日
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