2010年7月13日火曜日

『ラギッド・ガール 廃園の天使 2』(飛 浩隆) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

グラン・ヴァカンス』における世界観を補完する中編5作で構成されています。相変わらずちょっと重めの雰囲気ですが、それぞれの作品のクォリティが素晴らしかったです。



このシリーズを一文字で表すと「痛」とか「酷」とか「虐」という感じになるでしょうか。表題作「ラギッド・ガール」のヒロイン(?)阿形渓(あがたけい)は170cm150kgで
全身これ犀のけつ(P66)
などと表現されています。こんな素敵な女の子(?)のちょっとエロイシーンがあったりする作品なわけです。

SFを読む醍醐味といえば設定の演出。本書中の後ろ4編はそれが完璧です(最初の1編は前作の外伝みたいな形式だったので)。最初はどういうシチュエーションだかわからないまま淡々と物語は進み、最後にキーとなる設定がドカーンと明かされます。その見せ方がなんともエグいのです。単に謎解き的なものを超えたインパクトを与えてくれます。

本書では仮想人格が2種類現れます。一つは、いわゆる「AI」と呼ばれるまったく計算上の人格。そしてもう一つは「情報的似姿」と呼ばれる、物理世界の人格を模したもの。前者はまぁ普通かと思いますが、後者の設定が実にユニークでした。

本書中の仮想世界においては、人間が直接入り込むのではなく「似姿」が仮に行動して、その情報をあとからダウンロードとする形となっているのです。その過程で、仮想人格の人権やアイデンティティが問題となってきます。

前作ではよくわかっていなかった「大途絶」の原因や「ランゴーニ」の正体についても明かされています。おかげでかなりすっきりした部分もありますし、まだまだ曖昧なままの部分も結構残っているため、今後の展開が一層楽しみともなってきました。

今回はすべて過去のおはなしという位置づけでした。このなんともエグいシリーズがどのような収束を見せるのか、現在のところ全く想像がつきません。もう少し、こう・・・ソフトにとは言わないけれど、せめて救いようのある結末にはなって欲しいですね。

評価:★★★★☆

関連レビュー:
『グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉』(飛 浩隆)

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