2011年3月29日火曜日

小説家の作り方(野崎まど) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

どうミステリになるのかと思いながら読んでいた文章がことごとく伏線だったいう、あいかわらずお見事な手際でした。厳密にはミステリじゃないんですかね。小ざかしいジャンル分け不要の独自性に富んだ一冊です。



キャラクター作りが得意なファンタジー小説家「物実(ものみ)」が初めてもらったファンレター。お嬢様然とした彼女「紫依代(むらさきいよ)」に請われ、小説家になるための家庭教師を務めることになります。

美少女をマンツーマンで指導するという夢のようなシチュエーション。5万冊の読書量を誇る博識でありながら、随所に垣間見える紫の世慣れなさが、ただの伏線じゃなく萌えポイントにもなっています。

登場人物は全部で5人と、相変わらずのシンプル設定。なんというか、プログラマ的効率化精神の琴線に触れるといいいますか、あまりに無駄のない美しい話作りには、ただただ感服するばかりです。

タイトルが「小説」でなく「小説家」の作り方となっているのもポイントとなるでしょうか。ほかにもちりばめられた様々な伏線が、真実解明の段になって物語の風景を一変させます。

以下ちょっとだけネタバレ。既読の方だけ反転して読んでください。

二重のどんでん返しが秘められていましたが、結局紫がみせていた会話の間合いとはなんだったのでしょう。通信などは発生していなかったわけですから、色々解釈の余地がありそうです。

「お母様」を騙すために事前に施した細工の一つと考えることもできそうですが、私としてはあの間合いが「むらさき」の素だと解釈したいです。そのほうがいかにも萌えキャラっぽくていいですよね。

以上、ネタバレ終わり。

まだ筆者のデビュー作はタイミングがあわなくて読んでいないのですが、既刊4冊はいずれも単発ものです。野崎さんも物実と同じくとても魅力的なキャラクターを作る方ですので、できればシリーズ物もそろそろ読んでみたいなという気がします。

評価:★★★★☆

2011年3月28日月曜日

シューカツ!(石田衣良) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

主人公たちがマスコミ志望のハイソなグループなので、渦中の人が読むと苛立つこともあるかもしれませんが、就職活動における苦しさの本質というのは、私がやってた頃と変わらないなという気もしました。



就職活動なんてどんなマゾな人がするのかという感じですが、実際には多数の学生が洗礼を受けることになるわけです。私のときも就職氷河期真っ只中。社会人になるってこんなに厳しいことなのかと当時は思いました。

ただ、私の苦しさは自己分析の甘さや身の程を知らなかったことからきていたように思います。何しろ周りの先輩や同期がみな理系か公務員試験組みだったこともあり、就職活動の本質を悟るまでに結局30社ほどかかってしまいました。

その点、本書の主人公「水越千春(みずこしちはる)」たち鷲田大学生7人のグループは準備万端です。大学3年に入った早々に就活のためのプロジェクトチームをたちあげます。それでも苦労するのは、最難関のマスコミ志望だから仕方ありません。

グループの中でも明暗ははっきり分かれます。思うにいくら準備をしっかりしていても、本人の素養を超えたところでの勝利を得るのはかなり厳しいことなのですね。頑張ったからといって報われるとは限らない世の中です。

小説のでき自体はお世辞にも良いといえないように思います。6章だてのうち、本格的に就職活動に突入する最終章以外は読んでるのがしんどかったです。プロジェクトチームもなんだか微妙な感じでしたし。

あまり多くを期待しなければ本書から得られるものもそれなりにあるのではないかと思います。見栄を張られるのが一番痛々しいという採用側の視点は、割と普遍的な教訓になるのではないでしょうか。

準備はやはりそこそこしておくべきです。そして自分の適性をわきまえて見栄を張らない。それだけで就職活動はぐっと楽になると思います。もちろんあえて茨の道をいくのも一つの選択ですけれど、私はもう一度やれといわれてもやりたくありません。

評価:★★☆☆☆

2011年3月26日土曜日

ショコラティエの勲章(上田早夕里) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

花竜の宮」作者による非SF作品。和菓子屋のお嬢さんと天才ショコラティエを主人公とした、クールなスイーツミステリ短編集です。「ラ・パティスリー」の姉妹編ですが、本書だけでも十分楽しめます。



甘いものは好きなのですが、本格スイーツとなると男性の私にはちょっと遠い世界になります。本書のようなテーマの作品はなかなか新鮮でとても楽しいです。

京都に本店を持つ老舗和菓子や<福桜堂(ふくおうどう)>の売り子をしている「絢部(あやべ)あかり」と、その近隣に店を構える人気ショコラトリー<ショコラ・ド・ルイ>のシェフ「長峰和輝(ながみねかずき)」。

設定だけ聞くとロミジュリっぽい感じですが、お互い洋菓子も和菓子も好きということでとても友好的です。様々に起こる事件を通して徐々に親睦を深めていきます。

互いに敬意を持ちながらも、冷静なようで何かと好奇心を発揮しがちなあかりに対して、長嶺が毅然とした対応をすることもしばしば。緊張感のある関係といえるでしょう。

べたべたの恋話にならないのがいかにも筆者らしいところですね。最終話に登場する「天野花梨(あまのかりん)」はてっきり恋敵役かと思っていましたがそんなこともなく。結局二人の関係は本書では曖昧なままです。

前作「ラ・パティスリー」と比べて全編を通した趣向のようなものはないのですが、私は本書の淡々とした構成のほうが好きですね。各話とも地味ながら良質な仕上がり。流石としか言いようがありません。

それにしても、あかりに彼氏がいないことや長嶺が独身であることはお互い確認しあっているのに、結局最後まで本当に何事もなく終わってしまいました。続きあるんですよね(^^;

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
ラ・パティスリー(上田早夕里)

2011年3月24日木曜日

ゴーストハント3 乙女ノ祈リ(小野不由美) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

あくまで旧版うろ覚えの状態で読んだものの感想ですが、真相がわかってる分ちょっと退屈だったかもしれません。ディテールが細かくなっているのが逆効果だったような。ただ、面白くなるのは5巻からなんですよね。もう少し我慢です。



新キャラが何人か登場しますけれど、シリーズ的にそれほど重要な人物はでてきません。ただ、これから麻衣と親交を深めることになる友人たちの輪郭は、旧版よりはっきりした印象があります。

本書のシリーズ中における位置づけがいまいち曖昧なんですよね。実は4巻についても同様のことがいえます。学園もののくくりで1冊にまとめてもらっても良かったくらいです。

ただ、麻衣の成長のあとは一応見られます。前巻でも片鱗を見せていた能力が徐々に本格化していきます。逆に、本書でカタルシスを感じられたのはそこくらいでしょうか。

旧版を読んだときにはそれなりに真相に意外性を感じたのですけれど、改めて読み返してみると結構あからさまですかね。というかイラストが怪しすぎて犯人一発でばれてしまう気がするんですが(^^;(ネタバレ反転)

散々文句言ってますが、本書も怖いことは怖いです。霊やら超能力やら盛りだくさんですが、結局一番怖いのは人間だったという、いい意味で一番嫌なパターンです。

予備知識無しで読めば結構楽しめそうな気もするのですが、本書を若干退屈に思われた方も、できれば5巻まで我慢いただきたいです。本シリーズは一話完結に見えて、実は全7冊の大長編と思っていただいたほうがよいでしょう。

評価:★★☆☆☆

2011年3月23日水曜日

青い星まで飛んでいけ(小川一水) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

全6篇からなるSF短編集です。各話の雰囲気が結構違っていて、個人的にちょっと好みが分かれましたが、なぜかどの作品も筆者らしいと思わせるのが不思議というか流石なところです。



裏書に
未知なるものとの出逢いを綴った
とありますが、普通SFってそうじゃないのかなという気もします。以下、各話の感想です。

■ 都市彗星のサエ
平和だが閉鎖的な都市彗星バラマンディからの脱出を試みる、ボーイミーツガールな青春SFです。二人が得意分野を駆使して脱出ポットを作っていくのがとても楽しい。本書で一番好きな話でした。

■ グラスハートが割れないように
願いをこめながら胸で暖め続けると、甘い食物が培養されるという「グラスハート」に潜む罠。雰囲気は現代ものっぽく、テーマも家族とか宗教とか重めな感じ。ちょっと苦手な話かもでした。

■ 静寂に満ちていく潮
異種生命のセックスを題材としたお話し。アシモフの「神々自身」と似た感じのテーマですが、あちらよりはエロイと思います。

■ 占職術師の希望
その人に最適な職業をみつけるという微妙な超能力の持ち主が主人公です。直接に役立つ力を持たない彼が危機に立ち向かう方法とは。主人公とヒロインの掛け合いが楽しかったです。

■ 守るべき肌
計算機上の世界に移行して1000年のときを生きる世界に現われた異分子「ツルギ」。彼女が演出するゲームの意図とは?有名な海外SFの某作品を彷彿とさせますが、ネタバレになるので作品名を言えないのがもどかしい。

■ 青い星まで飛んでいけ
本書で一番とんがった設定ですが、一番の傑作だと思います。最初の数ページ読んだときには理解するのをあきらめかけましたが、これをわずか40ページでちゃんと筋の通った物語に仕上げているのが素晴らしいです。

個人的には1、4、6話が好きな作品でしたが、他の作品も総じてハイクオリティです。さすが短編の名手といったところでしょうか。

評価:★★★☆☆

2011年3月22日火曜日

少年陰陽師 異邦の影(結城光流) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

少女向け人気シリーズの一般文庫化ということで手にとって見ました。なるほど設定や話の作りはしっかりしていますが、この一冊だけだと少しもやもやが残ります。調べてみたら、内容的には3巻まででワンセットのようですね。次巻以降に期待です。



安倍晴明の孫にして陰陽師見習いの少年「安倍昌浩(まさひろ)」が、祖父の式神「紅蓮(ぐれん)」とともにあやかし退治に挑みます。

現在13歳の設定とのことなので少年でいいのですが、今後「青年陰陽師」とか「中年陰陽師」とかにジョブチェンジしていくんでしょうか。

才能を秘めながらもまだまだ未熟という、小説の主人公としては鉄板なキャラクターですが、それにしても本書では紅蓮や晴明に助けられすぎな気もします。ちょっと消化不良な感じです。

晴明の孫バカぶりは、ほほえましくてよいですね。好きな子をいじめる少年のごとく、色々な難事を昌浩に無茶振りすることで彼は鍛えられていくようです。

ヒロインは藤原道長の娘「彰子(あきこ)」ということでよいのでしょうか。実在の人物ですよね。うーん、ヒロインとして成り立つのでしょうか。ひょっとしてNTR?本書ではほんの顔見世程度の登場なので、二人の関係がどう展開するのか楽しみです。

昌浩は架空の人物のようですが、父の「吉昌(よしまさ)」は実在していたようなので、今後他の兄弟や従兄弟たちも出てくると面白くなってきそうですね。とりあえず3巻まで頑張って読んでみようと思います。

評価:★★☆☆☆

2011年3月20日日曜日

0能者ミナト(葉山透) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

非超常の技で怪異に挑むダークヒーローのお話です。設定自体は少し陰惨なところもありますが、語り口が軽妙なのでそれほど構える必要はありません。何より解決編がお見事。でも一番の見所は、主人公が16歳の巫女を淫らな手口で篭絡するところだと思います。



主人公「九条湊(くじょうみなと)」が20代半ばという設定ではあるのですが、巫女あり、ショタありとサービス精神は旺盛なので、電撃文庫から出ていてもさほど違和感は無かったように思います。

怪異を封じるために生贄となることを受け入れる頑な少女「山上沙耶(やまがみさや)」。彼女の覚悟をミナトが翻意させてしまうところは、ここだけで本書を読む価値があったといってよいくらい秀逸です。散々ひどい扱いを受けながら信頼を深めていく沙耶のMっぷりもナイスです。

上の二人に加えて10歳の小生意気な天才法力少年「赤羽(あかばね)ユウキ」。この3人組がメインキャストとして事件を手がけていくことになるようです。沙耶もユウキもわりと類型的なキャラではありますが、それだけにミナトの脱力感を際立たせてくれています。

2話構成となっていますが、私としては特に1話目がお勧めです。こんな退治のされ方をした妖怪がかつていたでしょうか?ミステリっぽい話が好きなかたには特に喜んでいただけるのではないかと思います。

個人的に若干の不満をあげるとすれば、ミナトにツンデレが入っている点でしょうか。私としてはもっとダークヒーロー路線を突き進んで欲しかった気もしますが、逆にこの弱みというかギャップが萌えポイントになっている気もするので、好みによって分かれるところかもしれません。

ラストで次巻への引きらしきものもあったので、これからシリーズ化していくのでしょうか。続巻には期待したいですが、せっかくいいキャラをそろえているので、できれば挿絵をもっと増やしてくれると嬉しい気がします。

評価:★★★☆☆

2011年3月19日土曜日

小夜しぐれ(高田郁) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

澪と小松原の仲を進める気があるとは思っていませんでした。色々大きな軸のあるなか、筆者の野望が垣間見えたような気がします。俄然面白い展開を見せつつ、各話の作りこみも相変わらずお見事。みをつくし料理帖シリーズ第5弾です。



本巻では結構話が動きましたね。4話とも秀逸でした。以下、各話の感想です。

■ 迷い蟹 - 浅利の御神酒蒸し
「つる家」屋号のもととなった、店主「種市(たねいち)」の娘「おつる」の亡くなった事情が明らかになります。心にしっくり染み入るエンディングがお見事です。

■ 夢宵楼 - 菜の花尽くし
吉原きっての妓楼「翁屋(おきなや)」から花見の宴の料理を頼まれた澪。苦心の末に考え出した、大尽がたを唸らせる食材とは。隠れキャラみたいな「旭日昇天」が登場するとそれだけで嬉しいですね。

■ 小夜しぐれ - 寿ぎ善
澪の友人で大店の娘「美緒(みお)」に縁談が進められます。彼女の思い人を知る澪は複雑な胸中となりますが・・・。この話題はもう少し引っ張るのかと思っていたのでちょっとびっくりです。

■ 嘉承 - ひとくち宝珠
御膳奉行「小野寺一馬(おのでらかずま)」が、嫌いな菓子作りに苦心するお話し。めずらしく澪が登場しません。以前からほのめかされていた小松原の正体がいよいよ明らかになります。

小松原との仲、旭日昇天の身請け、天満一兆庵の再興と、到底かないそうも澪の願望がそれぞれに動きを見せてきました。もしかして、全部大団円にしようとしてます?ハッピーエンド好きの私には嬉しすぎる展開に、今後もますます目が離せません。

評価:★★★★☆

シリーズ一作目はこちら

2011年3月16日水曜日

戦闘妖精・雪風(改)(神林長平) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

知らない人のために言っておくと、ファンタジックな妖精物語ではありません。主人公は戦闘機「雪風(ゆきかぜ)」のパイロット「深井零(ふかいれい)」。彼と各話で迎えるゲストキャラが織り成す、クールでちょっぴりほろ苦いSF連作短編集です。



突如、南極の超空間通路から侵攻してきた異星体「ジャム」。それを撃退するために、通路向こう側の異世界惑星「フェアリイ」を拠点とした地球軍のなかで、とりわけ重要な役割を担うのが13機の戦術偵察機「スーパーシルフ」です。雪風はその中の一機となります。

国産SFのなかでもかなり有名な本作品。いつか読みたいと思いつつタイミングを逃してきましたが、たまたまブックオフで発見したので手にとってみました。全8作のそれぞれが実に渋い味わいで、熱烈なファンの多さもなるほど納得させられました。

妖精というからには雪風自身が意思をもつような設定かと思っていましたが、そこはちょっと微妙なところです。偵察機としての任務上、雪風らスーパーシルフには高度な電子頭脳が搭載されていますが、人間のような意思や感情を持つわけではないようにみえます。

クールでありながら雪風に並々ならぬ思い入れを持つ零ですが、雪風の進化は彼自身の存在意義にさえ疑問を抱かせます。そもそもジャムの視界に人間は入っているのか。ジャムvs人間ではなくジャムvs戦闘妖精なのでは?

人間の存在を脅かす人工頭脳というテーマは良く見られるものかもしれませんが、1984年に書かれた古い作品であるにもかかわらず、今読んでみても陳腐さが全く感じられません。全編通したハードボイルドな雰囲気がぐっと来ます。

そんな背景のなか、各話ではエリートパイロット、ジャーナリスト、末端の雪かき構成員など、様々なゲストが登場して、ちょっとほろ苦い人間ドラマを見せてくれます。パキパキしたSF設定に納まりきらない物語の凄み。なのにどこまでいってもSFでしかありえないと感じさせられるのが不思議なところです。

アマゾンのレビューでも絶賛ばかりが目立ちますが、消化されていない伏線などもあるため、ストーリー重視の私としては若干もやもやが残らなくもありません。ただ、あとがきによると改稿に伴う続編への味付けもいくつか入っているようなので、本当の評価は続きを読んでからになるかと思います。

評価:★★★☆☆

2011年3月13日日曜日

特急便ガール!(美奈川 護) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

専務をぶん殴って一流商社をやめた女主人公「吉原陶子(よしはらとうこ)」の男らしさが実に良いです。脇キャラたちも味があって作品の雰囲気は文句なしなのですが、陶子の「特殊能力」をどうとらえるかで、作品への評価は分かれそうです。



超能力っぽいものがでてくる点に少し躊躇していたのですが、設定としては超能力というよりファンタジーっぽいです。4話構成のなかで徐々に能力の全貌が見えてくるあたり、なかなかいい感じの話し作りだったと思います。

ただ、登場人物も設定もとても魅力的なだけに、特殊能力に頼る必要があったのかなという気が個人的にはします。うまくすれば有川浩さんみたいな話になりそうなんですけどね。

リアルな部分の話も特殊能力がらみのエピソードもそれぞれに質が高いのが、逆に作品の雰囲気をちぐはぐにしている印象です。パーツは優れているのに、組み立ててみたらバランスが悪かったという。

個人的に本書で一番好きなのは、初っ端の入社試験の話です。「さおりん」の素性に関するエピソードも、ミステリチックでよかったですね。どちらも全く特殊能力が絡みません。変な能力がなくても、素で十分面白いんです。

大人なキャラ萌えやいい話系が好きな方にはお勧めです。デビュー作と比べて作品の雰囲気もずっと私好みになっていたので、今後に期待したいです。次は超能力無しの作品が読みたいですね・・・

評価:★★☆☆☆

2011年3月10日木曜日

大絵画展(望月諒子) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

医師ガシェの肖像」にちなんだ美術ミステリ。正直、最初は読み進めるのが苦痛で仕方なかったのですが、後半になってからは雰囲気が一転します。ミステリとしてのプロットは素晴らしいですが、読み方によって評価が大きく分かれる作品かもしれません。



第14回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作なのだそうです。新人さんなら多少構成が稚拙なのも仕方ないかと思っていたら、既に何冊か本を出しておられる方なのですね。うーん。

ものすごくおおざっぱに説明すると、詐欺被害にあった人たちが協力して仕返しをするというストーリーなのですが、出だしのぐだぐだ感はただ事ではありません。

被害者たちの背景が結構綿密に描かれているのですが、リアル感と読みやすさのバランスが決定的に欠けているように思いました。それが延々と続くので、ほんとどうしようかと。

ところが実際に仕返しする段になって、話が大きく展開します。クライマックスにおける二転三転のどんでん返しはお見事の一言。私としては、他のあらゆる欠点を取り戻してお釣りがくるくらいでした。

もっとも、それで素直に収束してくれないのも、この作品の難しいところです。ラスト数十ページの蛇足感は非常にもったいない。三分の一くらいにまとめられなかったものでしょうか。

個人的にはミステリとしてのプロットだけでもこの作品を評価したい気持ちがありますが、これを人に勧められるかとなるとちょっぴり難しいです。面白くなるところまでにどれだけの人がついて来られるのか・・・

際物好きのミステリファンにはかなりお勧めです。私は筆者の短編ならもう一度読んでみたいかも。長所と短所が極端に入り交じった印象なので、一つ掛け違えるとものすごい傑作になりそうな気もします。

評価:★☆☆☆☆

2011年3月7日月曜日

放課後はミステリーとともに(東川篤哉) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

私立鯉ケ窪学園を舞台としたミステリ短編集です。バカ売れしまくっているらしい前作よりもミステリ分は高いのですが、雑誌掲載分を集めたもののせいか、短編集としての統一感はいまいちのような気もします。本質はキャラ萌え小説といっていいくらいかもしれません。



「エアコン」のあだ名を持つ、ちょっと空回り気味の探偵部副部長「霧ヶ峰涼(きりがみねりょう)」。この主人公に感情移入できるかどうかで、本作の評価は決まってきそうです。私も一話目はちょっとうざいキャラかなと感じていたのですが、二話目以降はすっかりはまってしまいました。

一話目だけちょっと古い作品のようなので(2003年6月初出)、その分少し風景がかわって見えるのかもしれません。ただ、ミステリとしてのできはむしろ一話目が一番良いくらいなので、書店でちら読みするのであれば冒頭だけで放り出さないようお勧めいたします。

全8作品。ミステリ分は基本的に高いですが、質的には割とばらつきがあるかもしれません。連作短編形式ではないので、多少設定に気になるところがあっても、あまり深読みはしないほうが良いかと思います。一話目、二話目、四話目あたりが私的には好みの作品でした。

個人的に一番不満なのは、探偵役が一番ハマる顧問の石崎先生が、全8話中3話にしか出てこないことです。探偵としてはギリギリ名探偵という程度の霧ヶ峰。石崎先生を相手にボケ役に徹したときこそが魅力全開の瞬間です。逆に、言っては悪いですが探偵役をやらせるといまいち締まらない印象も・・・

ミステリとしては平均するとまあ上質と言った程度の本書ですが、一番の魅力を端的に表現するなら○○○○○○です。これを明かすとある作品のネタバレに絡んでくるのが、レビュアー泣かせなところです。同学園を舞台にした関連小説もあるようなので、そちらにもチャレンジしてみたいと思います。

評価:★★★★☆

関連書籍:


2011年3月4日金曜日

キルリアン・ブルー(矢崎存美) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

サスペンスホラーという分類になるのでしょうか。ミステリ分が少なめなのは個人的に物足りなかったですが、中盤のハラハラ展開にはぐっと引き込まれました。全編通したきれいな雰囲気をどうとらえるかで、評価の分かれる作品かと思います。



死体に触ると死ぬ直前の記憶が見える少女「古賀葉月(こがはづき)」が、ある男に誘拐されて強引に死者の記憶を見せられます。犯人の意図、彼女の見た記憶の意味、さらには父の失踪への関与。様々な疑問が生まれるなか、今度は彼女が接触を持った人物が次々と殺されていきます。

筆者の作品はあまり読んでいないのですが、「ぶたぶた」の印象からほんわか系なもの専門の方かと思っていました。本作はシリアス一辺倒。ただし文章は読みやすいですし、ホラーっぽい展開ながらも怖いというよりきれいな世界観が印象的です。

私はあまり怖いのが得意ではないので、その意味では本作の雰囲気はありがたいくらいでしたが、ホラー好きの方には物足りなさも感じられるかもしれません。むしろ私としてはミステリー分の薄さのほうがちょっと残念な感じでした。謎を引っ張っている割には解決篇で滑っているような・・・

途中の展開は素晴らしかったと思います。見えない敵の影におびえる恐怖、身近な人間に迫る危機。ページ数が少ないとはいえ、この手の作品を一気に読みきれたのは私にとってはめずらしいことです。過程が良かった分、逆に着地点への評価が厳しくなってしまったところはあるかもしれません。

全体的な印象としては、どのあたりをターゲットにしてるか若干の疑問を感じました。恋愛フラグっぽいものもあるとはいえ、とても青春ものと呼べるような話ではありませんし、シリアス基調なので萌え成分も皆無ですし、かといってホラーとしてもそれほど怖いわけではありません。

作品の質とは別のところで、「誰得?」というのが本書の正直な感想です。ホラー方面に詳しくないので、最近の流行はそういうものなのかもしれませんけれど。文章を読ませる筆者の力量自体は見事だと思いましたが、何が売りなのかわかりにくい分、人にはお勧めしにくい作品かもしれません。

評価:★☆☆☆☆

2011年3月3日木曜日

真夏の日の夢(静月遠火) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

七回死んだ男」と「11人いる!」を足して割ったような感じのお話しです。ミステリとしては甘いかなというところもありますが、メインの仕掛けはお見事でした。無理せず良いバランスでまとめあげた佳作だと思います。



高額のバイト代につられて、一ヶ月間ボロ家に閉じこもる実験をすることになった演劇サークルの面々。多少のいざこざはありながらも、和気藹々と練習をこなす日々でしたが、一人の女性メンバーが失踪したのをきっかけに、事態は動き始めます。

前半は割りと緩い雰囲気で話が続くのですが、私としてはそのだらだら感が結構ツボでした。ただし、緩いながらもところどころに伏線が散りばめられているので油断なりません。いわゆる読み返して二度美味しい作品。きれいに騙されてしまいました。

ミステリとしてしては若干アンフェアに感じられるところもあるかもしれません。物語の仕掛け的にやむをえないのですが、屋内のディテールをきちんと表現しきれなかったため、解決篇では唐突に感じられる部分も多少あったように思えます。

ただ、物語のまとめ方はお見事です。このようなクローズド・サークルものでそれっぽい臨場感を演出するのはかなりのスキルを要すると思うのですが、その点本作は無理せず無難なところに落としどころをもっていった印象です。こういう割り切ったアッサリ感はかなり私の好みです。

筆者のデビュー作「パララバ」を既読だったのに後から気がつきました。当時と比べると着実にレベルアップしているようなので、今後の作品にも大いに期待したいと思います。

評価:★★★☆☆