廃部寸前の弱小吹奏楽部周辺を舞台に、「チカ」と「ハルタ」を主人公とした短編集です。死体とかは一切出てこない、いわゆる「日常の謎」もの。第1話読了時点では、ふーんという程度の感想でしたが、2話目以降がよかったです。一話経るごとに部員が一人ずつ増えていくRPGみたいな構成もGoodです。
巻頭の人物紹介で、穂村千夏と上条春太は三角関係だとありますが、甘酸っぱいラブストーリーを期待すると肩透かしかもしれません。あまり萌えシチュエーションのない話ですが、ヒロインのチカは色々な意味でとても良い主人公だと思います。以下、各話ごとの感想です。
1編目「結晶泥棒」は、人物紹介のためのお話しですね。学園祭の開催が危ぶまれる事件が起こり、主人公二人がその解決に挑むという、ミステリ的にはまぁありふれた状況です。物語全体の基調となる、とある設定についてもミステリ仕立てとなっています。ミステリとしては正直物足りない感じですが、設定紹介として割り切って読むべきでしょう。
「クロスキューブ」は、全面白色という謎のルービックキューブに挑む話し。何故だか校内で大流行してしまったルービックキューブ。影で練習しまくって「スピードキュービスト」の称号を得たハルタと、いい気になるハルタにむかついて完成したキューブをどんどん解体していくうちに「スクランブラー」の異名をとってしまったチカの掛け合いが面白いです。設定がとてもユニークで、本書中では一番好きな作品です。凄腕のオーボエ奏者「成島美代子」が仲間となります。
「退出ゲーム」は、演劇部となぜか舞台で勝負をすることになってしまい、よりうまく「退出」できた方が勝ちというルールでゲームをするはめになる舞台劇のお話し。演劇部側と吹奏楽部側にわかれて、お互いに口実をつけて退出を目論む駆け引きが本編の醍醐味。この作品は日本推理作家協会賞(短編部門)の候補作となったそうで、ユニークな舞台設定に唸らされます。中国系アメリカ人のサックス奏者「マレン・ケイ」が登場します。
最終編のタイトル「エレファンツ・ブレス」は実際にある謎の色だそうです。来春から入学予定のバストロンボーン奏者「後藤朱里」は、なかなかいい性格をしていて、本書では私一番のお気に入り。色々問題を起こす発明兄弟の凄いんだか馬鹿なんだかわからない発明から、事態は思わぬ方向へ展開します。ちょっと重い話ですが、後味はすっきりしているので読後感は悪くありません。
それぞれのミステリもよく出来ていますが、弱小部ながら過去にコンクール受賞歴もある凄腕指揮者「草壁信二郎」を教師として迎えたことで、吹奏楽の甲子園「普門館」を真剣に目指す、スポコン的なノリも見せています。それだけに、音楽方面についてももう少し突っ込んで欲しかった気もしますが、本編のミステリとしての完成度が高かったのでやむを得ないところでしょう。
とにかくミステリとしても青春ストーリーとしても秀逸です。すでに続編がでているようなので、ハードカバーですが手を出してみたいと思っています。
評価:★★★★☆
続編レビュー:初恋ソムリエ(初野 晴)
2010年7月30日金曜日
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