うーわー・・・これは有川さんの裏ベストといってよい作品かもしれません。筆者の今までの作風を期待している方はご注意。傑作だけど救いようのない話です。
筆者の作品はほとんど読んでいますが、私の中でベストは「海の底」、次点は「図書館戦争」シリーズ。本書はいろいろな意味で全く逆のベクトルを行っています。負の側面が全開です。
有川さんの作品といえば、恥ずかしいくらいストレートなラブコメ成分が特徴ですが、今までの作品でも人間や社会の負の側面を描いていないわけではありません。むしろそれが主題といっても過言ではないくらいです。ただし、読後感は常にさわやか、甘い結末を約束してくれるため、いつも安心して読めました。
本書もラブコメはしっかり描かれています。パーツとしては今までの作品と同じものを使っているのに、組み立て方をひっくり返すだけでこれほどの衝撃を受けることになるとは驚きです。読み始め、今回のラブコメはあざとすぎていまいちだなぁなどと思ってしまいましたが、もしかしてそれも計算でしょうか。
作家の女性とその夫が主人公となります。Side:Aでは夫、Side:Bでは妻の視点から語れています。女性作家ということで、やはりご本人がモデルということになるのでしょう。勝手なことばかり言ってる書評家への批判なども痛烈になされていて、書評ブログなんか賢しげに書いてる私としてもちょっぴり胸が痛みます。
本人をモデルにする私小説のような風情は、本書の内容に実にあっていると思います。つまり読者の受けるダメージが一層大きくなるということです。リアルに理不尽な家族関係に悩まされている方なんかには、かなりグサッとくるんじゃないかという気がします。
散々脅すようなことを書いてしまいましたが、心構えを持って読めばそれほどのショックでもないように思います。もっとも、私のように全く油断して臨んだほうが存分に味わえるということはあるかもしれませんが。シビアな内容でありながらいつもどおり読みやすく、救いも全く残されていないわけではありません。傑作だと思いますが、人を選ぶという意味で評価は1としておきましょう。
評価:★☆☆☆☆
2010年8月21日土曜日
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