ルビコンを越えたカエサルに対し、まずはポンペイウスは逃げの一手と肩透かし。お金も人も海の外にたくさんあるから、戦略的には仕方なかったんでしょうけれど、
ルビコン川からメッシーナ海峡までの本国ローマは、本国であるだけに、プラス・アルファがあった。(P48)と筆者も言っているように、ローマをしっかり押さえたことがカエサル勝利の一因なのでしょう。まぁ、本丸を捨てて一目散に逃げるなんて、策だといっても民衆が納得しませんよね。
とはいえ、北方の貧相なガリアにしか地盤を持たないカエサルに対して、ポンペイウスは東、西、南の経済力豊かな地域を押さえています。長期戦になれば敗北必死のカエサルは西へ東へ転戦しまくります。そこで凄かったのは、なるべく直接の決戦を避け、降伏した相手は殺さない。将官クラスさえ自由放免。もちろん同じローマ市民ということで、政治的な思惑もあったのでしょうが、男としての度量を感じずにはいられません。
そしていよいよポンペイウスとの決戦。財力でも兵力でも勝るポンペイウスに対して、カエサルは緒戦を敗れてしまいます。やはりポンペイウスも一流の用兵家、勝る戦力の使い方が凡百の将とは違います。しかし、負けてからの建て直しもカエサルは凄いですね。ポンペイウスの同僚を餌に戦場を移動し、ファルサルスにおける野戦に全てをかけます。
過去の重要な会戦では劣勢の軍が勝利を収めたことは珍しくありません。しかし、ファルサルスにおいてはカエサルの主張できる利点がほぼ皆無でした。歩兵だけでなく、機動力に富む騎兵についても1000vs7000の大差。そして敵将は超一流。こんな絶望的な状況をどうひっくり返したのかここでは書きませんが、単に機略に富むというだけでなく、部下に慕われる人間力や絶対に勝ちを収めようという信念の勝利だったと思います。
敗れたポンペイウスは逃げ込んだエジプトの地で裏切りにあい、殺されてしまいます。ポンペイウスの首を前に涙するカエサル。クレオパトラに組してエジプトの内紛に介入したのは、ポンペイウスの敵討ちの意味もあったのではないかと考えるのはロマンチストすぎるでしょうか。
大決戦の興奮が収まりませんが、いよいよカエサルの死も近づいてきました。うーん、次巻にいきたくないですね。
評価:★★★★★
次巻:『ローマ人の物語〈12〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(中)』(塩野七生)
関連レビュー:
『ローマ人の物語〈8〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(上)』(塩野七生)
『ローマ人の物語〈9〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(中)』(塩野七生)
『ローマ人の物語〈10〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(下)』(塩野七生)
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