2010年10月31日日曜日

舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵(歌野晶午) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

中年刑事が姪の言動をヒントに事件を解決していく連作短編集。それぞれの事件が微妙にリンクしていて、最後にはちょっとしたサプライズが待っています。



歌野晶午さんの作品は、高校時代に読んだ「長い家の殺人」がいまいちあわなかったため、長らく手に取ることがありませんでした。やはり作家の真価はデビュー作で判断するものではありませんね。

タイトルに反し、ひとみが直接事件を解決する少女探偵というわけではありません。姪の彼女のふとした言葉をきっかけに、34歳の刑事「舞田歳三(まいたとしみ)」が事件解明の手がかりを得ます。三毛猫ホームズのようなノリです。

とはいっても、ひとみ自身はなかなか賢い子供のようです。5話目で胡散臭い選挙活動しているおばさんをやりこめた手口は実に痛快。学校の成績も悪くはないようですが、あっけらかんとした性格のためちょっと馬鹿っぽく見える言動とのギャップが素敵です。

大学の助教授をやっているためか少し堅苦しい父親の「舞田理一(まさかず)」。仕事を休んでは世界中を旅して回る奔放な叔母「舞田ふたば」。歳三の彼女?、東京でアナウンサーをやっている「野々島愛(ののしまあい)」。まわりを取り巻くサブキャラ達も魅力的です。

大人たちがあれこれと大人の事情的な話をしているなかで、ひとみの放り投げる言葉は異質な刺激をもたらします。ひとみと彼女を取り巻く世界のブラックボックス性が、本書の特徴といえるかもしれません。

連作短編ということで、各事件が微妙にリンクを見せる構成はなかなか私の好みです。それぞれの話が良く出てきていたため、最後のオチはそちらから来るのかとすっかり騙されました。読み応えは軽くてもぴりっと一味の、万人にお勧めできる作品です。

評価:★★★★☆

2010年10月30日土曜日

古時計の秘密(キャロリン・キーン) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

少女探偵ナンシー・ドルーが活躍する児童向けミステリのシリーズ第1弾。日本でも古くから児童書として出版されているらしいので、ご存知の方も多いかもしれませんが、私は寡聞にして初めて知りました。



そもそも、この表紙絵からナンシーが18歳と予測できるでしょうか。颯爽と車を乗りまわすアクティブな女性という実像からはかけ離れた絵柄ですね。まあ、確かによくみればスタイル良いですけれど。ちょっぴり騙された感じです。学校を卒業したばかりのお気楽な立場で、弁護士の父「カーソン・ドルー」の手伝いをしています。

内容を一言であらわすと、言葉は悪いですが「子供騙し」ですかね。富豪「ジョサイア・クローリー」の遺産をめぐり、ナンシーが遺言状探しに乗り出しますが、不正に相続している「トプハム一家」が典型的な悪人役です。正直トプハムさんたちがかわいそうになるくらいの勧善懲悪ストーリー。

クローリーが生前世話になったり気にかけていたりした人たちに遺産が分与されることになるわけですが、どうも直接お金がからんでくるだけに妙に生々しいです。みな良い人設定のはずなのに、ひねた大人としてはどうしても裏側を疑いたくなってしまうという。

日本で児童書として紹介される場合は、読みやすいようにところどころを省いた抄訳がほとんどだったそうです。正直、原文改変はあまり褒められたこととは思えませんが、本書については児童書として出すならある程度生臭さを省くのは必要だろうなという気がします。

優秀な少女探偵という触れ込みですが、クールな推理は全く登場しません。自明と思われる出来事の裏を取っていく、どちらかというと探偵としては地味な感じですが、危機シーンの演出はなかなか良かったです。ナンシー・ドルーに懐かしさを感じる方々にとっては、本書を通して色々な再発見も期待できるのではないでしょうか。

評価:★★☆☆☆

2010年10月29日金曜日

それゆけ! 宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ[完全版]Ⅰ(庄司 卓) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

とても懐かしい人気シリーズの新装版。残り1冊のまま長らく放置されていましたが、とうとう完結に向けて動き出しようです。時事ネタが満載で若い人にはさっぱりだと思いますが、当時を生きていた私にもマニアックすぎるので心配はご無用。当時を知らない人にこそ手にとってみてほしい作品です。



予告されていた最終巻を残して10年近く、とうとう筆者が重い腰を上げてくれました。本書は当時刊行された1,2巻をあわせて1冊にまとめられたものですが、メインの4人が一挙に登場してくれるのはうれしいところです。

最近の庄司さんの作品も多少読んでますが、エッセンスは似ててもぶっちゃけ度が違う感じです。グロリアスドーンもジャンル的には似ていて面白い作品なのですが、両作品の差はヒロイン達のパワーに起因しているような気がします。

釣り目におでこにナデシコに関西弁。キャラ立ては分かりやすいくらいに分かりやすいほうが良いのかもしれません。グロドンの3姉妹は特殊なところを狙いすぎてる感じですから。あちらも好きですけどね。

宇宙戦艦が体当たりや近接格闘をするあたり、とっても色物な設定なのですが、しっかり理論武装しているのが今読んでも素晴らしいです。マップスのリプミラ号よりとても真っ当。個人的にこの作品はとても優れたSFだと私は思っています。

新装版は全5巻の予定がもっと増えてしまいそうとのこと。そりゃ短編集も入れて22冊出ていたわけですから、それを5冊に納めるのは難しいでしょうけれど、ちょっぴり嫌な予感がしてしまうのは私だけでしょうか。是非とも粛々とした刊行ペースを期待したいと思います。

評価:★★★☆☆

2010年10月28日木曜日

なぜ絵版師に頼まなかったのか(北森 鴻) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

文明開化の明治時代を、日本に在留した外国人の観点から物語る歴史ミステリ短編集。正直、ミステリとしてのできはいまいちのように思いましたが、外国人、日本人問わず実在の人物がたくさん登場するので歴史物としてはなかなか楽しめました。



主人公は松山出身の元武家「葛城冬馬(かつらぎとうま)」ですが、探偵役は、彼の師という設定であり実在したドイツ人医師「エルウィン・フォン・ベルツ」となります。日本贔屓な雇われ外国人の視点は暖かくも鋭いもので、彼の姿勢が本作品の骨格を成しています。

本書は冬馬の成長物語でもあります。最初にベルツに奉公するようになったのが13歳の時分。それから東京大学の俊英と呼ばれるまでになり、最終話では22歳。彼の成長とともに移り変わる時代背景も、本書の注目すべき点です。

ナウマン、フェノロサ、モームなど、教科書にも出てくるような実在の外国人教師たちが毎話登場するのも面白い趣向です。当時、不平等条約を強いられていた日本の発展への意欲に対する理解と、一方であまりに性急すぎる日本の雰囲気に対する危惧が、なんとも生々しく描かれています。

登場する歴史上の人物は外国人だけではありません。岩倉具視や井上馨など、日本人も数多く登場します。彼らは実際にベルツが診た患者のようですね。4話目の「紅葉夢」は、尾崎紅葉の筆名の元となった料亭「紅葉館」が舞台となっていて、尾崎紅葉自身もちょこっと出てきます。

歴史物は北森鴻さんのルーツでもありますし、時代背景の考証や描写は流石の一言です。ミステリとしては若干物足りないものの、読者を過去へと誘う歴史小説の風情を期待する向きには、きっと満足いただける作品だと思います。

評価:★★☆☆☆

北森鴻の他の著作のレビューはこちらから

2010年10月27日水曜日

死なない生徒殺人事件―識別組子とさまよえる不死(野崎まど) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

なんというか、トリック自体は前作同様フェアじゃないのかもしれませんが、ミステリスピリットに満ち溢れています。読み返して二度楽しい伏線満載。相変わらず無駄を極力省いた構成も素晴らしいです。



永遠の命をもつという「識別組子(しきべつくみこ)」が首切り死体で見つかります。赴任してきたばかりの生物教師「伊藤」が、死んだはずの識別とともに事件の真相を追います。何を言ってるのか分からないと思いますが、本当にそういう話なのです。

重要な女性キャラが結構たくさん登場するのですが、なかでもヒロインの識別はクール系で実に良いです。表紙絵の女性は一番目の識別だと思いますが、この容姿の彼女がすぐに殺されてしまうというのは、映像化すると残念なことになりそうですね。

識別に極端な思い入れをみせる転入生の眼鏡っこ「天名珠(あまなたま)」。登場時点からいい味出したキャラだなと思っていましたが、彼女があのように事件に絡んでくるとは。何かあるとは思っていましたが、予想の遥かに斜め上でした。

私的に一番つぼのキャラは、広末涼子似だという物理教師の「受村(うけむら)」先生。彼女がいるとのことでしたが、どんな彼女なんでしょう。というか、受村に彼女がいるのは矛盾してる気がしますが、そういう設定ということでしょうか。

とにかく読み終えてから振り返ってみると、あれもこれも伏線だらけ。作品タイトルについても、なんとなくスルーしていたらとんでもない意味が込められていました。メインのネタ自体は、厳密に言えば粗があるような気がするのですが、些細なことはスルーして、独特の野崎ワールドに浸るのが良い読み方でしょう。

評価:★★★★☆

関連レビュー:
舞面真面とお面の女(野崎まど)

2010年10月25日月曜日

万能鑑定士Qの事件簿VI(松岡圭祐) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

莉子にライバル登場。ICPOから「All-round Counterfeiter(万能贋作者)」の疑いをかけられている女詐欺師「雨森華蓮(あまもりかれん)」。ホームズvsルパンのごとき直接対決は燃えるシチュエーションですが、いわゆるお約束っぽい収束にならなかったのが本シリーズらしくて良かったです。



万能贋作者といっても「ゼロ」みたいなのではありません。鋭い観察眼と洞察力を武器に生産ラインを調達する、プロデューサー的な手口です。現代らしい知能犯ですね。

二人のスキルがもろに被っていますが、直接対決は華蓮に終始押されぎみ。少しだけ年上の余裕からか、華蓮にはいいように使われる展開となってしまいますが、もちろんそれだけでは終わらないのでご安心を。

しかし、怪盗vs探偵というのは同じ能力であれば探偵側に有利な気がしますね。探偵側は真相を見抜いて警察権力にバトンタッチするだけですが、怪盗には構想力や実行力など、多岐にわたる能力が必要とされます。

子供のころはルパンよりホームズのほうが好きでした。理由は正義の味方だから。この歳になってルパンびいきの母の気持ちがわかってきたような気がします(^^;

このシリーズの良いところは、ハイスペックな登場人物がみせる人間的弱さ。本作も例外ではありません。傲岸不遜一辺倒の怪盗役も悪くありませんが、特にラスト付近で見せた華蓮の弱さが私は好きです。

評価:★★★★☆

松岡圭祐の他の作品のレビュー

2010年10月24日日曜日

兎の角 1巻(睦月のぞみ) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

美人コンビによるゴーストスイーパーもののようですが、本作はプロローグ的な位置づけになるようです。シリアスとコミカルの切り替えがうまい、というよりシリアス自体がコミカルという不思議な印象の作品です。



学園内で起きた幽霊による失踪騒ぎ。理事長の娘「天沢イズミ」と雇われ転入生の「真白アヤ」が事件解決に乗り出します。色々と大きいイズミと色々と小さいアヤの凸凹コンビ。大柄で基本いじられ役のイズミのようなヒロインは、私的に結構ストライクです。

もしかして百合ものかと警戒しましたが、すっかり騙されました。言いたいことは言う天衣無縫のアヤに対し、クールな優等生のはずのイズミはペースを狂わされっぱなし。地が出せる相手ということですね。良いコンビだと思います。

失踪した生徒たちの共通点が事件のポイントです。事件背景は結構シリアスでえげつないのですが、肝心の幽霊がお茶目な性格をしているため、どこまでいっても緊迫感と和やかさが入り混じる不思議な印象を醸し出しています。この雰囲気、結構私は好きです。

この事件解決の後、イズミはアヤとともに暮らし、ゴーストスイーパーの手伝いをすることになるようです。お嬢様育ちのため現状何の役にも立たないイズミが、どのような成長を見せてくれるのか楽しみです。

本格的なコンビ活動は次巻以降のようなので、現状ではシリーズとしての評価はまだ難しいですね。普通、こういう出会いのエピソードは2番手に持ってくるのがお約束だと思いますが、そうするとあのトリックも使えなくなってしまうので難しいところだったのかもしれません。

それにしても、あのネタバレを避けるために、なんとも紹介しづらい作品になっています(^^;

評価:★★☆☆☆

幻視時代(西澤保彦) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

今回は筆者にしては比較的ソフトな作品です。さくさく読めて全般的に手堅い印象で、仕掛け自体も個人的には悪くありません。ただ、思わせぶりな導入を考えると、解決編は若干変化球っぽい感じもします。



最後のほうで主人公たち3人が飲み屋で延々と解決編を行う構図は、タックとタカチのシリーズを彷彿とさせます。シリーズ物で愛着のあるキャラがやる分にはいいのですが、単発キャラだと少々くどい感じもあるかもしれません。

ただ、登場人物に魅力が無いわけではありません。ちょっと鬱屈の入った評論家「矢渡利悠人(やとりゆうと)」、矢渡利の後輩で巨漢作家の「生浦蔵之介(おうらくらのすけ)」、そして快活な女性編集者「長廻玲(ながさこあきら)」。

全員40前後の年齢となるため若い人にはしんどいかも知れませんが、彼らの掛け合いはなかなか味があって良いです。これがシリーズ作品だともっとすんなり楽しめたかもしれません。それにしても名前の難しさは相変わらずの西澤節です。

メインのネタについては悪くなかったと思います。ちょっぴりやりきれなさが残るあたりも、いかにも西澤さんらしい仕掛けです。ただ、写真の謎についてはちょっと肩透かし気味ですね。SFっぽい展開も期待していましたが、そういうのは全然無しです。

個人的には3人組が結構いい感じだったのでシリーズ化を期待したいところなのですが、本作の続きということになると設定的に少ししんどいかもしれませんね。

評価:★★☆☆☆

2010年10月22日金曜日

指揮者の知恵(藤野栄介) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

小説や漫画でクラシック音楽の世界を題材にしたものは多いですが、ど素人の私にも何か雰囲気的なものが分かるような本はないかと思っていたところで、本書を見つけました。感覚的な記述が多く十分理解できたとはいいがたいですが、逆にリアルな雰囲気を知る意味ではそれが良かったように思います。



我々素人にとって指揮とは拍子をとることだと思いがちですが、特にプロの領域になると全くそういうものではないようです。指揮者と楽器奏者の関係は教えるというよりむしろ戦うという印象が正しいでしょうか。

ここで注意しなければならないのは、プロともなると各楽器奏者自身が並外れたレベルにあるということです。以前読んだ「退出ゲーム」では、プロを目指そうとする人間は高校の吹奏楽部とは全く違う世界に住んでいるという内容の話がありました。音大に入るような人は、その時点で既に選ばれた人間であるとのことです。

そこから更に、プロとしてオーケストラの一員になれるような人物は絞られていきます。彼らはもはや一人ひとりが際立った技能を持つ音楽家なのであり、指揮者はそれらの優秀なプロフェッショナルをしかも多人数相手にしていかなければいけません。

優秀な指揮者に傲慢不遜な人物が多いというのも頷ける話ですね。性格的に温厚だとしても、そこは一歩譲らない強靭な何かを持っている必要があるのでしょう。指揮者は演奏を聞いてはいけないそうです。もちろん耳に入って情報としては処理する必要がありますが、決して流されてはいけないとのこと。

優秀な音楽家同士が互いにプライドをぶつけ合う緊張感の中で、化学反応を起こすかのように良い演奏は生まれてくるそうです。そのためには仲良く強調的であることは必ずしも良いこととは限りません。それで退屈になるよりは、むしろ険悪な緊張感のほうが良い音楽につながる可能性が高いとのこと。面白いですね。

指揮者やオーケストラ、あるいはその日によっても演奏に大きな差が出るようです。そういう違いは素人でも判別できるほどのものだそうなので、実際に聞き比べをしてみたいのですが、どこから入るのが一番良いのでしょう。ちょっと調べてみたいと思います。

評価:★★★☆☆

2010年10月21日木曜日

秋の牢獄(恒川光太郎) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

3つの中編からなるホラー作品集。ホラーといっても怖くはありませんが、最近はこのような作品が流行なんでしょうかね。上橋菜穂子さんの推薦文と坂木司さんの後書きに誘われて手にとってみました。透徹な世界観としんみりとした抒情。いかにも玄人受けしそうな作品です。



ホラーという分類が適切かどうかは分かりませんが、SFやファンタジーといってしまうのも違う気がします。どの要素も含みつつどこか微妙にずれているような。要するにそれだけ作者のオリジナリティが優れているということでしょう。以下、各話の感想です。

■ 秋の牢獄
11月7日を延々と繰り返すループ物。物語中ではケン・グリムウッドの「リプレイ」に触れられていて、そのほかにもこのテーマではたくさんの名作が世に出されています。私はそれほど多く読んでないのでオリジナリティという点での評価は難しいですが、淡々とした語り口のなかにも溢れる情感としんみりしたラストには、作者の特徴が存分に発揮されているように思います。

■ 神家没落
「秋の牢獄」が時間の牢獄であったのに対し、本作では主人公がとある家の中に閉じ込められ、無理やり神様にされてしまいます。ただし、その家は季節ごとに決まった様々な場所へ移動し、また別の人間を代わりに差し出せば当人は開放されます。このような場所に閉じ込められるのに最も相応しくないのはどのような人物でしょう。設定の生かし方が実に巧みで感心しました。

■ 幻は夜に成長する
幻想を操る魔法使いの成長物語。設定がいかにもホラーらしく陰惨な割には、筆者の語り口のおかげですんなり読み進められます。先代にして師匠たる祖母は結局ただの○○い?宗教団体も絡んできたりして胡散臭いですが、現実に幻術など扱える人間がいれば、その存在が放っておかれるはずも無いのでしょうね。

全編を通して共通しているのは筆者の確固たる世界観です。ありがちな設定を用いても全くぶれない作品の雰囲気には感嘆せざるを得ません。ただ、オチが雰囲気系なのは個人的にはさほど好みではないですかね。読書通の玄人であるほど評価が高くなりそうな作品ですが、俗物の私でもそれなりに楽しめました。

評価:★★☆☆☆

2010年10月20日水曜日

楽昌珠(森福 都) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

3人の幼馴染が霊獣に誘われ桃源に集い、夢と現実を行き来する中華ファンタジー。色々と倒錯があって、不思議な雰囲気を醸し出しています。中編3編の構成となっていますが、話はつながっているので実質一つの長編です。2話目までは凄くよかったのですが、最後がいまいちだったかも。



科挙を目指す文人肌の十八歳「蘇二郎(そじろう)」、すらりと長身で身体能力に優れた女丈夫の十六歳「盧七娘(ろしちじょう)」、そして近隣に比類なき美しさを誇る十七歳の「葛小妹(かつしゃおまい)」。現実世界で志し破れつつある彼らが、夢のなかで思うままに活躍する話・・・なのですが、いろいろと一筋縄ではいきません。

まずは3人の年齢。現実では同年代なのに、夢の中では親、子、孫くらいの年齢差となってしまいます。ちなみに二郎は現実世界で小妹に想いを寄せているのですが、それがあちらの世界では・・・といった感じの、なんとも奇妙な状況に陥ります。まあ、二郎は現実でも夢でも全然相手にされないのですけれど(^^;

通常、夢のほうが空想的になるかと思いますが、本作では全く逆です。現実世界で霊獣たちに導かれた地はまさに桃源郷。一方、夢のほうはリアルな唐代玄宗皇帝の御世です。といいますか、玄宗はじめ実際の史実の人物達が登場する本格歴史小説です。ここにも不思議な倒錯があります。

3つの中編は3人それぞれの視点から語られています。一話目「楽昌珠」は二郎、二話目「復字布」は七嬢、三話目「雲門簾」は小妹が主人公となります。個人的な印象では、話の面白さはキャラクターの魅力に比例するかもしれません。七嬢>二郎>小妹の順ですね。いかにも宝塚な七嬢が一人勝ちです。

3人はそれぞれ、現実世界で想い焦がれていた通りの人生を夢の中で経験することになるのですが、実際に体験してみれば人生それほど甘くは無いのだなと、若干の苦い思いも味わうこととなります。そのあたり、夢なのに全然やさしくありません。

この倒錯された設定が、直接何かのオチにつながるというわけではありません。ちょっともやもやが残る感じで私の好みとは言いがたいのですが、雰囲気小説が好きな方にはお勧めです。武人の七譲が活躍する2話目はすごく良かったんですけどね。話の順番によって全体の印象もかなり変わったかもしれません。

評価:★★☆☆☆

2010年10月19日火曜日

沈底魚(曽根圭介) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

警視庁公安部を舞台にしたスパイ小説。第53回江戸川乱歩賞受賞作です。3年前に出版された作品の文庫化ですが、中国からの圧力厳しい現在の状況下では、とてもフィクションだと気楽には読めません。背筋が寒くなりますね。息もつかせぬ展開と、やがて明らかになる国家レベルの謀略、そして最後は意外な収束を見せます。



タイトルの「沈底魚」はさる潜伏中の大物スパイの通称です。日本の政治家として活躍し閣僚経験もありながら、裏では遥か以前から中国とつながっていたという大胆かつ長期的な陰謀。結構キャッチーな設定ですが、あまりここには期待しないほうがいいかもしれません。理由は後半まで読んでいけば分かります。

公安というと秘密主義でスタンドプレーという印象があって、主人公の「不破」もそのようなタイプです。秘密主義で協調性が無いタイプの40歳。離婚歴あり。ハードボイルドな設定は格好いいですが、部下として行動を共にすることの多い「若林」への接し方などを見ると、面倒見の良いところもあるようです。

そのような人物だけでは話が進みにくいのでしょう。公安部外事二課において、課長を差し置き実質的なボスとなっている「五味」。子飼いの部下をたくさん抱えた彼のパワープレイは、どちらかというと公安というより凶悪犯相手の刑事といった印象を与えます。そういう彼の危なさが、話に絶妙な緊張感を与えています。

スパイ物ということで、一筋縄ではいかないドロドロした国家間の暗幕を象徴するのが、「沈底魚」捜査のため新たに警察庁から派遣された「凸井美咲(とついみさき)」理事官。その容姿は
飛び出た広い額、その下にある小さな目、どんな硬いものでも噛み砕けそうな顎。
などとあんまりな表現のされようですが、強面の女丈夫とはいえこの配置に女性キャラクターをもってくるのは、物語のアクセントとして絶妙だと感じます。

そんな凸井にかわるヒロイン役は、不破の高校時代の同級生「伊藤真理」・・・のはずなのですが、彼女の扱いはちょっとひどいというか冷たいです。冒頭、意味ありげに登場して不破と絡むあたり、うっふあははな展開も期待しようというものですが、あまりといえばあまりな仕打ちには涙なくして読めません。

凄くリアルかつ臨場感溢れる描写でありながら、内容の割りに実にとっつきやすく読みやすい文章です。先が気になってぐいぐい読まされてしまいます。いままで読んだ警察小説の中でも指折りのできかと思ったのですが、最後の収束のさせ方は賛否分かれるかもしれません。

不破は格好いいことは格好いいのですが、名探偵役という感じではないのが、私としては若干物足りない気もします。しかし、全般的に相当にレベルの高い作品であることは間違いありません。ハードボイルドな警察ミステリが好きな方にはかなりお勧めです。

評価:★★☆☆☆

2010年10月18日月曜日

アー・ユー・テディ?(加藤実秋) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

浮ついた印象のヒロインが、熊のあみぐるみに乗り移ったおっさん刑事の霊と事件の捜査をするお話。設定には何の魅力も感じませんでしたが、筆者買いしてみたら存外面白かったです。「インディゴの夜」シリーズ同様、登場人物たちの何気にいい人振りが嬉しいです。



ほっこり系を身上に、ファッションやインテリアに一家言持つ(つもりの)24歳フリーター「山瀬和子(やませかずこ)」。彼女が代官山のフリーマーケットで手に入れた熊のあみぐるみ(ぬいぐるみではないらしい)には、無念を抱えた50過ぎの刑事「天野康雄(あまのやすお)」の霊が乗り移っていました。うるさい彼の依頼をうけて、事件捜査のバイトを引き受けることになります。

30過ぎのファッションに縁が無いオッサンとしては、ヒロインの言動が逐一むかつきます(褒めてます)。決め顔はちょっと唇をすぼめた感じのアヒル顔。こういうことが書けるのは、女性作者ならではという気がしますね。女性に対して夢見る気持ちをぬぐえない男性一般としては、このような女性の「計算」はわかりにくいし、わかってても目をそむけていたい類のものなので。

こんな女と、刑事一筋30年のおっさんのコンビでは、揉め事の起きないはずがありません。いつも口うるさく説教してくる康夫をあみぐるみから追い出すためにも、早急な事件解決へのモチベーションが高まるのは逆に皮肉なことです。ちなみに康雄からはきっちりバイト料をもらうことになります。詳しいところは本書でご確認いただければと思いますが、通帳から勝手にお金を引き出さない和子は何気にいい子です。

あい方が幽霊かつオッサンとあっては当然ロマンスなどひっくり返っても出てきません。そちらは康雄の元部下「冬野唯志(ふゆのただし)」が一応それっぽい感じになります。見た目は良くてもオカルト好きが災いして変人のレッテルを張られている彼は、いろいろな意味で和子にぴったりのお相手です。和子本人はそれを頑なに否定していますが。

全般的に手堅い印象の作品です。康雄が心を残す事件の内容についても、その捜査や顛末についても、実に地味で手堅い題材が選ばれています。あらゆる意味でヒロインとのギャップが感じられるところにおかしみが感じられます。作品の雰囲気としては正直それほど好きな部類でもありませんが、読みやすくてミステリとしての出来も上々です。続きが出ればまた購入するでしょう。

評価:★★☆☆☆

2010年10月17日日曜日

おざなりダンジョンTACTICS 1(こやま基夫) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

剣と魔法の異世界ファンタジー。1巻となっていますが、ここまでには長い前置きがあります。雑誌連載開始が1987年。以降、掲載紙を変えながらの超ロングラン作品です。ただ、本書から読み始めても大丈夫かもしれません。といいますか、既刊を全て読んでる私にも意味不明な超絶展開で、最初からぶっ飛ばしすぎです(^^;



既存の作品についてはWikipediaのほうに詳しいので、興味のある方はご参照ください。再編集されたものなど色々ありますが、いままでに「おざなりダンジョン」、「なりゆきダンジョン」、「なおざりダンジョン」の3シリーズあり、本書から4シリーズ目が始まることとなります。

なりゆきはいま、手に入りにくいかもしれませんね。まあ、あれはシリーズ随一のつまらなさですからスルーしてもいいんじゃないでしょうか、なんちゃって。近いうちにJIVEから再販されると思うのでお待ちいただければとは思いますが、前置きとしては最低「おざなり」だけ抑えておけば十分でしょう。

風来坊タイプであちこちふらふらしていたモカ、ブルマン、キリマンの3人組が、なにかレジスタンス組織っぽいもののトップになってしまっているようです。事情は全然分かりませんが、彼らのどことなくのん気な性格は以前のままなので、そこは安心して読んでいただけるかと思います。

ただ、ブルマンの顔が変わりすぎてませんか?なんか男前になってる(笑)。成長したってことですかね。でも、年齢不詳のキリマンはともかく、モカにも全然変わった様子が見えないのに何故ブルマンだけ・・・伏線のにおいがぷんぷんします。ナーガシールドなどといういわくありげなアイテムも登場していますし。

モカが持っているロゴスの剣とナーガシールド。その命名元はオリジナル版で登場した竜の名前です。ロゴスの剣については素性がはっきりしているのですが、連載再開までの間にナーガに関連するエピソードも何かあったようですね。奥さん、また登場してほしいけど、死んじゃってるのかなー・・・

いきなりローレシア大陸とゴンドワナ大陸の戦争状態から始まる本シリーズ。かつて両大陸でぶいぶい言わせてきたモカたちですが、どちらにも組しない第三勢力となっているようです。ほんとにわけの分からない展開で、このように意味ありげな伏線をこれでもかとにおわすミステリアスな話作りこそが、おざなりシリーズ最大の魅力なのです。

いきなりの超絶展開にもかかわらず、本書1冊を通してはそれなりにまとめをつけている豪腕が素晴らしいですね。今後仲間として活躍しそうな人間弾頭「ナスカ」。いいですね、萌えますね。ヒロインのモカに萌え成分皆無なぶん(褒めてます)、彼女には頑張ってほしいところです。

評価:★★★☆☆

運命の裏木戸(アガサ・クリスティー) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

トミーとタペンスシリーズ第5弾。シリーズ最終作にして、クリスティが最後に執筆した作品でもあるそうです。好意的に表現すればスローペース、ぶっちゃけかったるい作品ですが、色々と過去の事件に触れられていたのは、集大成っぽくてよかったです。



前作「親指のうずき」もそうだったのですが、クリスティ晩年の作品のためか、話の進め方が妙にまどろっこしいですね。話が動き出せば楽しめるのですが、そこにいたるまでが長かったです。

今回は事件そのものについてもぱっとしませんでした。唐突に登場する人物は多いし、うまいことすれば魅力溢れる存在になりそうな少年少女の探偵団たちも、結局何のために出てきたのか分かりませんし。

こんなこといっては何ですが、本作を書いたのがクリスティ80過ぎてからの晩年の作ということもあるのですかね。さほどクリスティを読んでいるわけではありませんが、有名な作品は大抵初期に発表されたもののような気がします。

ただ、トミーとタペンスのファンとしては、過去の作品の内容にかなり触れられいたのが嬉しかったです。特に3巻で養女となったはずなのに4巻では完璧にスルーされていたベティ。本作でも登場はしませんが、近況が明らかになってほっと一安心です。

正直なところ、お世辞にも出来のいい作品とは言いがたいと個人的には思いますが、クリスティ最後の作品という歴史的価値、それにトミーとタペンスシリーズの締めくくりということを考えれば、クリスティファンとしては読んでおきたい作品でしょう。前半何とか我慢してくれれば、後半はそれなりに楽しめるかと思います。

評価:★★☆☆☆

関連レビュー:
秘密機関(アガサ・クリスティー)
おしどり探偵(アガサ・クリスティー)
NかMか(アガサ・クリスティー)
親指のうずき(アガサ・クリスティー)
運命の裏木戸(アガサ・クリスティー)(本書)

2010年10月16日土曜日

おやすみラフマニノフ(中山七里) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

さよならドビュッシー」に続く音楽ミステリ第2弾。岬洋介シリーズと言ってしまっても良いかもしれません。トリック一発にやられた前作ほどの期待はしていませんでしたが、良い意味で裏切ってくれました。



このミス大賞系はいまいちあわない作品が多いのですけれど、中山さんの作品は好きですね。本筋の仕掛けについても、そこに落とすのかとビックリさせられましたが、それ以前に話の作り方が好みにあっているようです。ヴァイオリニストの卵「城戸晶(きどあきら)」の一人称で話は紡がれていきます。

若き名ピアニストでありながら色々わけありな探偵役「岬洋介(みさきようすけ)」。前作でもそうですが、登場は第三者的なのに、主人公と交流していくうちに徐々に事件の核心に近づいていきます。そして最後の鮮やかな解決編。絵に描いたような名探偵ぶりです。

本書だけでも十分楽しめますが、ときどき「おっ」と思わせる前作のネタも仕込まれているため、出来れば順番に読んでいただいたほうがよいかと思います。温厚でありながら芯が強く、どこか謎めいた印象をあたえる岬洋介の出自についても、一部明かされています。

演奏シーンも本シリーズの見所の一つです。音楽関連の話については、私が素人だからこそ楽しめる部分もあるかもしれませんが、ディテールに富み、臨場感に溢れる描写には思わず引き込まれます。専門的なことは良く分かりませんが、少なくとも演出力はすばらしいです。

正直なところ、若干唐突というか、ご都合主義に思えるような箇所も無くはありません。一人の男性をめぐる対立とか、三章の演奏シーンなど。ただ、それらの不自然さが時々重要な伏線になっているので油断なりません。全部計算でやってるとは思いませんが、結果的にミスディレクションの役割を担っているような気がします(^^;

本作は犯人鉄板だなと思っていて、すっかり作者の意図にはまってしまいました。よく考えてみれば分かりやすい伏線も仕込まれていて、それほど意外性のある仕掛けではなかったかもしれません。事前に真相に気づくかどうかで本書の評価は変わってきそうです。気づかなかった私は大変ラッキーな読者だったといえるでしょう。

評価:★★★★☆

関連作品:

2010年10月14日木曜日

なれる!SE2―基礎から学ぶ?運用構築(夏海公司) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

新入社員が修羅場を体験して成長していく、IT土方物語第2弾。業界の中の人である私には面白かったのですが、業界外の人や学生さんが読んでも楽しめるんですかね?逆にIT業界の人でも、トラウマを刺激されて読み進められない人もいるかもしれません。

前巻のレビューはこちらです。



今回は構築vs運用のバトルものです。「運用が巻き取ってくれない!」「まともなドキュメント寄こせ!」。もはや理屈を超えて感情的対立に発展した事態を、新人SE「桜坂」がどのようにおさめるのか。

本書一番の秀逸は3章(レイヤー3)冒頭でのメールのやり取りです。冷たい口調で詰問の応酬。こういうの良く見る文章なんですよね。ほんと、現場の感じが嫌な形でよく出てます(^^;

一般的に、できる技術者ほど文面が冷たくなっていく印象があります。言い訳めいたことが減り、内容の無駄を極限まで省くようになるのですね。私はソフトな人柄なのでそうでもありませんが、相手を詰問する時にはこういうメール実際書きます。鬼の首を取る勢いで容赦なくやるのがこつです。

弱小SIerが舞台ということで構築も運用も一人ずつしか登場してこないため、実務を知ってる人には物足りなく感じる面もあるかと思います。ただ、これは筆者の計算でしょうね。登場人物を減らして構図の単純化。この試みは成功していると思います。

この話、私としてはなかなか楽しく読めたのですが、普通のライトノベルとして考えるとキャラ立てやストーリーがちょっと弱いかもしれませんね。内輪受けな部分が多々あるかと思いますが、逆にIT業界の臨場感を味わっていただくにはよろしいかと思います。

ただ、この話でIT系に行きたくなる人ってなかなか少ないでしょうねぇ・・・そこだけは少し残念です。まあ、筆者からしてITを脱出した方なわけですし、やむをえないところかもしれませんが。なにかこう、思わずSEになりたくなるような作品を、どなたか書いていただけないでしょうか。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
『なれる!SE―2週間でわかる?SE入門』(夏海公司)

2010年10月13日水曜日

天体の回転について(小林泰三) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

カバーの萌絵に騙されると痛い目にあうかもしれません。ちょっとエグいオチの多いSF短篇集です。全体的に物語要素は薄いですが、センスオブワンダーを期待するSFファンにはたまらない作品でしょう。



作中やあとがきでアシモフについてちょこちょこ触れられていますが、なるほどアシモフのSF短編集を彷彿とさせるようなアイデアが盛り沢山です。以下、各話の感想です。

■ 天体の回転について
はるか未来、ロストテクノロジーの軌道エレベーターに乗り込んだ若者が、ホログラムの女性コンパニオン「リーナ」から色々なレクチャーを受けつつ、月へ旅していくお話。ただし言葉は通じてません(笑)

■ 灰色の車輪
ロボット工学三原則が題材になっています。人間の能力を超えたロボットというテーマはよくありますが、三原則の具体的な実装方法をつきつめているのがユニーク。たしかに、こういう展開もいかにもありそうです。

■ あの日
いきなり男が高校の校舎で人を殺し始めます。しかし、なんとなく描写に違和感を抱かせる、その理由とは?途中までは面白かったのですが、最後はそう落とすのかぁ・・・

■ 性交体験者
「エロチックSF」というテーマを与えられて書いた作品とのこと。あとがきでアシモフの「神々自身」が引き合いに出されていますが、たしかに同じくらいエロイです。

■ 銀の舟
よくある未知の超文明との接触、かと思いきや最後に意外なオチが待っています。感情移入しやすい女性キャラだとおもったらすっかり騙されましたぜ。

■ 三00万
ハイテクノロジーを有する超好戦的な種族が地球に襲いかかる侵略戦争もの。元寇のとき、日本の武士は名乗りを上げている間にポコポコやられていったといいます。まあ、そんな感じの話。

■ 盗まれた昨日
全人類が10分しか記憶を保持できない前向性健忘症になってしまうお話。関係ないけど、前向性健忘症についてぐぐったらこんな2ちゃんスレのログをみつけた。良スレだ。

■ 時空争奪
川の流れや時間の流れが乗っ取られていくお話。ちょっと難しかったです。

物語好きの私としては正直ちょっと苦手な作品が多かったです。ただ、それを補ってあまりあるSF的アイデアの数々にはすっかり感心してしまいました。

評価:★★☆☆☆

2010年10月12日火曜日

探偵ザンティピーの休暇(小路幸也) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

何故かべらんめえ口調の私立探偵「ザンティピー」。日本に嫁いで若女将となった妹「サンディ」のわけありっぽい誘いに応じ、北海道のひなびた温泉地を訪れます。頼まれたのは彼女が偶然見つけた人骨の調査。粋な口調のハードボイルド探偵と金髪の若女将という色物な設定ですが、物語としては非常に真っ当なハートフルミステリです。



小路幸也さんの小説はこれが初めてですが、メフィスト賞作家ということで若干の警戒感を持ちながら読み始めました。結果としては良い意味で肩透かしです。主人公もその妹もいかにも狙ったような設定なのに、何故かそこには暖かいものが溢れています。

田舎の小さな観光地というだけのことはあって、サンディの新しい家族も地元の住人も、登場人物はみな良い人たちばかりです。このようなのどかな地で掘り出された人骨は、いったいどういう意味を持つのか。神域とされ立ち入りを禁じられている「オンハマ(御浜)」の謎とあわせて、話は不可解な様相をみせていきます。

ザンティピーの口調は日本の国民的映画の影響を受けてのもの。元警察官で大都会マンハッタンに事務所を抱えるハードボイルドな探偵なのに、彼にはべらんめえ口調が不思議とマッチします。言ってしまえば身長190センチの男前な寅さんです。いえ、寅さんも十分男前だと男前だと思いますけれどね。

金髪若女将などと言うキャッチーな特徴を持つ妹のサンディーですが、彼女は依頼人という役回り以外さほど目立った活躍をみせません。この小説はあくまで探偵「ザンティピー」がソロの主人公です。サンディーも、あるいは彼女の義理の妹となったミッキーこと「実希子(みきこ)」も、相方の位置に収まるほどの存在感を見せないのはちょっぴり残念なところです。

謎の演出から真相の解明まで収束への過程はお見事。なにより読後の後味がとても良かったです。これは伏線のはずだと勝手に思い込んでいたいくつかの箇所がスルーされたのは肩透かしでしたが、それはもちろん筆者でなく私の邪心のせい。ピュアな気持ちで臨んでいただければ素敵な読書体験を得られること請け合いです。

評価:★★★★☆

2010年10月11日月曜日

ホテルジューシー(坂木司) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

大家族の長女で万事しっかりしていないと気のすまない女子大生「柿生浩美(かきおひろみ)」。そんな彼女がホテルのバイトを通じて、沖縄のゆるさに徐々になじんでいくお話。読み始めるまで気づきませんでしたが「シンデレラ・ティース」の姉妹編です。



シンデレラ・ティースのサキがよく携帯で話していたのが本書の主人公ヒロちゃん。おっとりしていかにもお嬢様風のサキとは対照的に、ヒロは大柄で男勝りなところもあるしっかりものの女の子です。小説の主人公としては、こちらのほうが断然好きですね。

インドなんかもそうですが、異文化感あふれる環境というのは人を引き付けてやまない魅力があるようです。沖縄の場合、歴史的な経緯に加えて米軍基地の影響もあるためか、九州と比べても文化的に大きな違いがあるように思えますね。

浩美が勤めることになったのは那覇市の小さなホテル。看板も見づらく客の殆どが常連客ということもあって、お勤め自体はさほど大変なものでもなさそうですが、そのゆるい雰囲気に慣れるのに貧乏性ぎみな浩美は苦労することになります。

そのゆるさの代表格が、中年のオーナー代理「安城幸二(あんじょうこうじ)」。あまり経営に携わらないオーナーに代わる実質的な責任者の彼は、まさに昼行灯という言葉がぴったり来る人物です。浩美は彼に散々悩まされることになります。

そんなロマンスのかけらも感じさせない彼が、本作品の探偵役。いつもはだらしないだけの安城も、有事には大変頼りになります。客のわけありそうな様子は事前に察知し鮮やかに対応。時には勇み足気味の浩美を厳しくたしなめることもあります。

このギャップ、時折垣間見えるこういう格好良さが、昨日読んだ本の主人公にもほしかったなと思わずにいられません。ミステリとしてのクオリティも流石は筆者ならではの安定感で、いろいろな意味で安心してお勧めできる作品です。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
「シンデレラ・ティース」(坂木 司)

2010年10月10日日曜日

はい、こちら探偵部です(似鳥航一) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

厳密に言えばミステリではないけどミステリ風のライトノベルというのは良くあります。本書の場合はミステリっぽくないけどミステリと謳っているライトノベルです。いろいろな意味でちょっと不幸な作品といって良いのではないでしょうか。



ミステリ作家の似鳥鶏さんとは全く関係ないようですが、それでも名前からある種の期待感をあおられた方はいらっしゃるのではないでしょうか。私もその一人です。似鳥鶏さんや、同じ電撃出身の久住四季さんなんかが比較対象になってしまうと流石にしんどいですね。

なんとも、徹底的にミステリに向いてない作風だなというのが読後の印象です。ミステリ的カタルシスを微塵も感じさせない、そういう努力さえも見られないのは、ある意味凄く新しいのではないかと思ってしまいました。バカミスともちょっと違う感じですし。

電撃文庫というのを意識してのことかもしれません。あとがきによると「ラブコメ」+「部活もの」+「日常系ミステリー」を目指していたとか。ミステリというジャンル自体は正直なところ斜陽分野ですし、既存の雰囲気にとらわれないチャレンジ精神は歓迎されるべきものかもしれません。

ただ、単なるラブコメものとして考えたとしても、もう少し頑張ってほしいかなというところはあります。随所に笑いを誘われるコミカルな文章ではあるのですが、主人公の性格や地の文章での擬音の使い方があまりにラノベな方向に走りすぎていて、読み進めるのが少々疲れてしまいます。

筆者のミステリ愛は随所に感じられました。ミステリファンならにやりとするネタも見られます。ただ、名作のパロディみたいなのはいいのですが、ミステリのトリック自体をほのめかすのはグレーゾーンのような気もします。オランウータンのネタとか。作品名を明かさなければ良いというものでもないような・・・

ライトノベルという枠での作品ということを考えると、こういうミステリともいえないミステリという作風もありなのかなという気はします。ただ、もう少し主人公が格好いいとかトリックが秀逸であるとか、何か目を引く長所があると読む側としてはうれしいですね。

評価:★☆☆☆☆

2010年10月9日土曜日

ローマ人の物語〈28〉すべての道はローマに通ず〈下〉(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

前巻に続きローマのインフラ編。本書では水道とソフト面のインフラがとりあげられています。軍隊=建設屋というのはとても理にかなっているように思いますね。続巻への前振りもちらほら見られます。



素人的にみると、街道を作るより水道工事のほうがかなり難易度の高いものに見えます。実際、水路の通し方や水圧など、考慮すべき点は多かったようです。共和政、帝政をあわせて10以上の水道がローマには引かれていたとか。人口拡大に伴う需要に応じたのはもちろん、工場専用水道なんてのもあったようです。

塩素などの薬品無かった当時、水質を保つ手段は流しっぱなしにすることだったそうです。ずっとひとところに沈殿させているから腐っていくのですね。たえず流していればOKという考え。もったいないようでも水源が枯れるわけではないですし、理にかなっています。

ソフト方面のインフラとしては、医療と教育が取り上げられています。道や橋や水道が、為政者の義務とばかりにたいそう力を入れられていたのに対し、医療と教育については各家庭に任されていたそうです。だから、大都市ローマには大きな病院や学校の跡がみられなかったとか。

家任せだからといって水準が低かったわけではもちろんありません。国が行っていないのに何故インフラなのかというと、政策として医師や教師にはローマ市民権が与えられていたためです。優秀な医師や教師はギリシアなどの外国人に多かったため、ローマ市民権という餌でもってローマ内における水準を高めようとの施策。

ちなみに、キリスト教国教化にともない医療も教育も国から提供されるものとなるのですが、私的なときより公的に変わったほうがレベルが落ちている点について、筆者はちくっと皮肉っています。国に任せた挙句の医療制度崩壊やゆとり教育の弊害を目の当たりにした我々としても、考えるべきことは多々ありそうです。

評価:★★☆☆☆

関連レビュー:
ローマ人の物語〈27〉すべての道はローマに通ず〈上〉(塩野七生)

2010年10月8日金曜日

正義のミカタ(本多孝好) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

タイトルから感じた印象と違い、それほどスカッとした作品ではありませんでしたが、500ページ近い大作の割には結構すんなり読ませてくれます。正義の味方が悪人をやっつけるというより、正義とは何かを考えさせられる作品です(かゆい表現ですが)。



高校時代いじめられっ子だった主人公「蓮見亮太(はすみりょうた)」。大学デビューにも失敗しかけたところを「トモイチ」こと「桐生友一(きりゅうゆういち)」という同級生に助けてもらい、彼が所属する「正義の味方研究部」に案内されます。

彼らは少数精鋭集団。トモイチも高校時代ボクシングでインターハイ制覇というツワモノです。そんな部に亮太は見込まれて勧誘されることになります。亮太の何が買われたかと言うと、トモイチのパンチを目で追えていたとか何とか。まあいろんな意味で結構微妙です。

部員達がいかにもフィクションめいたチートなスペックを持つわりに、ストーリーはよく言えばリアル、悪く言えば陰気臭い感じで進みます。亮太も天性の才能を開花させるというようなことはありません。ただ、話の作り自体は流石にこなれた印象で、ラスト付近も意外な展開が続いて楽しめました。

正直、主人公に感情移入しにくかったため、文章自体は読みやすいにもかかわらず、特に前半は読み進めるのがなかなかしんどかったです。作品の雰囲気としては伊坂幸太郎の「砂漠」なんかが近い感じですが、あちらの作品のような爽快感はありません。

文体は軽く、テーマは重く、キャラはラノベというちぐはぐな印象で、どのように楽しめばよいのか分かりにくい作品でした。私はどちらかというときっちり割り切った分かりやすい作品が好きなので、その点好みに合わない感じでしたが、一筋縄ではいかない曲者展開が好きな方には楽しく読めるのではないかと思います。

評価:★☆☆☆☆

2010年10月7日木曜日

白銀ジャック(東野圭吾) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

飛行機やバスでなくゲレンデの占拠(?)ということで白銀ジャック。ただし犯人はずっと隠れたままのため、サスペンス的な白熱感はあまりありません。あっと驚くような派手さはありませんが、氏ならではの安定感ある手堅い作品という印象です。



最近、東野圭吾さんの新刊はガリレオシリーズくらいしか買ってません。よほど評判になっていない限り、単発物のために単行本まで買おうという気にならないので。今回は「実業之日本社文庫」創刊記念ということでいきなり文庫での新作。大変ありがたいことです。

ゲレンデに爆弾を埋め込んだということで身代金を要求してくる犯人。電話の陰に隠れっぱなしのため、○○ジャックならではの臨場感はありませんが、広いゲレンデにおける身代金の受け渡し方法が、本作品における一つのキーポイントとなっています。

もう一方の軸として、一年ほど前に起こったスノーボーダー飛び出しによる死亡事故があります。いまだ捕まらない犯人と心に傷を負った少年。そちらの話がどのように絡んでくるのか、流石の手腕にはうならされること請け合いです。ちなみにマナーの悪いスノーボーダーには作品全般ちょっと厳しい論調です。ボーダーの人はむかっとくるかも(^^;

人間関係の機微については相変わらず淡白ですが、ヒロインらしき人物も二人ほど出てきてくれたりするので、そこそこには感情移入して読むことが出来ます。恋愛方面の行方についてもまずまずのところに落ち着いてくれるので、読後感は悪くありません。

過去に高い評価を受けた作品をたくさん持つ筆者ですので、それらの作品と比べてしまうと若干の肩透かしは感じられるかもしれませんが、私としてはこれほど端正にまとまったミステリは久しぶりに読んだ気がきます。オチにもそれなりに驚かされたので、東野圭吾ファンであれば読んで損することはないかと思います。

評価:★★★★☆

2010年10月6日水曜日

秀吉の枷〈下〉(加藤 廣) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

中巻の続き。天下を取ったのは秀吉でも、血統争いでは淀の方にやられて敗北ということになるでしょうか。ミステリとしてみると構成の甘さを感じますが、純粋な歴史物として面白かったです。



秀吉の枷というタイトルからも、本能寺の変への関与が落とす影を主題としたかったであろう筆者の意図は分かります。ラストのあたりで前野将右衛門らの口を借りた真相が明らかにされるあたり、その試みは成功しているといってよいと思います。

ただ、本筋の歴史ものとしての面白さが、本来の意図をぼやけさせてしまった感は無くもありません。淀の方懐妊にまつわる疑惑、家康との駆け引き、朝鮮出兵、秀次失墜の真相など、興味深い話がてんこ盛りです。

もちろん、各エピソードのそれぞれに「枷」が絡んできてはいるのですが、それはあくまで諸原因の一つというように感じられました。文庫にして3冊と、3部作の中で一番の大著ではありますが、シリーズ全体の位置づけで見ると本作は外史に過ぎないのかもしれません。

俄然、続編「明智左馬助の恋」が楽しみになってきました。本作でもところどころに未回収の伏線が散りばめられているため、ミステリ成分の期待もより大きくなろうというものです。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
信長の棺〈上〉(加藤 廣)
信長の棺〈下〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈上〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈中〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈下〉(加藤 廣)(本書)
明智左馬助の恋〈上〉(加藤廣)
明智左馬助の恋〈下〉(加藤廣)

2010年10月5日火曜日

秀吉の枷〈中〉(加藤 廣) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

上巻の続きです。信長の死後、秀吉による天下取りの軌跡が描かれています。最も華々しいところのエピソードなので読んでて楽しいですが、本能寺の変の影響がそれほどでもなかったのは若干肩透かしかもしれません。



信長の死を予見した秀吉の「中国大返し」。歴史的事件の背景をシリーズ独自の設定から解釈しているのが本書の見所となります。もっとも、信長の遺児たちをあしらい柴田勝家ら旧臣たちを実力で打ち倒す様子は、その設定が無くても普通に面白いです。

本書のタイトルどおり、本能寺の変への関与は最大の敵である家康に知られるところとなり、大幅な譲歩をせざるをえないウィークポイントとなってしまいます。ただ、それは歴史上の不可解な現象を説明するためのおまけに過ぎない印象も。やはり、真相も含め全てが明らかになるのは続編にお預けかもしれません。

本書では天下取りなった後の後継者問題、すなわち子作りにまつわる側室たちの話も大きく取り上げられています。その話題の性質から、ちょっぴりエロイ展開ありです。次々と側室を変えて、お楽しみというより必死の試み。淀の方はまだあまり登場がありません。

本書でも太田牛一は出てきませんでしたね。これはずっと出てこないことになりそうで、ちょっと残念です。なんとなく、後は普通の太閤記になりそうですかね。栄華を極めるのに比例して荒んでいく一方となりそうなので、下巻は鬱な展開メインとなってしまうのでしょうか。

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関連レビュー:
信長の棺〈上〉(加藤 廣)
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秀吉の枷〈上〉(加藤 廣)
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明智左馬助の恋〈上〉(加藤廣)
明智左馬助の恋〈下〉(加藤廣)

2010年10月4日月曜日

秀吉の枷〈上〉(加藤 廣) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

「本能寺の変」三部作の2作目。信長の死の真相を追うというちょっと地味目だった前作と比べて、主役が秀吉ということでいかにも歴史小説らしい華々しい展開をみせてくれます。ただし、前作から引き継ぐ独自の設定は健在。新鮮な視点を提供してくれます。



秀吉に関わる小説は世にたくさんあるかと思いますが、「山の民」の設定と本能寺の変への関与が、本作品のオリジナリティを支える肝となっています。これは前作とも深く関わってくる設定なので、「信長の棺」のほうを先に読んだほうがスムーズに話に乗れると思います。

「山の民」とは先祖を藤原氏とする隠匿の民のことで、筆者独自の設定です。空想といってしまえばそれまでですが、本シリーズではこの設定が色々な歴史的事象を解明するキーとなっています。歴史に詳しい人ほどニヤリとできるのではないかと思います。

また、本能寺の変の真相について、前作でもちらりと触れられていた秀吉の関与がいかなるものであったのかが本書で明かされています。ただし、特に「明智左馬助」の動きに絡んで、思わせぶりな謎がまだちらほら残っています。このあたりは続編のほうで明らかにされるかと思いますが、あおり方が実に上手です。

信長の死の真相が本シリーズを通じた一つの軸になっているかと思いますが、普通に秀吉の戦記物としてもなかなか面白いです。竹中半兵衛、黒田官兵衛、羽柴秀長、蜂須賀小六、前野小右衛門ら側近達の活躍が鮮やかに描かれています。

本巻ラストで起こった本能寺の変への秀吉の関与。これが後の展開にどう影響してくるか楽しみです。それにしても、前作で秀吉が太田牛一に訳知りっぽく対する場面がありましたが、今のところ全く出てきませんね。次巻以降の楽しみということになるでしょうか。

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関連レビュー:
信長の棺〈上〉(加藤 廣)
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秀吉の枷〈上〉(加藤 廣)(本書)
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2010年10月3日日曜日

ACONY(3)(冬目景) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

可愛いゾンビ(?)少女「アコニー」の最終巻です。前巻ラストの引きでストーリーものっぽい展開をみせるかと思ったら、あっというまに気の抜けた展開に逆戻り(褒めてます)。完結は残念ですが、作品の性質的に程よい終幕というところでしょうか。



魅力的なヒロインが多い冬目景さんの作品ですが、中でもアコニーは一番好きかもしれません。ハルと双璧ですね。スプラッタ好きな趣味だとか、ちょっとえげつない性格だとか、不幸な生い立ちを感じさせない軽さが良いです。

前巻のラストで母親の行方探しが始まり、結末に向かって盛り上がっていくのかと思いきや一話でアッサリ収束。ただし、真相はとても意外なものでした。凄くこの作品らしいオチ。巳園さんと熊さんの軋轢が微笑ましいです。

どの話も面白かったですが、なかでも好きなのは「キーラートースター」です。登場時にはシリアス風味だったお婆ちゃんですが、贈ってきたプレゼントのお茶目さはさすがアコニーの祖母。そのアコニーはモトミを助けるために座敷童子を放り投げるし。取れた首を青筋立てながら直すワラシが可愛かったです。

冬目景さんはシリアスもコメディも、どちらでも最高に面白いですね。難点は刊行間隔が開くことくらいでしょうか。もうちょっとなんとかお願いしますよといいたいところですが、それでクオリティが落ちたら意味無いですし、気長に待つしかありませんね。忘れた頃に出てくるサプライズプレゼントと思えば・・・

評価:★★★★☆

関連作品:



2010年10月2日土曜日

ローマ人の物語〈27〉すべての道はローマに通ず〈上〉(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

今回は特別編。ローマ全時代を通じてのインフラをテーマとしたお話し。上巻ではハード面、特に街道や橋について語られています。筆者も冒頭で懸念しているとおり、歴史物語ではないため面白さという意味ではいまいちかもしれませんが、写真も多くてそれなりに楽しめました。



本書がいまいち面白みにかけるのは、インフラを扱っているからという理由ではなく、それらの一番大事な点については既に語れてしまっているためです。スキピオやカエサルによる華々しい戦記の合間にも、インフラについては重要なものとして逐一言及されていました。

だからといって、本書に価値が無いというのではもちろんありません。本筋の歴史の片手間で触れるにはちょっと冗長になりそうな、実際の街道や橋の作りについて詳細が語られています。たくさんの絵入りで説明されているため、素人にもなかなか分かりやすかったです。

土木や建築で専門的な仕事をしている方ならより面白く感じられるのではと思います。ただ、この巻だけだと意味が通らなさそうなのが難しいところです。アッピア街道の時代背景など、既刊を読んでいないと追いつかなさそうなところが多々あります。

そもそも、このシリーズ全体を通してつまみ読みが難しそうだなという印象を感じています。前時代のうちに、それより少し後の時代の予告編をちょこちょこ入れるのが筆者の得意とする手法です。そのため、ベストの読み方は「最初から続けて読む」になってしまいます。

もっとも、それが欠点というのでなく、だからこそ物語として面白いというところがあります。下巻では教育や医療などソフト面のインフラにも触れられているようなので、私としてはむしろそちらのほうが楽しみかもしれません。

評価:★★☆☆☆

続き:
ローマ人の物語〈28〉すべての道はローマに通ず〈下〉(塩野七生)

2010年10月1日金曜日

ジウ〈1〉―警視庁特殊犯捜査係(誉田哲也) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

武士道シリーズとそっくりな作品。出版の時系列的にはあちらが似てるというべきですが。かたや青春小説、こなた警察小説なのに不思議な感じです。「新たな警察小説の誕生」といううたい文句はわかる気がします。



「ジウ」というのは犯罪者の少年の名前です。まだ詳しいところは明かされませんが、犯罪者としての演出は「ストロベリーナイト」そっくりです。全3巻となるため今回彼は捕まりませんが、本書だけでも一応それなりの解決を見せます。

彼に関わる事件を追いかける形で、「門倉美咲(かどくらみさき)」と「伊崎基子(いざきもとこ)」の二人の視点から、交互に事件が展開していきます。二人はもともと同じ係りのメンバーでしたが、所属が分かれてもそれぞれの立場から「ジウ」にいやおう無くかかわっていくことになります。

美咲は説得を得意とする女性らしい女性。一方の基子は武闘派で、軟弱な美咲を毛嫌いしています。このあたりの人間関係が武士道シリーズそっくりです。筆者の得意とするパターンなのでしょうけれど、既視感が強くて若干のめりこみにくい印象はあります。

彼女達それぞれと深くかかわる男性警官が登場しますが、死亡フラグが立ちまくりです(笑)。全滅だと目も当てられないなと、どきどきしながら読んでいました。どうなったかは実際に読んでみてのお楽しみで。

話はとても面白く一気に読めたのですが、どうも「武士道シリーズ」+「ストロベリーナイト」という印象がぬぐいがたく残ってしまいました。こちらのほうが出版は早いわけですから、このシリーズこそ筆者のエッセンスの源ということなのでしょう。読む順番間違えましたねぇ・・・

評価:★★☆☆☆