2010年7月10日土曜日

『ローマ人の物語〈12〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(中)』(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

「来た、見た、勝った」。今や敵無しのカエサル。各地の騒乱平定とともに、本巻ではカエサルの内政についても多くが裂かれています。暗殺されるまでのわずか数年間ですが、その間に成し遂げた各種の改革が、のちの帝政の礎となります。



ラテン語だと「来た、見た、勝った」は「VENI,VIDI,VICI(ヴェニ,ヴィディ,ヴィチ)」となるそうです。より韻を踏んだ美しい言い回しですね。流石は当時を代表する文筆家です。

同じく文筆家として1,2を争ったキケロについてはなかなか評価が厳しいようです。軍事を嫌い、弁論だけでことを成そうとした彼は、現代であればカエサルよりよほど賞賛される政治家だったかもしれません。

政治理念として共和制および元老院制への理念を掲げながらも、随所にぶれの見られるキケロ。私は彼のことは責められないと思います。やはり確固とした力が背景にないと、人間というのはなかなか強く居られないのではないでしょうか。政敵でありながら友人でもあるカエサルとキケロの関係は、ちょっといい感じですね。

アントニウスの駄目っぷりについても随所で触れられています。このように少しずつ伏線を散りばめていく手法が、塩野さんはとても上手ですよね。後継者として最右翼の位置にいながら何が駄目だったのかがだんだん明らかになってきます。

カエサルより以前の巻では、ローマの共和制がどのように帝政に変わっていくのか想像しにくかったのですが、とにかくカエサルなのですね。領土拡大に伴いより効率的な統治を行うためには、議会制や寡頭制より、完全トップダウンな君主制が必要だったことは理解できますが、ただ一人の君主を押し戴くようになるのは、民主主義化ではなかなか抵抗感のあるものだと思います。カエサルが居なければ、そういう空気の醸成自体が難しかったことでしょう。

次巻、いよいよカエサルの最後となります。

評価:★★★☆☆

次巻:『ローマ人の物語〈13〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(下)』(塩野七生)

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