2010年8月10日火曜日

銀二貫(高田 郁) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

江戸時代中期、大坂天満の寒天問屋が舞台となります。タイトルの「銀二貫」というキーワードが最後までぴんと来なかったのですが、お話しのほうは面白かったです。寒天作りのディテールが凄い。



銀二貫は金に直すとざっと三十三両とのこと。100万円くらいな換算になるでしょうか(参考)。大火の難を逃れた寒天問屋「井川屋」の主「和助」は、大坂天満宮に寄進するために調達したその大金を、仇討ちで親を殺された「鶴之輔」を救うために投げ出します。

実は、この出だしのロジック自体があまりよく分からなかったのですが・・・鶴之輔の親を殺した武士も理由あってのことで、息子にまで手をかけるつもりはなかったわけですから。他にも何度か「銀二貫」のキーワードが出てきますが、何かこじつけな感じがなくもありません。

本書のキーワードとして「天満宮」と「大火」があります。当時の大坂の商人達にとって、天満宮への信心はとても大切なものだったそうです。大火の後も寄進できる余裕のあった井川屋がそれをしないことは、白い目でみられる原因ともなります。和助は番頭の「善次郎」に苦い顔をされ、丁稚となった「鶴之輔」改め「松吉」は長いこと居心地の悪い思いをすることとなります。

大火は人生を大きく狂わせてしまうため、物語のエッセンスとしては使い勝手が良いのでしょうけれど、ヒロインの「真帆」はとても可哀想です。高田郁さんの作品って、いつも女性キャラがめちゃくちゃ不幸な生い立ちを背負っている印象がありますね。もっともこんなに重い設定でも、文章やストーリーにどこか爽やかな感じを漂わせるのが筆者の凄いところです。

多少設定に気になるところはあるものの、ストーリ自体は苦労を乗り越えて成功を勝ち取るという王道で、読み味は抜群にすばらしいです。これはこれでもちろん良いのですが、ヘビーな話しの苦手な私としては、たまには不幸でないヒロインも書いてほしいなという気もします。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
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