あらゆる学問に通じた亜玖夢博士(70歳)が、その学識を駆使して民衆救済(?)を行う連作短編集。各話のタイトルが「囚人のジレンマ」や「ゲーデルの不完全性定理」など現代学問の有名なトピックとなっていますが、新宿歌舞伎町が舞台ということもあり、アカデミックな雰囲気は皆無です。むしろブラックなユーモアセンスこそがこの作品の特徴でしょう。
4話目まではほぼ完全に独立していますが、最終5話目だけは一応総括的な話となっています。以下、各話の感想です。
第一講「行動経済学」:
相談に訪れた若いフリータ崩れの借金問題を解決(?)します。そういえば、ユリウス・カエサルも莫大な借金を抱えていた人でした。一人殺せば犯罪、たくさん殺せば英雄。まぁ、そういう話です。アイロニカルな味がたまりません。
第二講「囚人のジレンマ」:
密輸ルートをたたれて手詰まりなシャブ売人の悩みを解決します。正直、囚人のジレンマはあまり役立っていない、というより強引に役立てようとお膳立てする目的こそが肝となるお話し。
第三講「ネットワーク経済学」:
いじめられっ子からの相談に対して、イジメ問題の本質をネットワーク経済学の理論で説明します。しかし、何の解決にもならず、挙句の果てに「子供のことはよくわからん」と投げ出す始末。仕方なく子供自身が自力で考えたアイデアから、とんでもない方向へ事態は進みます。いじめ問題が単純に解決をみせないところがシビアでよいです。本書で一番好き。
第四講「社会心理学」:
亜玖夢博士vsマルチ講。博士がことごとくマルチの手口を論破します。しかし、単純な勧善懲悪では終わりません。博士自身の過去も垣間見え、底の深さがうかがえます。
第五講「ゲーデルの不完全性定理」:
生きる目的を求めていた18歳の少女「工藤あかね」が、「ゲーデルの不完全性定理」により打ちのめされ、生きる希望を完全に失います。全然救済になってねー!お星様になる良い方法を模索しながら博士の下に住み着いた彼女が、博士の手下の仕事を手伝ううちに、妙な状況に巻き込まれることとなります。この子はレギュラーになるのかな?
全編を通して、結果的には博士の学識はあまり役に立っていないのが本書の良いところです。やはり難しいことは簡単には解決しないんですね。そういう落としどころをつけるバランスがすばらしい作品だと思いました。
評価:★★★☆☆
2010年8月14日土曜日
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