素晴らしい傑作でした。メイントリックは結構な大技です。フィデルマの苦い失敗もあり、単純なハッピーエンドでは終わらない後味の深さ。ラストの法廷シーンはペリー・メイスンシリーズのような緊迫感。うーん、素晴らしい・・・。上巻のレビューはこちらです。
時間に追われるフィデルマが、手がかりを求めて馬や船で各地を飛び回ります。世界が広がってなかなか面白いです。これらの地名も実在のものなんですかね。起こる事件が陰惨かつ残虐で、まさに巨悪と戦う印象を感じさせてくれます。
法廷シーンは実にお見事。フィデルマが精緻な論理と駆け引きで証人たちから真相を引き出していきます。ちょー私好みの展開です。それにしても、古代アイルランドの法意識の高さにはびっくりさせられます。まあ、あまりに現代的に感じられるのは現代人が書いてるからなのかもしれませんが、それだけにエンターテインメントとしては面白いです。
あえて難を挙げるとすれば、フィデルマの独り舞台が過ぎるという点でしょうか。もう少し検察側が頑張ってくれてもよかった気がしますが、今回は告発の内容が殺人事件の犯人に対してでなく、王国の責任という微妙なところだったのが影響したのかもしれません。
法廷シーンと並んで見ごたえのあるのはアクションシーンです。フィデルマ自身が腕の立つ武術使いということもあって、毎回立ち回りシーンが用意されているのですが、今回のフィデルマはここで決定的な失敗を犯してしまいます。このやりきれなさも、物語にしんみりとした重みを与えていたように思います。
翻訳1作目を読んだ時点では、ここまで私にフィットするシリーズだとは思っていませんでした。やはり本来の通り1作目から順番に翻訳していってほしかった気はします。もっとも、翻訳の質自体は文句なしです。難解な用語にも脚注でしっかり解説が入っています。
英語圏では大ヒットしている作品のようですし、日本でもやり方次第では化けそうな気がします。古代ケルトの皮をかぶってるのに、ストーリー展開がいかにも現代的というギャップが醸し出す妙な味わいが本書の一番の魅力だと思います。大ヒットしてほしいですが、そうするとハードカバーになってしまうのですかね。うーん、ファンとしては難しいところです。
評価:★★★★★
関連レビュー:
幼き子らよ、我がもとへ〈上〉(ピーター・トレメイン)
2010年9月28日火曜日
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