2010年7月22日木曜日

『推理小説』(秦 建日子) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

第1章「アンフェアなはじまり」で始まる本作品。ちょっとメタな感じの作中作が「リアリティがない」、「展開がアンフェア」と批判を受けるのですが、まさにその2点こそがテーマとなっているのだと思います。素直なミステリ読みの私には少々しんどかったのですが、一周しちゃって一筋縄では楽しめない人にはストライクな作品だと思います。



ミステリ的なお約束を否定しているのは本書のテーマからして当然としても、そのシニカルな書き方はちょっと独善的で私には受け入れ難かったです。もちろん、そう思わせること自体が筆者の狙いなのでしょうけれども、受け入れられるかどうかはまた別です。

非常に挑戦的かつ挑発的で、私みたいに拒否反応を感じる人もいるとは思うのですが、どうやらかなりの売れ行きを見せている(私の入手した本が2007年時で92刷)ことからしても、作者のチャレンジは間違いなく成功したと言ってよいでしょう。

文章は極めて読みやすいです。小説としては本書がデビュー作となるようですが、演出家やシナリオライターとして既に大きな実績のある筆者のこと、このクオリティも当然と言えるでしょう。

ヒロインはとても個性的。酒かっくらって寝てる時は携帯にもでない、相棒の刑事の横で裸で寝ていても気にしない、でも検挙率No1で誰も文句が言えない、スタイル抜群・超絶美形の三十路女性です。正直、こういうスーパーな設定がストーリーに生かされているとは思えないのですが、それも計算だといわれてしまうと黙るしかありません。

お約束が破られているのも計算。オチがいまいちなのも計算。キャラ萌えできないのも計算。アンチテーゼが言い訳に聞こえてしまって、私としてはちょっと評価しにくい作品なのですけれど、文章力もあり強烈なメッセージ性をひめていることもあり、相性さえあえばとてもハマる作品と言えるのではないでしょうか。

評価:★☆☆☆☆

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