2010年6月26日土曜日

『ふたりの距離の概算』(米澤穂信) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

古典部に仮入部した「大日向友子」が入部しないといいだした。本入部届提出期限の今日はあいにくのマラソン大会。我らが「省エネ主義者」の奉太郎が、ちんたら走りながら後方スタートの関係者に聞き込みをしていく、らしいのからしくないのか分からない展開の古典部シリーズ第5段です。



刊行まで待ちきれなくて「野性時代」での連載を立ち読み(ごめんなさい)していたため、本書はお布施のつもりで購入したのですが、改稿が多くてかなり印象が変わりました。喫茶店のネーミングはなんとも恥ずかしいですね。クールな野暮天の奉太郎が当てきれなかったのも無理ありません。一部ネット上で過去作品と矛盾があると指摘されていた箇所も修正されているようでした。

加筆は終章の7ページですが、それだけでこれほど話が締まるとは思いませんでした。連載中は、正直ちょっぴり淡白だなと感じていたのですけれど、さすがのよねぽマジックです。作中のちょっと唐突だなと思っていた箇所についても、伏線がこまめに追加されています。

古典部の4人がかなり個性的というか難しい人間の集まりなため、ここに誰かが加わるのは想像しにくかったのですが、大日向さんはかなりいい感じの5人目候補だなと感心しました。ぱっと見たところ男と間違えそうな風貌に、古典部らしくない(?)明るくさばけた性格。かといって、やはり一癖ありそうなところはポイント高しです。マラソン中にお団子食べたいと言い出したのは超ツボでした。

大日向と関連して、新一年生の名前がいくつか出てきました。本作だけで立派に完結した一作ですが、シリーズ全体を通してみると、今後へのつなぎ的な意味合いのほうが強い作品なのかなという気がします。里志の妹は当然気になるとして、奉太郎がすっかり忘れていた「阿川」さんが今後からんでくるのかこないのか、わたし気になります。

前作遠まわりする雛で、ようやく少しは進展しそうかと思われた奉太郎と千反田の関係ですが、あいかわらず何ともかんともな感じですね。外堀から少しずつ埋まっている感はなくもありません。もっとも、微妙な関係の二人が仲良く無駄話をするところが本シリーズ一番の見せ場という気もするので、本人たちには悪いけど、しばらくこのままでもいいかなという気もします。

ちょっと気になったのは、奉太郎がもっていた小銭。20キロも走るので2本分用意していたのはいいとして、240円だと硬貨6枚です。なぜ250円じゃなかったのでしょう。それなら最初が3枚→1本買って4枚→2本目を買って1枚となって、片方のポケット最大2枚で済みます。こういう小賢しいこと、いかにもホウタローが考えそうなことじゃありません?私もジョギングするのですが、ポケットにいくら忍ばせておくかは結構気を遣うところなのです。

と、細かいところがいくつか気になったとは言え、しょせんは重箱の隅レベルです。本作自体の完成度に加え、続編への期待も煽られてとても楽しめる作品でした。何よりも重要なのは、古典部の4人があいかわらずの4人であったことです。この雰囲気が続く限り、私の古典部シリーズへの評価は常にMaxなのです。

評価:★★★★★

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