東方軍団を代表してヴェスパシアヌスが帝位に就くも、首都ローマの混乱は辺境での反乱という形で現われます。まずはその尻拭い。公式な地位では上のシリア総督でありながら、あえてヴェスパシアヌスを立てて露払いの役を務めたムキアヌスが格好良すぎです。
帝国北方の境界線を固める、最も重要な軍隊であるといって過言でないライン軍団とドナウ軍団。彼らの自覚のなさにはあきれてしまいます。
ライン軍団は先帝ヴィテリウスを立ててローマ入り。ライン軍団といえば国防の最前線を担う一角ですが、そりゃそんなところからあんたらがいなくなれば反乱起こるに決まってます。まぁ、トップのヴィテリウスが全て悪いわけですが、この人は何故ライン川沿いにそれだけの兵士が必要だったのか想像する頭もなかったみたいです。
一方、先々帝オトーを支持してライン軍団とガチンコのぶつかり合いをした挙句敗れたドナウ軍団。ヴェスパシアヌスを支持したのは良いけれど、露払いとして乗り込むムキアヌスの到着を待たずに勝手にローマに攻め入りガチンコ2戦目。勝ったはいいけどそれで辺境の侵入を許していてはお話になりません。
結局、その両方をムキアヌスがかたづけることとなります。どうも筆者の解釈では、皇帝となるヴェスパシアヌスの手を同胞の血で汚したくないための、ムキアヌス先入りだったようです。当時の伝達の遅さではエジプトに待機するヴェスパシアヌスからいちいち指示を受けるなんてことは出来ません。結局ムキアヌスは内政諸制度にも手を入れ、すっかり掃除された状態で帝位を引き渡すこととなります。彼が皇帝でも良かったくらいですね。
息子に引き継いでいたユダヤ戦役も無事目処が立ち、その軍事実績を引っさげヴェスパシアヌス堂々のローマ入り。本来は地位的にちょっと物足りない出自の彼ですが、危機においてはローマ人は結構細かいことに頓着しない感じですね。既に老齢だったこともあり、統治の期間はわずか10年ですが、ほどほどに無難な善政だったようです。
ヴェスパシアヌスは、後継者がはっきり決まっていなかったことが混乱の元凶であったことをしっかり認識していました。そのため、長男ティトゥスが帝位を引き継ぐためのレールを万全な形で準備するのですが・・・息子達がうまくやっていれば、ヴェスパシアヌスも五賢帝に連なる栄誉を与えられたのかもしれませんね。世の中そううまくはいかないようになっているのでした。
評価:★★★☆☆
続巻:
ローマ人の物語〈23〉危機と克服〈下〉(塩野七生)
関連レビュー:
ローマ人の物語〈21〉危機と克服〈上〉(塩野七生)
2010年8月30日月曜日
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