狸たちが主人公ということで、ちょっぴり警戒しつつ本書を手にしましたが、読み始めた途端すんなりあっさり感情移入してしまいました。主人公の元許婚はツンデレだし、天狗見習いとは思えない貫禄の「弁天」は妖艶すぎるし。で、結局一番怖いのは狸を食べる人間だったりするお話です。
狸と天狗と人間が登場するのですが、狸も天狗もやたらとお茶目で人間臭いです。人間臭いのに、それでいて狸は狸らしいし、天狗は天狗らしいのです。何を言ってるのか分からないと思いますが、私も良く分かりません。
説明しにくいものほど面白いというのが私の持論です。人気漫画を途中から読むと人間関係が全然理解できないということがよくありますね。予測しにくいストーリが展開された証拠で、それこそが良い作品の証なのです。
本書は、元首領である父親亡き後は不遇をかこっている狸の一家が、狸を食べる「金曜倶楽部」の人間達におびえたり、気ままな天狗たちのご機嫌を伺ったりしつつ、ライバルの叔父一家を相手に奮闘するお話です。あらすじとしては上記の通りで間違いありません。でも、この説明だと本書の面白さが全く伝わらないのです。
食べられることは恐れながらも、人間が狸を食べるの自然なことだとする達観。シリアスな状況でもいつもどこか間抜けな印象を与える暢気さ加減。言動の端々に表れる、実に人間的でありながら狸らしいほのぼのしたやり取りこそが、この作品の真骨頂といえるでしょう。
ただし、本書はただの雰囲気小説ではありません。叔父一家との抗争は金曜倶楽部や天狗たちを巻き込み、クライマックスでこれ以上ない盛り上がりをみせます。雰囲気も良く物語としても一級品の本作品、文句のつけどころがない傑作です。
評価:★★★★★
2010年8月20日金曜日
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