前巻のやや淡白な印象が覆りました。商売として成立しにくい劇団や役者たちの実情が微細に描かれていますが、これだけ書き込んでもさっぱりリアリティが生まれない有川作品が大好きです。
今回はちょっとトリッキーな構成となっています。サブキャラに焦点を当てた短編4本に、次巻へ向けてのプロローグ的な位置づけと思われる2編を加えた全6話。プロローグといっても、本巻内だけで十分完結した話となっているので、お預け感はありません。
なにしろ10人もいる劇団員なので、前巻読了時には全般的にぼんやりと霞のかかった雰囲気を感じていました。今回、それぞれのサブキャラにスポットが当てられたことで、話の輪郭が随分クリアになったように思います。
劇団内部や辞めていったメンバー達とのドロドロした人間関係。やろうと思えばいくらでも文学的な方向へ突き進めそうなテーマですが、それを許さないのがエンターテイメントを愛する有川先生の真骨頂です。
なにしろ鉄血宰相が万能過ぎます。各メンバーからの相談に突き放すようでいながら、絶妙な形で救いの手を差し伸べるツンデレッぷり。ドロドロした人間模様があっさり吹き飛ばされていくのはとても嘘臭く、そして痛快です。
恋愛模様もいつものように予定調和的なものとなりそうですね。真の恋愛小説好きには物足りなさMaxかもしれませんが、私としては安心してクライマックスを迎えられそうで嬉しいところです。
傑作「ストーリー・セラー」から一転、いつもの有川節全開といった印象の本作品。次が最終巻になりそうとのことですが、このままなら実にきれいに収まってくれそうで、期待してお待ち申し上げます。
評価:★★★★☆
関連作品
2011年1月26日水曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿