2010年8月6日金曜日

ローマ人の物語〈17〉悪名高き皇帝たち(1)(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

「悪名」の先陣を切る二代目皇帝ティベリウスですが、著者の肩入れが結構すごいです。変に中立ぶっていないところが、塩野さんの本が面白い由縁なのでしょう。人気取りを一切しない無愛想な男が、ローマの礎を磐石なものとします。



テルマエ・ロマエ」で登場するティベリウスは人嫌いな同性愛者(?)として描かれていますが、人嫌いはともかく同性愛者ということはなかったようです。離婚以降は女っけがなかったために出た噂でしょうが、アウグストゥスに無理に分かれさせられたかつての妻がずっと忘れられなかったのではというのが筆者の見解です。

※2010/09/18追記 すみません。テルマエ・ロマエに登場するのはハドリアヌスでした。人間嫌いということですっかり勘違いです。

ローマの帝政は前任の指名だけでなく元老院の承認も必要という一風代わったもの。そこからも分かるように、皇帝とはいえあまりに周囲の意見をないがしろに出来ない体制となっています。徹底的に無愛想でそっけなく、アウグストゥスの血も引いていないティベリウスがうまくやっていけたのは、功績も実力もあまりに並外れていたためでしょう。

ティベリウスの治世で一番印象的なのはゲルマニアからの撤退です。軍事オンチのアウグストゥスがエルベ河まで領土を広げてしまいましたが、常に戦の最前線に立ち続けていたティベリウスは、ゲルマンの土地を支配し続けることの難しさを、先々代のカエサル同様に熟知していました。

ただし、ただ撤退では義父の功績にけちをつけることになり、皇帝の権威をおとしめることになるため、ちょっと一工夫裏技を使います。ゲルマン人相手に一見大勝したようにみえたアウグストゥスの孫にして後継者候補筆頭のゲルマニクスを東方に「栄転」させ、そのどさくさに防衛ラインをひっそりとライン河まで引き下げてしまいました。目先の価値にとらわれず、ローマの軍事戦略の本質を「拡大」でなく「防衛」と心から理解していなければ出来なかったことだと思います。

それにしてもアウグストゥスの血へのこだわりはやっかいなものを残します。直系の孫であり、ティベリウスの次の皇帝と遺言されていた人望と才能に溢れるゲルマニクスが病で倒れてしまったのが、ネロの代まで続く陰惨な事態を引き起こした原因なのかもしれません。まぁ、著者は目立ちたがりのゲルマニクスには冷淡ですけれどもね。彼の妻による「アグリッピーナ党派」の暗躍はもう少し先の話になるでしょうか。

ティベリウスの話はもう少し、次巻まで続きます。

評価:★★★☆☆

次巻レビュー:ローマ人の物語〈18〉悪名高き皇帝たち(2)(塩野七生)

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