ファンタジーが嫌いというわけではないのですが、ミステリ+ファンタジーという組み合わせには少々胡散臭さを感じてしまいます。Amazonの紹介文では
透明感あふれる筆致で生と死の狭間を描いた、ファンタジックな寓話ミステリ。とありますが、前半部分はともかく本書を「ファンタジック」と表現するのは全く的外れというか、宣伝文としては逆効果じゃないでしょうか。
暴走族「ルート・ゼロ」三人のトップの一角を張りながらも、仲間から追われる身となる鬱屈した少年「高村昴(たかむらすばる)」。窮地を助けられた老紳士に連れられた先には、脳死状態でありながらも、機械的処置で身体活動を維持し続ける少女「葉月」が待っていました。
月明かりの元でのみ奇跡的に意識を取り戻す彼女は、昴に対してある依頼をします。自身の臓器を分け与える候補者を選び、届けてほしい。2章以降の各話は短編仕立てで、角膜、腎臓、心臓などの移植を望む患者達のエピソードが続きます。
なんといいますか、非人間的存在との報われない恋、というシチュエーションに私はとても弱いのです。回復不可能で徐々に身体を切り取られていく葉月は、もはや人間と呼べる存在ではありません。昴との仲が成就することも当然ありえません。
そもそも昴には別に彼女っぽい存在もいるのが、むしろ救いとなるでしょうか。片言でしか話せないクールな葉月と、何かにつけぶっきらぼうな昴の会話は、とても心温まるものとはいえませんが、その適度な距離感が何ともいえない余韻を引き出しています。
各話ではそれぞれに被移植者のエピソードが語られていきますが、本筋に絡んだ変化球がたくみに織り交ぜられているため、単調になることなく一気に読ませてくれます。それぞれの患者達が持つ悩みには、筆者のこの分野における思い入れが強く感じられます。
本書が筆者のデビュー作ということで、展開的に少々無理っぽいかなというところも見られなくはないのですが、それらを補って余りある迫力が本書にはあります。ユニークかつ秀逸な舞台設定に加え、登場人物たちの根底に見え隠れする優しさのかけらに、思わずほろっときてしまう作品です。
評価:★★★★☆
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