子供のころ、母の蔵書を読み漁っていた中でも一番好きなシリーズだったのですが、実際に読んだのは蔵書にあった本書と「二人で探偵を」の2作だけ。実はこのシリーズが5作もあることを最近知って、読み返してみようと思った次第です。
偶然再開した幼馴染のトミーとタペンスは、ともに仕事をなくした貧乏な境遇であることを知り、二人で手を組んで一旗挙げようと「青年冒険家商会(ヤング・アドベンチャラーズ)」なるものを立ち上げます。たまたま居合わせてその話しを耳にしたある人物が、タペンスに仕事を頼もうと接触してきたのですが、胡散臭そうな相手に本名を告げることをはばかり彼女が口にしたある偽名が、二人を大冒険にいざなうこととなります。
とにかく本作の魅力はトミーとタペンスのコンビに尽きます。作品中では、トミーのことは
彼は物事をじっくり考えて解くほうで、はっきりと納得がいかないかぎり先にすすむようなことはしません。(P403)つまり、ぱっとしないけど堅実な熟考型。一方タペンスのほうは、
直観力は彼よりまさりますが、常識的な判断力はおとりますね。(P403)と、閃きタイプの瞬発力型と設定されています。
二人合わせて一人前にしようという作者の意図は分かるのですが、実際にはトミーは結構頭が切れるし、窮地でのハッタリも効くし、大事な局面での思いきりも備えたタフガイです。本書は筆者のデビュー2作目ということで、まだそのあたりの描写力が十分でなかったのかもしれませんが、これはうれしい誤算と言わざるを得ません。
タペンスがとにかく素敵なのです。超前向きで何事にもチャレンジ精神で臨むアグレッシブさを持ちながら、育ちが良いせいか礼儀や気品もそれなりに備え、要所ではブレーキもしっかり利かせます。決して突っ走りすぎてトミーのフォローに頼りきるというような単純な性格ではありません。こんな素敵なお嬢さんには、それなりに釣り合う相方が必要で、本書のトミーはまさに彼女のベストパートナーなのです。
あとがきによると、本書はクリスティの数ある作品の中でも冒険物と位置づけられているようです。二人が交互に窮地に陥り、一方の問題が解決する間にもう一方が・・・というようにコロコロ視点が切り替わっていくので、500ページ超の長編でありながらスピード感があり読者を飽きさせません。
冒険ものであるからといって、そこはクリスティのこと。ミステリ要素もしっかり盛り込まれています。ただ、こちらのほうは若干あからさま過ぎますかね。話しのタイプ的に意識的にやっていることだとは思いますが、真相についてはちょっと慣れたミステリ読みなら容易に想像はつくでしょう。
やはり、本書の一番の見所は、どこかとぼけた二人のやり取りだと思います。本書では二人は足して45に満たない年齢とありますが、次作では結婚して共同で探偵事務所を構えることになり、さらに一作ごとに年を重ねていき、5作目では70過ぎの老人になっているそうです。次の作品は確か連作短編で二人が互いの推理力を競う仕立てだったと記憶していますが、詳細は全く覚えていないので、続きを読むのがとても楽しみです。
評価:★★★★☆
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