本書は慶応大学丸の内キャンパスで行われた社会人向け講義がもとになっているそうです。経済思想は専門ではないからと一度断ったのを、
実際に政策を経験された竹中さんのアダム・スミス論、ケインズ論を聞きたいんですと口説かれたとか。なるほど確かに、実務家としての現実感というか、バランス感覚の良さを強く感じました。
本書を通じて強く主張されているのは、経済思想とはその時代に応じた最適解なのだということです。理論構築当時における問題意識を知ること無しに、時代遅れだなんだといっても意味はないとして、各章(1)時代背景(2)人物像(3)理論のエッセンスの3パートから構成されています。
紹介されている経済学者は以下の通りです。
1章 アダム・スミス
2章 マルサス、リカード、マルクス
3章 ケインズ
4章 シュンペーター
5章 ハイエク、フリードマン、ブキャナン
なかでもマルサスとシュンペーターについては、経済学における位置づけが自分自身よくわかっていなかったため、目からうろこの思いでした。卒論が環境系のテーマだったため、マルサスの「人口論」についても一通りさらっていたのですが、コンテキストが全然わかってなかったなぁと、今になってちょっと恥ずかしく思ったり・・・(^^;
経済思想の主流を公平に取り上げているように見せつつ、実は結構恣意的な編集となっているような気もします。その点、アンチ竹中さんの方々にとってはあまり面白くないと感じられる本かもしれません。
本書のエッセンスは結局のところ2点。(1)「市場」による競争以上に効率を達成する手段は今のところ無い(2)ただし時代背景に応じた介入は必要。そのような立場を「モデレート・ケインジアン」と表現しています。
正直、経済学の理論闘争は宗教的でクラクラしてしまいそうなのですけれど、本書の主張は私にとって直感的に受け入れやすいものでした。企業勤めの経験があれば、ぴんと来る方が多いんじゃないですかね。象牙の塔の議論は真っ平だけど、経済思想の基本は押さえておきたいという方にお勧めの一冊です。
評価:★★★★☆
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