知らない人のために言っておくと、ファンタジックな妖精物語ではありません。主人公は戦闘機「雪風(ゆきかぜ)」のパイロット「深井零(ふかいれい)」。彼と各話で迎えるゲストキャラが織り成す、クールでちょっぴりほろ苦いSF連作短編集です。
突如、南極の超空間通路から侵攻してきた異星体「ジャム」。それを撃退するために、通路向こう側の異世界惑星「フェアリイ」を拠点とした地球軍のなかで、とりわけ重要な役割を担うのが13機の戦術偵察機「スーパーシルフ」です。雪風はその中の一機となります。
国産SFのなかでもかなり有名な本作品。いつか読みたいと思いつつタイミングを逃してきましたが、たまたまブックオフで発見したので手にとってみました。全8作のそれぞれが実に渋い味わいで、熱烈なファンの多さもなるほど納得させられました。
妖精というからには雪風自身が意思をもつような設定かと思っていましたが、そこはちょっと微妙なところです。偵察機としての任務上、雪風らスーパーシルフには高度な電子頭脳が搭載されていますが、人間のような意思や感情を持つわけではないようにみえます。
クールでありながら雪風に並々ならぬ思い入れを持つ零ですが、雪風の進化は彼自身の存在意義にさえ疑問を抱かせます。そもそもジャムの視界に人間は入っているのか。ジャムvs人間ではなくジャムvs戦闘妖精なのでは?
人間の存在を脅かす人工頭脳というテーマは良く見られるものかもしれませんが、1984年に書かれた古い作品であるにもかかわらず、今読んでみても陳腐さが全く感じられません。全編通したハードボイルドな雰囲気がぐっと来ます。
そんな背景のなか、各話ではエリートパイロット、ジャーナリスト、末端の雪かき構成員など、様々なゲストが登場して、ちょっとほろ苦い人間ドラマを見せてくれます。パキパキしたSF設定に納まりきらない物語の凄み。なのにどこまでいってもSFでしかありえないと感じさせられるのが不思議なところです。
アマゾンのレビューでも絶賛ばかりが目立ちますが、消化されていない伏線などもあるため、ストーリー重視の私としては若干もやもやが残らなくもありません。ただ、あとがきによると改稿に伴う続編への味付けもいくつか入っているようなので、本当の評価は続きを読んでからになるかと思います。
評価:★★★☆☆
2011年3月16日水曜日
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