2010年7月23日金曜日

『博士の愛した数式』(小川洋子) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

まるでビデオテープのように80分しか記憶を残せない「博士」と三十路前の「家政婦」、そして彼女の息子「√(ルート)」によるちょっと変わった触れ合いのお話し。設定が重そうに思えてなかなか手が伸びなかったのですが、全然そんなことなかったです。最後まで淡々と日常を描いている点に逆にぐっと来ました。



前任の家政婦達が長続きせず、彼女で10人目。だからといって博士が怒りっぽいとか気難しいとかいうことはありません。相手に失礼のない会話をしようとすればどうしても素っ気無くなります。彼女が成功したのは、唯一博士が熱心になる数字による会話に興味を持てたため。友愛数や完全数などについて語っていくうちに、数の美しさに惹かれていきます。

彼女に10歳の息子がいると知り、なぜだか博士が気にします。ひとりにしてはいけない、早くご飯を食べさせないと駄目だと。やむなく連れてきた息子に、博士は「√(ルート)」というあだ名を付けます。同じ阪神ファンと知り意気投合する二人。ただし博士の記憶は江夏の時代から止まっているのが、なんともせつない。

10歳の息子はあまりに大人びているようにも思いますが、それはこの手の話ではお約束。リアルを追求すれば良いというわけではない一例です。数字の話は学生時代にきいたことがあるようなものばかりでしたが、それぞれが物語と微妙にリンクしたメッセージ性をもち、ただの知識の羅列に終わっていない点が素晴らしかったです。

設定からしてなんとも切ないお話しなのですが、過度に飾り立てることなくあくまで淡々とストーリーが進むため、仰々しいのが苦手な私としても、さほどダメージを負わずにすみました。とてもユニークな切り口とあっさりした描写。とても感じの良い作品でした。

評価:★★★☆☆

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