2010年8月23日月曜日

ローマ人の物語〈20〉悪名高き皇帝たち(4)(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

帝政ローマ第5代皇帝ネロは、カエサルやオクタヴィアヌスさえもしのぎ、ローマの全歴史中で最も有名な人物なのだそうです。もちろんネガティブな方向でですが。理由はキリスト教徒迫害のため。本書を読み終えての私の感想は「それほど悪い人ではないけれど、やはり悪い人」。時や立場が違えば、その評価もまた違ったのかもしれません。



キリスト教徒迫害の事実はあったようです。ローマを壊滅的な状態にした大火がネロのせいだと噂されて、それを打ち消すためのスケープゴートとされてしまったのでした。もっとも、迫害はこれ一回きりとのことなので、後世キリスト教社会がローマを貶めるための過剰な喧伝だったというのが本当のところのようです。

性根は悪い人ではなかったようですが、歌手デビューしたり軍事以外での凱旋式を決行したり、何かと精神の安定を欠く嫌いはありますね。才能にはそれなりに恵まれつつも、若干16歳で帝位を継いだため、熟成の期間に恵まれなかったのが不幸だったのだと思います。3代皇帝カリグラも同様ですね。政治を年配者が務めるのは、それなりに理のあることなのかもしれません。

ネロといえば母親のアグリッピーナ。漫画「拳闘暗黒伝セスタス」がまさにネロの時代を扱っているのですが、そこで描かれている彼女が私には強く印象に残っています。血統と才能に恵まれ、女ながらに野心家の彼女。漫画版ではときたま温情や弱い面を見せることもあり、とても複雑な色合いを成す怪人物です。彼女は実の息子により死に追いやられることになります。

母殺し、妻殺し、従兄弟殺し。やはりいい人とはいえませんが、過去にはマリウスやスッラのような人もいたわけで(7巻レビュー参照)、それと比べれば取り立てて冷酷だったともいえないでしょう。彼に足りなかったのは何を置いてもまず「自制」だったと思いますが、才能ある若者がそれを備えるのは大変なことです。カエサルの後継者「オクタヴィアヌス」こそがまさに異例中の異例だったのだと思います。

失政が続くことにより元老院と市民から三行半を突きつけられ、プライド高き皇帝は自らの死を選びます。在位14年というのはとりわけ短いわけでもなく、ネロが単純に酷い皇帝だったとはいえない証といってよいかもしれません。彼の死によりカエサル-アウグストゥスよりつづくユリウス・クラウディウス朝が終わりを告げ、新たな混乱の幕開けとなります。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
ローマ人の物語〈19〉悪名高き皇帝たち(3)(塩野七生)

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