2010年10月6日水曜日

秀吉の枷〈下〉(加藤 廣) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

中巻の続き。天下を取ったのは秀吉でも、血統争いでは淀の方にやられて敗北ということになるでしょうか。ミステリとしてみると構成の甘さを感じますが、純粋な歴史物として面白かったです。



秀吉の枷というタイトルからも、本能寺の変への関与が落とす影を主題としたかったであろう筆者の意図は分かります。ラストのあたりで前野将右衛門らの口を借りた真相が明らかにされるあたり、その試みは成功しているといってよいと思います。

ただ、本筋の歴史ものとしての面白さが、本来の意図をぼやけさせてしまった感は無くもありません。淀の方懐妊にまつわる疑惑、家康との駆け引き、朝鮮出兵、秀次失墜の真相など、興味深い話がてんこ盛りです。

もちろん、各エピソードのそれぞれに「枷」が絡んできてはいるのですが、それはあくまで諸原因の一つというように感じられました。文庫にして3冊と、3部作の中で一番の大著ではありますが、シリーズ全体の位置づけで見ると本作は外史に過ぎないのかもしれません。

俄然、続編「明智左馬助の恋」が楽しみになってきました。本作でもところどころに未回収の伏線が散りばめられているため、ミステリ成分の期待もより大きくなろうというものです。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
信長の棺〈上〉(加藤 廣)
信長の棺〈下〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈上〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈中〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈下〉(加藤 廣)(本書)
明智左馬助の恋〈上〉(加藤廣)
明智左馬助の恋〈下〉(加藤廣)

2010年10月5日火曜日

秀吉の枷〈中〉(加藤 廣) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

上巻の続きです。信長の死後、秀吉による天下取りの軌跡が描かれています。最も華々しいところのエピソードなので読んでて楽しいですが、本能寺の変の影響がそれほどでもなかったのは若干肩透かしかもしれません。



信長の死を予見した秀吉の「中国大返し」。歴史的事件の背景をシリーズ独自の設定から解釈しているのが本書の見所となります。もっとも、信長の遺児たちをあしらい柴田勝家ら旧臣たちを実力で打ち倒す様子は、その設定が無くても普通に面白いです。

本書のタイトルどおり、本能寺の変への関与は最大の敵である家康に知られるところとなり、大幅な譲歩をせざるをえないウィークポイントとなってしまいます。ただ、それは歴史上の不可解な現象を説明するためのおまけに過ぎない印象も。やはり、真相も含め全てが明らかになるのは続編にお預けかもしれません。

本書では天下取りなった後の後継者問題、すなわち子作りにまつわる側室たちの話も大きく取り上げられています。その話題の性質から、ちょっぴりエロイ展開ありです。次々と側室を変えて、お楽しみというより必死の試み。淀の方はまだあまり登場がありません。

本書でも太田牛一は出てきませんでしたね。これはずっと出てこないことになりそうで、ちょっと残念です。なんとなく、後は普通の太閤記になりそうですかね。栄華を極めるのに比例して荒んでいく一方となりそうなので、下巻は鬱な展開メインとなってしまうのでしょうか。

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関連レビュー:
信長の棺〈上〉(加藤 廣)
信長の棺〈下〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈上〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈中〉(加藤 廣)(本書)
秀吉の枷〈下〉(加藤 廣)
明智左馬助の恋〈上〉(加藤廣)
明智左馬助の恋〈下〉(加藤廣)

2010年10月4日月曜日

秀吉の枷〈上〉(加藤 廣) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

「本能寺の変」三部作の2作目。信長の死の真相を追うというちょっと地味目だった前作と比べて、主役が秀吉ということでいかにも歴史小説らしい華々しい展開をみせてくれます。ただし、前作から引き継ぐ独自の設定は健在。新鮮な視点を提供してくれます。



秀吉に関わる小説は世にたくさんあるかと思いますが、「山の民」の設定と本能寺の変への関与が、本作品のオリジナリティを支える肝となっています。これは前作とも深く関わってくる設定なので、「信長の棺」のほうを先に読んだほうがスムーズに話に乗れると思います。

「山の民」とは先祖を藤原氏とする隠匿の民のことで、筆者独自の設定です。空想といってしまえばそれまでですが、本シリーズではこの設定が色々な歴史的事象を解明するキーとなっています。歴史に詳しい人ほどニヤリとできるのではないかと思います。

また、本能寺の変の真相について、前作でもちらりと触れられていた秀吉の関与がいかなるものであったのかが本書で明かされています。ただし、特に「明智左馬助」の動きに絡んで、思わせぶりな謎がまだちらほら残っています。このあたりは続編のほうで明らかにされるかと思いますが、あおり方が実に上手です。

信長の死の真相が本シリーズを通じた一つの軸になっているかと思いますが、普通に秀吉の戦記物としてもなかなか面白いです。竹中半兵衛、黒田官兵衛、羽柴秀長、蜂須賀小六、前野小右衛門ら側近達の活躍が鮮やかに描かれています。

本巻ラストで起こった本能寺の変への秀吉の関与。これが後の展開にどう影響してくるか楽しみです。それにしても、前作で秀吉が太田牛一に訳知りっぽく対する場面がありましたが、今のところ全く出てきませんね。次巻以降の楽しみということになるでしょうか。

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関連レビュー:
信長の棺〈上〉(加藤 廣)
信長の棺〈下〉(加藤 廣)
秀吉の枷〈上〉(加藤 廣)(本書)
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明智左馬助の恋〈上〉(加藤廣)
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2010年10月3日日曜日

ACONY(3)(冬目景) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

可愛いゾンビ(?)少女「アコニー」の最終巻です。前巻ラストの引きでストーリーものっぽい展開をみせるかと思ったら、あっというまに気の抜けた展開に逆戻り(褒めてます)。完結は残念ですが、作品の性質的に程よい終幕というところでしょうか。



魅力的なヒロインが多い冬目景さんの作品ですが、中でもアコニーは一番好きかもしれません。ハルと双璧ですね。スプラッタ好きな趣味だとか、ちょっとえげつない性格だとか、不幸な生い立ちを感じさせない軽さが良いです。

前巻のラストで母親の行方探しが始まり、結末に向かって盛り上がっていくのかと思いきや一話でアッサリ収束。ただし、真相はとても意外なものでした。凄くこの作品らしいオチ。巳園さんと熊さんの軋轢が微笑ましいです。

どの話も面白かったですが、なかでも好きなのは「キーラートースター」です。登場時にはシリアス風味だったお婆ちゃんですが、贈ってきたプレゼントのお茶目さはさすがアコニーの祖母。そのアコニーはモトミを助けるために座敷童子を放り投げるし。取れた首を青筋立てながら直すワラシが可愛かったです。

冬目景さんはシリアスもコメディも、どちらでも最高に面白いですね。難点は刊行間隔が開くことくらいでしょうか。もうちょっとなんとかお願いしますよといいたいところですが、それでクオリティが落ちたら意味無いですし、気長に待つしかありませんね。忘れた頃に出てくるサプライズプレゼントと思えば・・・

評価:★★★★☆

関連作品:



2010年10月2日土曜日

ローマ人の物語〈27〉すべての道はローマに通ず〈上〉(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

今回は特別編。ローマ全時代を通じてのインフラをテーマとしたお話し。上巻ではハード面、特に街道や橋について語られています。筆者も冒頭で懸念しているとおり、歴史物語ではないため面白さという意味ではいまいちかもしれませんが、写真も多くてそれなりに楽しめました。



本書がいまいち面白みにかけるのは、インフラを扱っているからという理由ではなく、それらの一番大事な点については既に語れてしまっているためです。スキピオやカエサルによる華々しい戦記の合間にも、インフラについては重要なものとして逐一言及されていました。

だからといって、本書に価値が無いというのではもちろんありません。本筋の歴史の片手間で触れるにはちょっと冗長になりそうな、実際の街道や橋の作りについて詳細が語られています。たくさんの絵入りで説明されているため、素人にもなかなか分かりやすかったです。

土木や建築で専門的な仕事をしている方ならより面白く感じられるのではと思います。ただ、この巻だけだと意味が通らなさそうなのが難しいところです。アッピア街道の時代背景など、既刊を読んでいないと追いつかなさそうなところが多々あります。

そもそも、このシリーズ全体を通してつまみ読みが難しそうだなという印象を感じています。前時代のうちに、それより少し後の時代の予告編をちょこちょこ入れるのが筆者の得意とする手法です。そのため、ベストの読み方は「最初から続けて読む」になってしまいます。

もっとも、それが欠点というのでなく、だからこそ物語として面白いというところがあります。下巻では教育や医療などソフト面のインフラにも触れられているようなので、私としてはむしろそちらのほうが楽しみかもしれません。

評価:★★☆☆☆

続き:
ローマ人の物語〈28〉すべての道はローマに通ず〈下〉(塩野七生)

2010年10月1日金曜日

ジウ〈1〉―警視庁特殊犯捜査係(誉田哲也) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

武士道シリーズとそっくりな作品。出版の時系列的にはあちらが似てるというべきですが。かたや青春小説、こなた警察小説なのに不思議な感じです。「新たな警察小説の誕生」といううたい文句はわかる気がします。



「ジウ」というのは犯罪者の少年の名前です。まだ詳しいところは明かされませんが、犯罪者としての演出は「ストロベリーナイト」そっくりです。全3巻となるため今回彼は捕まりませんが、本書だけでも一応それなりの解決を見せます。

彼に関わる事件を追いかける形で、「門倉美咲(かどくらみさき)」と「伊崎基子(いざきもとこ)」の二人の視点から、交互に事件が展開していきます。二人はもともと同じ係りのメンバーでしたが、所属が分かれてもそれぞれの立場から「ジウ」にいやおう無くかかわっていくことになります。

美咲は説得を得意とする女性らしい女性。一方の基子は武闘派で、軟弱な美咲を毛嫌いしています。このあたりの人間関係が武士道シリーズそっくりです。筆者の得意とするパターンなのでしょうけれど、既視感が強くて若干のめりこみにくい印象はあります。

彼女達それぞれと深くかかわる男性警官が登場しますが、死亡フラグが立ちまくりです(笑)。全滅だと目も当てられないなと、どきどきしながら読んでいました。どうなったかは実際に読んでみてのお楽しみで。

話はとても面白く一気に読めたのですが、どうも「武士道シリーズ」+「ストロベリーナイト」という印象がぬぐいがたく残ってしまいました。こちらのほうが出版は早いわけですから、このシリーズこそ筆者のエッセンスの源ということなのでしょう。読む順番間違えましたねぇ・・・

評価:★★☆☆☆

2010年9月30日木曜日

親指のうずき(アガサ・クリスティー) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

トミーとタペンスシリーズ第4弾。前作から20年以上たって書かれた作品です。二人は60歳くらいになるでしょうか。老人ゴシップっぽい趣きの作品になるかと思いきや、クールな展開に素直に楽しめました。



母の蔵書を読み漁っていた小・中学生時代ですが、クリスティーの作品でミス・マープルのシリーズは1冊も読んだことがありません。主人公が老人というのが食指が動かなかった理由かもしれません。じゃあポアロはどうなんだというと、そちらも一部の有名作品しか手にとってはいないのです。

トミーとタペンスも今回は老齢の域に達しているということで、少し躊躇するところが無くもなかったのですが、読み始めてすぐにその杞憂は吹っ飛びました。老人臭くないわけではないんです。話題はいきなり養護ホームからですし、面会に行った気難しいエイダ叔母さんはその後まもなく亡くなってしまいますし。

結局、若ければ若いなりに、歳を取ればそれなりに、タペンスがタペンスらしい好奇心を存分に発揮しているところが良かったのだと思います。今回は親戚に引き取られるかたちで行方の分からなくなったランカスター婦人の足跡を、たった一枚の絵だけを手がかりに探していくことになります。

実は少々展開が退屈というところもありました。一場面ずつをこまめに描写した結果、自然とページ数が増えていっている感じです。ただ、飽きる一歩手前で絶妙に場面転換されるのはさすがです。タペンス→トミーと視点が移り、同じ事件に対して二人が別のアプローチから接していくことになります。

全体的なストーリーも最後のオチも悪くは無かったのですが、旧友アイヴァー・スミスが偶然関わったり、アルバートの特技がたまたま役に立ったりと、多少ご都合主義な点が目立った気もします。まあ、タペンスとトミーの魅力がしっかり描かれてさえいれば、それらの欠点も些細なことです。

評価:★★★☆☆

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