メディア批判を読んでいて、なにかボタンのかけ違いのようなものを感じました。プロ意識を持たない現在のメディアを、具体的な例を挙げながら批判しているのですが、良く考えたら一般庶民の私にはあまり関係ない話しですね。もともとは、メディア関係の志望者も多いと思われる授業で語られた内容なので、誰もが真似をする必要はないことだと悟ってほっとしました。
それだけに、一般人の言動にまで立ち入った2ちゃんねる批判については首を傾げたくなります。
「名無し」が語っている言葉とは「その発言に最終的に責任をとる個人がいない言葉」ということになる。(P95)全くその通りで、だから2ちゃんねるでは「嘘を嘘と見抜ける人でないと難しい」という言葉が金言扱いされています。その「名無し」達に対して
だって、その人は「私が存在しなくなっても誰も困らない」ということを堂々と公言しているからです。(略)そのような名乗りを繰り返しているうちに、その「呪い」は弱い酸のようにその発言者の存在根拠を溶かしてゆきます。(P96)なんてことを高みから言われても、そこは発言者達自身がそれでいいと思っていることじゃないですかね。お前にそこまで立ち入られる理由はないと。正しいか間違っているかは別にして、生理的な反発を覚えます。
著者の「市場」嫌いについても、私はあまり受け付けません。医療や教育の現場における過度な市場主義の弊害については、なるほど同意できるところです。でも、市場性を排したら全てがうまくいくというわけではもちろんないですよね。非効率や悪弊の横行といったものが当然予測されるわけで、結局は何がしかのトレードオフの関係になってくると思います。
全般に筆者の現状認識力はすばらしく、まさに蒙が啓かれた気持ちになるのですけれど、その解決のところになると、どうしても懐疑的な気持ちのほうが先にたってしまいます。贈与経済の話しとかされだすと胡散臭さが倍増。私も大学時代はマルクス系の先生についていたので、その頃ならもっと素直に読めたかもしれませんね。市場主義に浸りきった社会人にはちょっとしんどい。
本書を読む上で心がけてほしいのは以下の2点。一つ目は、文章中で行われている批判と自分自身との位置関係を的確に見極めること。二つ目は、現状認識についての言説と解決策のロジックを分けて受け止めること。とにかく読みやすい文章なので、さらっと流されてしまうと大変です。平易な文章の割りに、内容をきっちり把握しきるのは難しい本だと感じました。
評価:★☆☆☆☆
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