後代の人間から見たザマの会戦の何よりの価値は、筆者が
ハンニバルとスキピオは、古代の名将五人をあげるとすれば、必ず入る二人である。(P62)というように、希代の戦術家同士が直接矛を交えるという、フィクションでしかありえないような状況だったことにあります。本人たちもそれを意識していたのか、決戦を前に二人は異例の会談を持ち、言葉を交わす機会を得ます。
お互いの状況は必ずしも公平とはいえなかったようです。本国を急襲されて、あわてて呼び戻されたハンニバル。兵数では勝るものの騎兵を十分に揃えられなかったことが敗因となります。ローマ内においてさえ会戦後もハンニバルをスキピオの上と置く見解があったのも、そのためなのでしょう。
とはいえ、スキピオ以外の誰かであれば到底ハンニバル越えが不可能であったことは間違いありません。散々負け続けたローマに対して、ハンニバルはこれが小競り合い以外で初の敗北。しかし、この唯一の敗北により第2次ポエニ戦役は決着を迎えます。ローマの強固な政体の勝利といえるでしょう。
二人のその後についても触れられています。スキピオは異例の若さで元老院主席となり、長年にわたりローマ最大の発言力を持ち続けることとなります。一方のハンニバル、教科書からの印象でザマの決戦で散ったのかと思っていましたが、その後も結構長生きしたそうです。政争でカルタゴを追い出されたものの外国に客将として招かれ、ときにはローマと再び戦う機会もあったそうです。とはいえ、晩年は不遇といっていい状況だったみたいですね。
第2次ポエニ戦役終了後、ローマは完全に地中海世界の覇者となりますが、その要因のひとつがハンニバルとの戦争にあったようです。
ローマは、カルタゴに対して戦い抜いたことによって、効率が良く精巧無比な戦争機械にも似た、軍隊を持つ国に変貌した。(P160)ぬるい争いを繰り返すギリシャやマケドニアなどの東地中海勢力は、もはやローマの敵ではありませんでした。しかし、傍目には覇道とみえるローマの所業も、やむを得ぬ事情と偶然のいたずらによる産物だったと見る筆者の見解は、いかにもローマ好きだなぁという感じがします。
さて、ローマが勝って地中海を制覇してハッピーエンドとしたいところですが、次巻は「勝者の混迷」などという剣呑なタイトルがつけられています。暗い話になりそうですね。本巻の後なだけにちょっと手をつけかねる気がしなくも無いですが、カエサルが待っているので頑張ってクリアしましょう。
評価:★★★★★
関連レビュー:
『ローマ人の物語 (3) - ハンニバル戦記(上)』(塩野七生)
『ローマ人の物語 (4) - ハンニバル戦記(中)』(塩野七生)
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