大家族の長女で万事しっかりしていないと気のすまない女子大生「柿生浩美(かきおひろみ)」。そんな彼女がホテルのバイトを通じて、沖縄のゆるさに徐々になじんでいくお話。読み始めるまで気づきませんでしたが「シンデレラ・ティース」の姉妹編です。
シンデレラ・ティースのサキがよく携帯で話していたのが本書の主人公ヒロちゃん。おっとりしていかにもお嬢様風のサキとは対照的に、ヒロは大柄で男勝りなところもあるしっかりものの女の子です。小説の主人公としては、こちらのほうが断然好きですね。
インドなんかもそうですが、異文化感あふれる環境というのは人を引き付けてやまない魅力があるようです。沖縄の場合、歴史的な経緯に加えて米軍基地の影響もあるためか、九州と比べても文化的に大きな違いがあるように思えますね。
浩美が勤めることになったのは那覇市の小さなホテル。看板も見づらく客の殆どが常連客ということもあって、お勤め自体はさほど大変なものでもなさそうですが、そのゆるい雰囲気に慣れるのに貧乏性ぎみな浩美は苦労することになります。
そのゆるさの代表格が、中年のオーナー代理「安城幸二(あんじょうこうじ)」。あまり経営に携わらないオーナーに代わる実質的な責任者の彼は、まさに昼行灯という言葉がぴったり来る人物です。浩美は彼に散々悩まされることになります。
そんなロマンスのかけらも感じさせない彼が、本作品の探偵役。いつもはだらしないだけの安城も、有事には大変頼りになります。客のわけありそうな様子は事前に察知し鮮やかに対応。時には勇み足気味の浩美を厳しくたしなめることもあります。
このギャップ、時折垣間見えるこういう格好良さが、昨日読んだ本の主人公にもほしかったなと思わずにいられません。ミステリとしてのクオリティも流石は筆者ならではの安定感で、いろいろな意味で安心してお勧めできる作品です。
評価:★★★☆☆
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「シンデレラ・ティース」(坂木 司)
2010年10月11日月曜日
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