2010年7月21日水曜日

『夜の静寂に』(ジル・チャーチル) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

10年間住み続けないと遺産がもらえないブルースター兄妹。金策に悩む二人は、かつての人脈を活かして会費制パーティーを企画します。幸い有名作家が招待に応じてくれたものの、集まった人達はみな何やら分け有りなご様子。そうしているうちに、またしても殺人事件が。グレイスー&フィーバーシリーズ第2弾です。



粗筋だけだとなんとも軽薄な印象を受けられるかもしれませんが、時代背景が1930年代金融恐慌の真っ直中ということで、結構悲壮感の漂う雰囲気です。

パーティーなんていかにも苦労知らずな金持ちの発想っぽいですが、実は選択肢の少ない二人。ニューヨークから3時間の田舎とあっては、ちまちま都会で稼いでも電車賃だけで消えてしまいます。地元でも不況でろくな仕事に有りつけるはずもなく、なんとか自分たちで金脈を見つけるしかない状況です。

そうはいっても、屋敷の維持費は遺産から出るし、同居することになった弁護士で管財人のプリニー夫妻により絶品の食事とわずかながらの賃料は提供されるので、すぐにも生きていけなくなる状況ではありません。かつての豪奢な生活から一変の惨めな境遇、しかしそれよりもさらに酷い状況にある人達との対比が、独特な世界観を醸し出しています。

シリーズ名のグレイス&フィーバーは、王室終身貸与の意味だそうです。自身のものではない住まいのことを皮肉ったネーミング。

正直、ミステリとしてはいまいちなのですが、時代背景の描写がなんとも真に迫っていてよいですね。フーヴァー大統領の無能さや共和党ルーズベルト候補への期待などは、ちょっと当時の状況を調べてみたくなります。そんなやっかいな世の中を健気に生きるリリーとロバート、それに周囲を囲む人達も実に魅力的です。どちらかというとミステリ云々より二人の行く末が気になるお話しです。

評価:★★☆☆☆

次巻:『闇を見つめて』(ジル・チャーチル)

関連レビュー:
『風の向くまま』(ジル・チャーチル)

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