何故かべらんめえ口調の私立探偵「ザンティピー」。日本に嫁いで若女将となった妹「サンディ」のわけありっぽい誘いに応じ、北海道のひなびた温泉地を訪れます。頼まれたのは彼女が偶然見つけた人骨の調査。粋な口調のハードボイルド探偵と金髪の若女将という色物な設定ですが、物語としては非常に真っ当なハートフルミステリです。
小路幸也さんの小説はこれが初めてですが、メフィスト賞作家ということで若干の警戒感を持ちながら読み始めました。結果としては良い意味で肩透かしです。主人公もその妹もいかにも狙ったような設定なのに、何故かそこには暖かいものが溢れています。
田舎の小さな観光地というだけのことはあって、サンディの新しい家族も地元の住人も、登場人物はみな良い人たちばかりです。このようなのどかな地で掘り出された人骨は、いったいどういう意味を持つのか。神域とされ立ち入りを禁じられている「オンハマ(御浜)」の謎とあわせて、話は不可解な様相をみせていきます。
ザンティピーの口調は日本の国民的映画の影響を受けてのもの。元警察官で大都会マンハッタンに事務所を抱えるハードボイルドな探偵なのに、彼にはべらんめえ口調が不思議とマッチします。言ってしまえば身長190センチの男前な寅さんです。いえ、寅さんも十分男前だと男前だと思いますけれどね。
金髪若女将などと言うキャッチーな特徴を持つ妹のサンディーですが、彼女は依頼人という役回り以外さほど目立った活躍をみせません。この小説はあくまで探偵「ザンティピー」がソロの主人公です。サンディーも、あるいは彼女の義理の妹となったミッキーこと「実希子(みきこ)」も、相方の位置に収まるほどの存在感を見せないのはちょっぴり残念なところです。
謎の演出から真相の解明まで収束への過程はお見事。なにより読後の後味がとても良かったです。これは伏線のはずだと勝手に思い込んでいたいくつかの箇所がスルーされたのは肩透かしでしたが、それはもちろん筆者でなく私の邪心のせい。ピュアな気持ちで臨んでいただければ素敵な読書体験を得られること請け合いです。
評価:★★★★☆
2010年10月12日火曜日
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