2010年9月7日火曜日

空想オルガン(初野晴) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

ハルタとチカの吹奏楽部シリーズ第3弾。過去2作と比べても一番良かったかもしれません。相変わらず若き感性の表現がお見事。加えて、ミステリとしても各話あっと言わされました。特に最終話のラストは結構びっくり。青春小説としてもミステリとしても一級品の連作短編集です。



吹奏楽の甲子園「普門館」を目指すのが話しのメインストリームなわけですが、毎回そこに直接スポットはあたっていないんですね。別の事件や他者視点から間接的に話をすすめるやり方が実に心憎いです。以下、各話の感想です。

■ジャバウォックの鑑札
チベタン・マスティフという希少種の迷子犬に、二人の男女が飼い主だと名乗り出ます。片方はおそらくお金目当て。飼い主当てが始まります。良い話ですが、謎とき自体はちょっとこじつけっぽい気も。そもそも大事な演奏前に何やってるんだと(^^;

■ヴァナキュラー・モダニズム
ハルタが住んでいたボロアパートが取り壊されて、保護者にして一級建築士の姉「上条南風(かみじょうみなみ)」に従い急遽部屋探しをすることになる一同。姉の出す厳しい条件にめげず探し当てた物件は、なんと幽霊騒動で閉鎖寸前とのこと。みんなで「チャリン」となる音の解明に乗り出します。本書で一番好きな話。壮大でバカミスっぽく、でもちょっぴり心温まる真相が待っています。

■十の秘密
高校吹奏楽の革命児、コギャル集団「清新女子高吹奏楽部」の秘密が一つずつ明かされていくという、ちょっと毛色の変わった構成の作品。県大会ライバル校の立場からストーリが進められるのが面白いです。それにしても、フィクションとはいえ毎回高校生が重いものを背負い過ぎでは・・・それとも私の高校時代が薄すぎただけなのでしょうか?

■空想オルガン
オレオレ詐欺常習犯の変なおっさん視点から話しは始まります。せっかくの東海大会なのにと思っていましたが、読み進むうちに徐々に違和感が消えていきます。そして最後の最後のチカの一言にびっくり。油断しました。

草壁先生の過去が多少は明らかになるかと思ったら、まだ伏せられたままでした。ちょっと意地悪い音楽ジャーナリストとの関係も興味深いです。あのジャーナリスト、今後も登場するのでしょうか。

評価:★★★★★

関連作品:
初恋ソムリエ(初野 晴)

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