2010年10月22日金曜日

指揮者の知恵(藤野栄介) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

小説や漫画でクラシック音楽の世界を題材にしたものは多いですが、ど素人の私にも何か雰囲気的なものが分かるような本はないかと思っていたところで、本書を見つけました。感覚的な記述が多く十分理解できたとはいいがたいですが、逆にリアルな雰囲気を知る意味ではそれが良かったように思います。



我々素人にとって指揮とは拍子をとることだと思いがちですが、特にプロの領域になると全くそういうものではないようです。指揮者と楽器奏者の関係は教えるというよりむしろ戦うという印象が正しいでしょうか。

ここで注意しなければならないのは、プロともなると各楽器奏者自身が並外れたレベルにあるということです。以前読んだ「退出ゲーム」では、プロを目指そうとする人間は高校の吹奏楽部とは全く違う世界に住んでいるという内容の話がありました。音大に入るような人は、その時点で既に選ばれた人間であるとのことです。

そこから更に、プロとしてオーケストラの一員になれるような人物は絞られていきます。彼らはもはや一人ひとりが際立った技能を持つ音楽家なのであり、指揮者はそれらの優秀なプロフェッショナルをしかも多人数相手にしていかなければいけません。

優秀な指揮者に傲慢不遜な人物が多いというのも頷ける話ですね。性格的に温厚だとしても、そこは一歩譲らない強靭な何かを持っている必要があるのでしょう。指揮者は演奏を聞いてはいけないそうです。もちろん耳に入って情報としては処理する必要がありますが、決して流されてはいけないとのこと。

優秀な音楽家同士が互いにプライドをぶつけ合う緊張感の中で、化学反応を起こすかのように良い演奏は生まれてくるそうです。そのためには仲良く強調的であることは必ずしも良いこととは限りません。それで退屈になるよりは、むしろ険悪な緊張感のほうが良い音楽につながる可能性が高いとのこと。面白いですね。

指揮者やオーケストラ、あるいはその日によっても演奏に大きな差が出るようです。そういう違いは素人でも判別できるほどのものだそうなので、実際に聞き比べをしてみたいのですが、どこから入るのが一番良いのでしょう。ちょっと調べてみたいと思います。

評価:★★★☆☆

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