2010年7月9日金曜日

『風の向くまま』(ジル・チャーチル) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

大恐慌時代、1931年のニューヨーク。上流階級からすっかり零落したロバートとリリーの兄妹が、大叔父の遺産を相続することになった。ただし、ど田舎の屋敷に10年間住みつづけなければならないという条件つき。グレイス&フェイバー・シリーズの開幕です。



兄妹2人が主人公というシチューエーション、結構私は好きみたいです。父親が株の失敗で自殺。母親も少し前になくしていたため兄妹2人っきりで世間の荒波に揉まれてきましたが、それも2年程度のことなので、根はまだまだお坊っちゃんお嬢ちゃん。ちなみに年齢は26と24歳。美形で性格も育ちも良く、お金以外なら長所をたくさん持っている二人です。

人物紹介ではリリーが先にきているので、彼女が探偵役になるのだと思います。ロバートの立場は・・・結構微妙。そもそも落ちぶれ生活の際にもロバートは定職につかず、有閑マダムのご機嫌をとったりレストランの臨時ボーイ長をしたり、それらの仕事で共通しているのが
麗しくハンサムな容姿、流暢な話術、タキシード、この3つが必要な点(P10)
というふざけたもの。端から見ると妹のヒモにしかみえません。

もっとも、銀行で小切手を数えるリリーの仕事もほんとに雀の涙の給金だったようだったので、収入の多寡については分かりません。なによりリリー本人が納得しているようです。引越し後の金勘定についても事件の推理についてもロバートはリリーにまかせっ放しなのですが、だからといって便りにならないわけでもなく、リリーが迷っているときに焚きつける様子などは、かなり確信犯的な奥深さを見せます。何とも不思議な兄妹です。

グレイス&フェイバーというのは二人がコテージにつけた新しい名前です。主人公二人がリリーとロバートですから、最初カバーが入れ替わってるのかと思ってしまいました。名前の由来はまだ不明。おいおい明かされていくことになるのでしょう。こういう伏線を丁寧に仕込んでくるのはいいですね。

殺人事件などきな臭い状況に巻き込まれはしますが、ジャンルとしてはコージー・ミステリーに属すると思ってよいんでしょうか。実際、脇キャラもなかなか魅力的で、小さな田舎町にふさわしい暖かな雰囲気を醸し出しています。正直、ミステリとしての出来自体はどうかと思うところもなくもないのですが、クライマックスの盛り上がりも含めてとても好感の持てる佳作です。

評価:★★★☆☆

次巻:『夜の静寂に』(ジル・チャーチル)

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