2010年10月21日木曜日

秋の牢獄(恒川光太郎) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

3つの中編からなるホラー作品集。ホラーといっても怖くはありませんが、最近はこのような作品が流行なんでしょうかね。上橋菜穂子さんの推薦文と坂木司さんの後書きに誘われて手にとってみました。透徹な世界観としんみりとした抒情。いかにも玄人受けしそうな作品です。



ホラーという分類が適切かどうかは分かりませんが、SFやファンタジーといってしまうのも違う気がします。どの要素も含みつつどこか微妙にずれているような。要するにそれだけ作者のオリジナリティが優れているということでしょう。以下、各話の感想です。

■ 秋の牢獄
11月7日を延々と繰り返すループ物。物語中ではケン・グリムウッドの「リプレイ」に触れられていて、そのほかにもこのテーマではたくさんの名作が世に出されています。私はそれほど多く読んでないのでオリジナリティという点での評価は難しいですが、淡々とした語り口のなかにも溢れる情感としんみりしたラストには、作者の特徴が存分に発揮されているように思います。

■ 神家没落
「秋の牢獄」が時間の牢獄であったのに対し、本作では主人公がとある家の中に閉じ込められ、無理やり神様にされてしまいます。ただし、その家は季節ごとに決まった様々な場所へ移動し、また別の人間を代わりに差し出せば当人は開放されます。このような場所に閉じ込められるのに最も相応しくないのはどのような人物でしょう。設定の生かし方が実に巧みで感心しました。

■ 幻は夜に成長する
幻想を操る魔法使いの成長物語。設定がいかにもホラーらしく陰惨な割には、筆者の語り口のおかげですんなり読み進められます。先代にして師匠たる祖母は結局ただの○○い?宗教団体も絡んできたりして胡散臭いですが、現実に幻術など扱える人間がいれば、その存在が放っておかれるはずも無いのでしょうね。

全編を通して共通しているのは筆者の確固たる世界観です。ありがちな設定を用いても全くぶれない作品の雰囲気には感嘆せざるを得ません。ただ、オチが雰囲気系なのは個人的にはさほど好みではないですかね。読書通の玄人であるほど評価が高くなりそうな作品ですが、俗物の私でもそれなりに楽しめました。

評価:★★☆☆☆

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