2010年7月17日土曜日

『ローマ人の物語〈13〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(下)』(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

「三月十五日」といえばカエサル暗殺の日。西欧人にとっては説明の必要もないくらいの常識だそうです。カエサルの死からアントニウスvsオクタヴィアヌスによる覇権争いの決着までを描く、いよいよカエサル編の最終回です。



「ブルータス、お前もか」のブルータスですが、暗殺実行者14人のなかにブルータスは2人いたそうです。ひとりは首謀者の代表格である「マルクス・ブルータス」。その母親「セルヴィーリア」は長年カエサルの愛人(の一人)として有名で、その縁で重用されながらも息子として複雑な心情を抱いていたのは当然のことでしょう。もうひとりは「デキムス・ブルータス」。その若き才能をカエサルに愛された、ガリア遠征時からのまさに腹心中の腹心。

カエサルの言う「ブルータス」がどちらであったのかは意見の分かれるところだそうです。普通に考えれば首謀者格である「マルクス」のほうでしょうが、「デキムス」のほうを推す論者も多いようで、筆者も後者側に組しています。遺言状によりデキムスは相続人の一人として名を連ねていることを知り、真っ青になったといいます。まさに絵に書いたような悲劇です。

その遺言状で正式にカエサルの養子となり、筆頭後継者に指名されたのが若干18歳の「オクタヴィアヌス」。30歳でようやく大人扱いのローマにおいては、まさに「誰、それ?」な人物です。カエサルも自分がすぐに死ぬとは思っていなかったからこその人選だったのでしょうが、それだけにカエサルの人物を見極める慧眼が一層際立ちます。

カエサル亡き後、衆目が見るところの第一人者「アントニウス」ですが、No2としての手腕はあっても自らがヴィジョンを描ける人物ではなかったようです。のちの行動をみる限り、後継者に指名されなかったのはむしろ当然といえるでしょう。政治能がないだけならともかく、クレオパトラに篭絡されてエジプトに入り浸るあたり、ローマ人としての誇りについても疑問視せざるを得ません。でも、逆境より順境に耐えるほうが大変なんですよね。

剣闘士並の体力と軍事実績をもつ「アントニウス」より、病弱で軍事的才能に恵まれない「オクタヴィアヌス」が後継者として指名されたのは、おそらくカエサル自身が作った土台を維持する2代目としての能力を期待されたからなのでしょう。あまりに若くしてバトンを渡されたため、決着をつける実力を蓄えるために「オクタヴィアヌス」は14年を必要としました。その困難な仕事をやり遂げたのは、まさに後継者としての面目躍如といったところでしょう。

クレオパトラについての筆者の意見は辛らつですね。同じ女性からの視点ということで、その評価は一層生々しく感じられます。大人しくしていれば何事もなかったであろうエジプトを、自身の才気におぼれることにより潰してしまったのですから、その評価も妥当といわざるを得ません。

これでカエサルの時代は終わり、オクタヴィアヌス改め「アウグストゥス」による帝政時代が始まります。次巻に行く前に、もう少しカエサル関係の著作を読んでみたいと思っています。

評価:★★★★☆

関連レビュー:
『ローマ人の物語〈8〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(上)』(塩野七生)
『ローマ人の物語〈9〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(中)』(塩野七生)
『ローマ人の物語〈10〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(下)』(塩野七生)
『ローマ人の物語〈11〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(上)』(塩野七生)
『ローマ人の物語〈12〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(中)』(塩野七生)

0 件のコメント:

コメントを投稿