2010年11月3日水曜日

魚舟・獣舟(上田早夕里) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

ハードSFの中短編集。評価の高い表題作をはじめ、全編素晴らしいクオリティ。苦い後味の作品は基本的に苦手なのですが、筆者の文章とは相性が良いようです。



上田早夕里さんの作品で最初に読んだのは、SF要素なしの「ラ・パティスリー」。ここまで直球なSFを書く方だとは思わず、度肝を抜かれました。以下、各話の感想です。

■ 魚舟・獣舟
魚が兄弟で舟になって獣になる話。何を言ってるのか分からないと思いますが、本当にそういう話です。最近出た筆者の新作の下準備として読んでみました。設定自体がユニークなだけでなく、その世界観から紡がれるストーリが素晴らしいです。

■ くさびらの道
細菌におかされて幽霊になるパンデミックもの。身近な人が自分を置いて幽霊になったとき、あなたはどのような行動を取るでしょうか。それにしてもうまい。

■ 饗応
10ページのショートショートなのですが、これは何を書いてもネタバレになりそうで紹介文書きにくいですね。リアルかと思っていたらSFだった的なお話です。

■ 真朱の街
妖怪 + SFもの。逃げ込んだ先の街で連れの5歳の少女を妖怪にさらわれた「邦雄」が、探し屋の「百目」とともに行方を追うお話し。百目さん格好良すぎ。シリーズ化してほしいです。

■ ブルーグラス
ブルーグラスは音を聞いて成長する無機物。この作品のようなオチは苦手なはずなのですが、何故か筆者の手にかかれば問題ないみたいです。それにしても設定がユニークですね。

■ 小鳥の墓
唯一書き下ろしの180ページ近い中編です。どうも本編主人公の殺人鬼は、筆者のデビュー作における登場人物のようです。量だけでなく内容的にもこれだけで一冊いけそうですけどね。圧倒されました。

内容的にはハードSF以外のなにもでもないのですが、クールで突き放したようでありながらどことなくソフトな文章が私の好みにぴったり合致するみたいです。短編集としては若干テーマがばらけている気がして、のめりこみにくいところはありましたが、個々の作品はどれも素晴らしかったです。

評価:★★★★☆

0 件のコメント:

コメントを投稿