「さよならドビュッシー」に続く音楽ミステリ第2弾。岬洋介シリーズと言ってしまっても良いかもしれません。トリック一発にやられた前作ほどの期待はしていませんでしたが、良い意味で裏切ってくれました。
このミス大賞系はいまいちあわない作品が多いのですけれど、中山さんの作品は好きですね。本筋の仕掛けについても、そこに落とすのかとビックリさせられましたが、それ以前に話の作り方が好みにあっているようです。ヴァイオリニストの卵「城戸晶(きどあきら)」の一人称で話は紡がれていきます。
若き名ピアニストでありながら色々わけありな探偵役「岬洋介(みさきようすけ)」。前作でもそうですが、登場は第三者的なのに、主人公と交流していくうちに徐々に事件の核心に近づいていきます。そして最後の鮮やかな解決編。絵に描いたような名探偵ぶりです。
本書だけでも十分楽しめますが、ときどき「おっ」と思わせる前作のネタも仕込まれているため、出来れば順番に読んでいただいたほうがよいかと思います。温厚でありながら芯が強く、どこか謎めいた印象をあたえる岬洋介の出自についても、一部明かされています。
演奏シーンも本シリーズの見所の一つです。音楽関連の話については、私が素人だからこそ楽しめる部分もあるかもしれませんが、ディテールに富み、臨場感に溢れる描写には思わず引き込まれます。専門的なことは良く分かりませんが、少なくとも演出力はすばらしいです。
正直なところ、若干唐突というか、ご都合主義に思えるような箇所も無くはありません。一人の男性をめぐる対立とか、三章の演奏シーンなど。ただ、それらの不自然さが時々重要な伏線になっているので油断なりません。全部計算でやってるとは思いませんが、結果的にミスディレクションの役割を担っているような気がします(^^;
本作は犯人鉄板だなと思っていて、すっかり作者の意図にはまってしまいました。よく考えてみれば分かりやすい伏線も仕込まれていて、それほど意外性のある仕掛けではなかったかもしれません。事前に真相に気づくかどうかで本書の評価は変わってきそうです。気づかなかった私は大変ラッキーな読者だったといえるでしょう。
評価:★★★★☆
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2010年10月16日土曜日
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前作「ドビュッシー」は結構楽く読んだクチなのですが、先日この新作を本屋で目にして、「タイトルからして2匹目のドジョウ狙いすぎだろ!」と、買うのをためらいました。新刊ということもあるにせよ、WEBにはまともな書評がなかなか出てこず、どうしたものかと数日悩んでましたが、これでようやく買う気になれました。ありがとうございました。
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