現代においても当時においても、ローマ史上最も人気のある皇帝だという五賢帝最後の一人「マルクス・アウレリウス」。彼の治世への懐疑はこれまでに既刊で度々ほのめかされていましたが、本書では前帝「アントニウス・ピウス」についても辛らつにディスっています。
無難に23年間も治世を全うしたアントニウス・ピウスに対し、前巻では割と肯定的に書かれていたのに、本書では手のひら返しです。ハドリアヌスの築いた防御網を食いつぶしたようなイメージですね。
とりわけ筆者が致命的と捕らえているのは、マルクスに軍務を経験させなかったこと。自身が文人肌のアントニウス・ピウスはマルクス・アウレリウスを手元から離さず帝王教育を施したそうですが、最も大事な部分の教育がかけていたというのが筆者の意見です。
今の日本に首相として迎えるならば、ハドリアヌスよりはマルクス・アウレリウスやアントニウス・ピウスの方がはるかに望ましいでしょう。しかし、一見平和が続いているように見えても、当時のローマ辺境では常に蛮族の危機が蠢動しているのです。
実は、マルクス・アウレリウスは単独で皇帝になったわけではありませんでした。義兄弟のルキウスと二人体制にしたのは共和制主義者への対応を慮ってのことかもしれませんが、彼のいい人振りを伝えるエピソードでもあります。せっかくの配慮も、ルキウスがすぐに死んで無駄になってしまうのですが・・・
飢饉、疫病、蛮族の侵入など、アントニウス・ピウスの治世とは一転、様々な苦難にさらされることになりながらも、五賢帝として名を残した政治家としての手腕はやはり褒められるべきものなのだと思います。
数十年に及ぶ平和から一転、蛮族に帝国領奥深くまで蛮族の侵入を許しす緊迫した局面で次巻へ。長らく平和ボケしていただけに、肝が冷えたことでしょうね。
評価:★★★☆☆
2010年11月1日月曜日
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