2010年9月8日水曜日

ラ・パティスリー(上田早夕里) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

表紙のイラストに釣られて購入。また中村佑介氏です。パティシエの世界を端正に描いた清新な作風に好感をもちました。ちなみに筆者は第4回小松左京賞受賞されているとのことですが、それっぽい要素は少しもありません。



製菓学校を卒業したばかりのパティシエール見習い「森沢香織」と記憶喪失の凄腕パティシエ「市川恭也」の二人が主人公です。恭也の過去探索、菓子業界の舞台裏、香織の成長といったところがテーマとなっています。若い男女のことなので、ちょっぴり甘く切ないロマンスもないことはありませんが、期待しすぎると肩透かしかもしれません。

恭也登場の導入がちょっと不思議な感じで、てっきりSFなのかと思っていたら全く違いました。別にSFじゃなくても構わないのですが、恭也の正体ついてはちょっとがっかりというか腑に落ちない感じがしました。そりゃ現実なんてそんなもんでしょうけれど、もっとワクワク感あふれる真相を期待してしまいました。

一応連作短編のような形式になっています。仕込みの模様や百貨店との関係など、菓子店をめぐるさまざまなディテールが細かく描かれている点は大変良かったです。筆致も全体的に淡々としていて、作風や登場人物のキャラクターはとても私好みです。

それだけに、恭也の正体に意外性がなかったり、二人の恋の行方がなんとなく中途半端だったりしたのは残念ですね。満を持して登場したオーナーの息子についても、ふーんという感じ。続編がでるんならこれでもいいのかもしれませんけれど、これ以上話の膨らみ用もなさそうな感じはします。

私は基本的に連作短編という形式が大好きなのですけれど、本書については単にパティスリーの日常を描く純粋な短編集の方が収まりが良かったのではないかなという気がします。大きな物語よりは小技の冴えがみどころの作家さんという印象です。作風自体はホント良いと思います。

評価:★★☆☆☆

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