2010年11月10日水曜日

樹環惑星-ダイビング・オパリア-(伊野隆之) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

社会派SFとでも言えば良いでしょうか。樹木同士の会話というユニークな設定があるにも関わらず、センスオブワンダーには乏しい印象ですが、本書の性質からするとそれが逆に長所となっているようにも思えます。第11回日本SF新人賞受賞作です。



舞台は植民惑星オパリア。植物以外に土着の生物を持たず、人間に有害な化学物質が排出されているため、とても住み良いとはいえない世界。

その排出ガスの商業的価値に目をつけ利権を独占する「アストラジェニック社」と、煮え湯を飲まされた形の「オパリア自治政府」、そして周辺星域一体の秩序を監視する「星間評議会」のパワーバランスが、政治小説といってもよい雰囲気を演出しています。

ヒロインはオパリアの森林生態を専門とする准教授「シギーラ」です。星間評議会より、第三者的な立場からオパリアにおける新種の疫病調査を依頼されます。年齢ははっきり書かれていませんが、おそらく40前後のはず。ちょっぴりとうの立ったヒロインです。

蔓延する疫病や星系に広がる新種のドラッグ、そしてオパリアにおける森林生態の変化。それら個別の事案が徐々にひとつの問題に収束されていきます。悪役はもちろんアストラジェニック社です。

全般的に突き放したようにクールな筆致は私好みです。450ページに及ぶ長編ですが、SF設定を過剰に語ることのない文章は読みやすく、要所でおこる事件のおかげで飽きることもなく惹きこまれていきます。デビュー作とは思えない完成度の高さに感心しました。

特異な設定をさらっと流しているのが本書の特徴であり長所でもあると思いますが、肝心の樹木の会話については、もう少しファンタスティックな盛り上がりを期待したかった気もします。話の8割くらいまでは文句なしだったのですが、着地が少々地味に過ぎるかもしれません。

アストラジェニック社の裏に潜む組織やラキ教授の顛末など、後に続くであろう設定がまだまだ残されているようです。正直、デビュー作での出し惜しみはどうなのかなという気もしますが、逆に真の評価は続巻を待つべきなのかもしれません。

評価:★★☆☆☆

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