2010年11月14日日曜日

シンギュラリティ・コンクェスト 女神の誓約(山口優) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

第11回日本SF新人賞受賞作。ただし、SFというよりは少し厨二の入ったライトノベルという印象。最初のほうは読むのがしんどかったですが、どんどん面白くなっていきました。「禁書」ファンの方なんかには、かなり楽しめそうな気がします。



主人公は人口精神のアンドロイドAMATERAS、通称「天夢(アム)」。各章冒頭で古事記や日本書紀の引用が入るなど、多分に日本神話のモチーフが取り込まれています。自律学習型の神のごとき人口知能が、人類の危機をいかに救うかというお話し。

宇宙が紫色になるという設定は面白いですが、SFというよりは絵空事といったほうがぴったりくるかもしれません。リアリティの点でも疑問が残ります。冒頭シーンでリヴカが何故死ななかったのかわかりませんし、艦隊を身一つで制圧する天夢がタイマンで人間に負けちゃうのも不可解ですし。

日本語もところどころでおかしいです。P141「あんたみたいな機械なんかを、導き手とすることなんか!」。"なんか"を2つ重ねられて大変な違和感です。どちらかというと校正で直してほしかったところかもしれませんが。

序盤は読むのがしんどくて、これで560ページも耐えられるのかと思ってしまいましたが、これが三章あたりからどんどん面白くなっていくのです。話が進むにつれて書き手さんがレベルアップしている印象。こういうところが新人賞作品の醍醐味ですね。

なんといっても素晴らしいのが天夢のキャラクター。全知全能に近い力を持ち、語り口もクールでありながら、生みの親を慕い、彼と良い感じの女性に嫉妬し、各地を回るなかで人とふれあい、外見15歳ながら実年齢は1歳の彼女が、人間とは何かを学んでいくなかで、自身の使命への確信を徐々に深めていきます。

宇宙が紫色になる謎の解明については正直陳腐な感が否めませんが、そんなことは全く問題ありません。各章ごとにだんだんレベルアップしていく敵との戦闘シーンこそが本書の真骨頂。特にラスボスは相当強いので、かなり熱々のバトルとなっています。

SFとして読むと突っ込みどころが結構ありますが、物語としての面白さはかなりのものです。思うに最初からライトノベルとして書かれていたほうが、変な制約もなくてよかったのではないかという気もします。次は電撃文庫とまでは言いませんが、エッジのほうかあるいは朝日ノベルズくらいで書いてみてほしいですね。

評価:★★★☆☆

2010年11月12日金曜日

明智左馬助の恋〈上〉(加藤廣) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

「本能寺の変」三部作のラストを飾る作品。前二作の描写からは左馬助がとてもミステリアスな存在にみえていましたが、今のところそれほどでもありません。歴史オンチの私には多少きついところもありますが、せめて「信長の忍び」を読んでいたのはよかったです(笑)



左馬助は明智光秀の娘婿にして腹心、後継者としても指名されていたという設定になっています。Wikipediaによると実在性は微妙なようですが、それだけに主役に据えやすいということはあったかと思います。

あたかも史実に基づくかのようにさり気無く大法螺が語られているので(褒めてます)、嘘を嘘と見抜けない人はご注意いただいたほうが良いかと思います。その点、歴史に詳しい方のほうが安心して楽しめるでしょう。

コミック「信長の忍び」の登場人物が結構出てくるので、前もって目を通しておけば、いい予習になるかと思います。とりわけ細川藤孝のイメージギャップは読んでいて楽しいです。

タイトルの「恋」については確かにそういう話も出てきますが、上巻時点ではまだぴんと来るほどのものでもありません。前作「秀吉の枷」では暗躍するミステリアスな男の印象でしたが、これからそのような体験をすることになるのでしょうか。

ほんとに全ての謎がこれから明らかになるのか、ちょっと微妙な気もしていますが、単純に光秀サイドを語る読み物として面白いので、きっと問題ないでしょう。

下巻に続きます。

関連レビュー:
信長の棺〈上〉(加藤 廣)
信長の棺〈下〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈上〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈中〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈下〉(加藤 廣)
明智左馬助の恋〈上〉(加藤廣)(本書)
明智左馬助の恋〈下〉(加藤廣)

動機未ダ不明 完全犯罪研究部(汀こるもの) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

多分ネタの半分以上わからなかったですが、それはそれで面白かったです。前回ほどハッチャケていないのもまとまりが良くてよいなと思っていたら、まさかラストであの展開とは。ページが中途半端にあまってるんでおかしいとは思ったんです(^^;



本書はR15くらい指定されてもおかしくない内容かもしれません。特にSecondmission4はやばい気がします。高校生にリアルに死体の解体処理をさせるのは、人によっては一線を越えていると判断される方もおられるでしょう。私はそのあたり割り切って読んでますが。

簡潔な文体による軽快な文章、それでいてピリピリッと辛さと毒に満ちた仕上がりは相変わらずお見事です。連作短編形式といって良いかと思いますが、作品全体のオチもさることながら、ひとつひとつの犯罪ネタが前回以上に私の好みにあいました。

杉野二号の活躍が個人的には一番良かったです。「魔女、帰還す」における無敵かと思われるような活躍はもちろん、最後の場面での落としっぷりもGood。得手不得手があることで、より人間味が増すというものです。もっとも私は、どちらかといえばゆりっぺ派なんですが・・・

いまいち台詞の主体が誰だかわかりにくいのは、私の読解力のせいでしょうか。話の後半に入ってからはそうでもなかったので、前提知識の不足によるものかもしれません。THANATOSシリーズに手を出すべきか迷うところですが、本シリーズだけでも十分楽しめてしまうだけに難しいところです。

評価:★★★☆☆

関連作品:

2010年11月10日水曜日

樹環惑星-ダイビング・オパリア-(伊野隆之) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

社会派SFとでも言えば良いでしょうか。樹木同士の会話というユニークな設定があるにも関わらず、センスオブワンダーには乏しい印象ですが、本書の性質からするとそれが逆に長所となっているようにも思えます。第11回日本SF新人賞受賞作です。



舞台は植民惑星オパリア。植物以外に土着の生物を持たず、人間に有害な化学物質が排出されているため、とても住み良いとはいえない世界。

その排出ガスの商業的価値に目をつけ利権を独占する「アストラジェニック社」と、煮え湯を飲まされた形の「オパリア自治政府」、そして周辺星域一体の秩序を監視する「星間評議会」のパワーバランスが、政治小説といってもよい雰囲気を演出しています。

ヒロインはオパリアの森林生態を専門とする准教授「シギーラ」です。星間評議会より、第三者的な立場からオパリアにおける新種の疫病調査を依頼されます。年齢ははっきり書かれていませんが、おそらく40前後のはず。ちょっぴりとうの立ったヒロインです。

蔓延する疫病や星系に広がる新種のドラッグ、そしてオパリアにおける森林生態の変化。それら個別の事案が徐々にひとつの問題に収束されていきます。悪役はもちろんアストラジェニック社です。

全般的に突き放したようにクールな筆致は私好みです。450ページに及ぶ長編ですが、SF設定を過剰に語ることのない文章は読みやすく、要所でおこる事件のおかげで飽きることもなく惹きこまれていきます。デビュー作とは思えない完成度の高さに感心しました。

特異な設定をさらっと流しているのが本書の特徴であり長所でもあると思いますが、肝心の樹木の会話については、もう少しファンタスティックな盛り上がりを期待したかった気もします。話の8割くらいまでは文句なしだったのですが、着地が少々地味に過ぎるかもしれません。

アストラジェニック社の裏に潜む組織やラキ教授の顛末など、後に続くであろう設定がまだまだ残されているようです。正直、デビュー作での出し惜しみはどうなのかなという気もしますが、逆に真の評価は続巻を待つべきなのかもしれません。

評価:★★☆☆☆

@HOME 我が家の姉は暴君です。(藤原祐) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

血のつながらない7人きょうだいによるハートフルコメディ。家族達はみな温かく、ホノボノとしたエピソードが続くのですが・・・終始漂う得体の知れない緊張感は何なのでしょうか。ちょっと「ひとつ屋根の下」に似た雰囲気の作品です。



両親達を事故でなくし、母方の親戚達に翻弄される高校2年生「園村響(そのむらひびき)」。葬儀後の喧々諤々のなか、響のもとを訪れたのは父方の親戚だという二人。彼らの誘いにより響は「倉須(くらす)」家に引き取られることになります。

迎えに来たのは長男の「高遠(たかとお)」と次女の「リリィ」。二人の姉のうちリリィがヒロイン格となるようです。生徒会長として畏怖と崇拝を一身に浴びる一学年上の彼女。タイトルには暴君とありますが、彼女の本性は徐々に明らかになっていきます。

設定的にわけありにならざるを得ないきょうだいたちですが、一見するとみな良い人、良い子ばかりです。それが曲者。笑顔の奥に隠された重い背景がいつ爆発するのか、終始ひやひやした緊張感が漂います。

本書後編では三女「芽々子(めめこ)」の背景にスポットが当てられます。リリィ、響とは同じ高校の一年生。スキンシップ過剰でちょっと天然の入った「異様な」美少女。天真爛漫な彼女がぬいぐるみに示す拒否反応の理由とは?

個々の家族だけでなく、倉須家自体にもなにやら事情があるみたいで、伏線てんこ盛りといった印象です。ストーリー自体も話のオチも「@HOME」というタイトルに相応しいものですが・・・このストーリーでこの緊張感を出せるのは、筆者への「信頼感」のなせる業かもしれません(^^;

評価:★★★☆☆

2010年11月8日月曜日

日本は世界4位の海洋大国(山田吉彦) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

タイトルは少々大げさですが、海洋資源や国境問題に関する最新のトピックが、実に冷静に説明されています。一部ネトウヨ的感情論になっていないのが良かったです。



タイトルの4位というのは若干微妙で、面積だけなら6位となるそうです。4位というのは海水量という三次元的視点からのもの。それでも海洋大国という言葉に恥じない広さではあるといえます。

本書では、いわゆる海洋資源を「海底資源」、「海洋資源」、「水産資源」の3つに分類しています。海底資源は油田、水産資源はお魚。この両者は結構馴染み深い概念ですが、「海洋資源」というのが新しいですね。

海水のなかにはエネルギーやレアメタルなどが溶け込んでいるわけですが、科学技術の発展によりそれらの抽出技術が実用化の段階まで迫りつつあるそうです。この分野では日本が最先端を走っているとか。

やはり懸念は領土問題となるでしょう。地理的にみれば、日本というただ一国の存在により中国も韓国もあたかも監獄に捉えられているような状況です。P17の地図を見れば、両国が領土問題に熱心なのもある意味当然のような気がします。

領土問題について気になったのは、実効支配についての考え方です。
利用していない土地は、島とは認めないという風潮が世界にはある。排他的経済水域の主張においては、人間の居住という点が重視されているのだ。
この考え方に照らし合わせると、日本の離島政策は実にお粗末だというのが筆者の主張です。

竹島は、韓国による不当占拠からすでに60年もの実効支配が続いています。ここまでくると、いくらサンフランシスコ条約を盾にとっても、完全に日本の領土と主張するのは徐々に難しくなって来るかも知れません。

もっとも国はただ手をこまねいているだけではありません。2007年に成立した「海洋基本法」など、日本の「海」の取り組みが着実に前進しているようであるのは頼もしいことですが、こういうポジティブなことはあまり話題になりにくいのかなという気はしますね。不思議なことです。

領土問題について中韓の動きやマスコミ報道に反射神経で対応する前に、本書のような周辺知識を押さえておくことは、民度の高さを誇りたい向きの方々には大事なことではないかと思います。

評価:★★★★☆

2010年11月7日日曜日

クロノ×セクス×コンプレックス 3(壁井ユカコ) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

過去の地球をまるごと召喚とか、魔法の設定がどんどん大掛かりになってきています。まさかエマ先輩の元ネタが「思い出エマノン」とは。言われてみれば成るほどのキャラ造形ですが。ストーリーの骨格もかなり見えてきたはずなのに、何故かますます混迷を深める時間SF第3弾です。



今回はオリンピアが二人登場します。未来からやってきた人間となると、どうしても予定調和的な展開になりがちですが、そこのところが実にうまく処理されているように思います。流石です。

予定調和といえば<永久時間剥奪者>。彼の正体は大方の予想通りかと思いますが、ラストのオリンピアとの会話のなかで明らかになる彼の立ち位置については、なるほど納得させられるものです。

ミムラも今回ようやく初登場ですが、彼女(彼?)についてはキャラは濃いものの三村との絡みはあまり期待できそうにないですね。もうちょっと善悪を超越したキャラかと思っていましたが、ちょっと敵役の味が強め。

小町は・・・満を持しての登場があれではあまりにも可哀想です。涙なくして読めませぬ。折りよく挿入されているイラストがまた切ない。平凡な彼女が世界の敵認定。鉄板といえば鉄板な設定がどう料理されていくのか、大変楽しみです。

メインヒロインはオリンピアと小町ということで決まりでしょうか。ミムラはこれっぽっちも関わらなさそうで残念ですが、物語的には分かりやすくてよいかと思います。ラストで柄にもなく前向きなところを見せたオリンピアの動向に注目です。

次は事件の起こる3年後までストレートに跳ぶのか、間に別のエピソードを挟むことになるのか。今回初登場のエマ先輩も相当凄腕のようですが、リアルな時間修復士の登場にも期待したいところです。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
クロノ×セクス×コンプレックス 2(壁井ユカコ)