タイトルが「旅人」となっていることからお分かりの通り、新ヨゴ皇国の皇太子チャグムが主人公でバルサは出てきません。タルシュ帝国に囚われたチャグムが、虜囚の身からタルシュに征服された国々をみて何を思うのか。そして、タルシュ帝国王子ラウルとの対決、帝国から求められた役割に対して、チャグムがある決断をすることになります。
タルシュ帝国はローマを彷彿とさせますね。侵略した国々に対して徹底したインフラ整備を行い、内政は基本的にその国の民に任せる方式です。結果的に、征服された国々は文明度が上がり、政治にも目を光らせているため、むしろ民草にとっては歓迎すべきといえなくもない状況となっています。絶対的に悪とは言い切れないタルシュ帝国の治世について、チャグムがどのようにスタンスを決めるのかが本書のクライマックスで明かされます。
結構淡々と話は進むので油断していたのですが、終章の展開は実になんとも爽快な結末をみせます。準備的位置づけの作品ながら、本書単体でも実にまとまりのある一個の作品となっているのです。上橋さんの作品は今まで結構読んでいるので、作者の手腕については十分に分かっていたはずなのですが、あらためて驚嘆することとなってしまいました。
次作、文庫を待つかソフトカバー版
評価:★★★★☆
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