どうミステリになるのかと思いながら読んでいた文章がことごとく伏線だったいう、あいかわらずお見事な手際でした。厳密にはミステリじゃないんですかね。小ざかしいジャンル分け不要の独自性に富んだ一冊です。
キャラクター作りが得意なファンタジー小説家「物実(ものみ)」が初めてもらったファンレター。お嬢様然とした彼女「紫依代(むらさきいよ)」に請われ、小説家になるための家庭教師を務めることになります。
美少女をマンツーマンで指導するという夢のようなシチュエーション。5万冊の読書量を誇る博識でありながら、随所に垣間見える紫の世慣れなさが、ただの伏線じゃなく萌えポイントにもなっています。
登場人物は全部で5人と、相変わらずのシンプル設定。なんというか、プログラマ的効率化精神の琴線に触れるといいいますか、あまりに無駄のない美しい話作りには、ただただ感服するばかりです。
タイトルが「小説」でなく「小説家」の作り方となっているのもポイントとなるでしょうか。ほかにもちりばめられた様々な伏線が、真実解明の段になって物語の風景を一変させます。
以下ちょっとだけネタバレ。既読の方だけ反転して読んでください。
二重のどんでん返しが秘められていましたが、結局紫がみせていた会話の間合いとはなんだったのでしょう。通信などは発生していなかったわけですから、色々解釈の余地がありそうです。
「お母様」を騙すために事前に施した細工の一つと考えることもできそうですが、私としてはあの間合いが「むらさき」の素だと解釈したいです。そのほうがいかにも萌えキャラっぽくていいですよね。
以上、ネタバレ終わり。
まだ筆者のデビュー作はタイミングがあわなくて読んでいないのですが、既刊4冊はいずれも単発ものです。野崎さんも物実と同じくとても魅力的なキャラクターを作る方ですので、できればシリーズ物もそろそろ読んでみたいなという気がします。
評価:★★★★☆
2011年3月29日火曜日
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